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解説「菩薩の生き方」第三十一回(6)

【本文】

 布施等のパーラミターは、後のものほど優れている。他の行ないのために、優れた行ないを捨ててはならない。ただしそれが実践規律を守るための行ないの堤防となる場合を除く。

【解説】

 六つのパーラミター、すなわち布施・戒・忍辱・精進・禅定・智慧という六段階の修行は、後ろのものほど優れているということですね。
 そしてこの六つのパーラミターも含め、一般に善といわれることや、仏教の教えで善と言われること、そしてその中にも様々なタイプ、レベルの教えがあるわけですが、より劣った行ない(たとえそれが善の範疇にあっても)のために、よりすぐれた行ないを捨ててはならない、それは本末転倒だよ、ということですね。
 そしてそのあとの「実践規律を守るための行いの堤防となる場合を除く」という言葉も加味して考えると、結局、シャーンティデーヴァが言いたいのは、いかに本質的に意味のある修行をするか、いかに善や修行といった観念を使いこなすか、ということを、何度も何度も、優しく説いているような気がしますね。
 つまり、教えや修行を示す言葉も観念なので、その固定的な概念にとらわれすぎてしまうと、逆により悪が増大したり、善が進まなかったりということがあります。しかし教えという観念は必要は必要なのです。あまりに「教えも観念だ」という観念にとらわれてしまうと、また別の失敗が起こります。
 だから「観念を使いこなす」ということが必要でしょうね。
 たとえば、「赤信号は渡ってはいけない」という観念を持っていた人がいます。この人が、重病人をおぶって、病院に運ぼうとしているとき、一刻を争う事態のとき、信号が赤だったとします。しかも車が全く通っていなかったとします。ここであなたは、信号が変わるのを待っているでしょうか? 当然、何が大事なのかを理解できているならば、車が来ないのを確認しつつ、ここで赤信号を渡って、病人を病院へ連れて行くでしょう。
 しかし逆に、普段から、車がビュンビュン通っていて、しかも別に病人を連れているときではないときも、「信号は観念だから」と言って信号無視をしまくる人がいたとしたら、この人はそのうち事故にあってしまうかもしれません。
 だから観念は必要なのです。しかしその観念がどういう意味を持っていて、どういうときには捨ててもいいのか、どういうときには決して捨ててはいけないのか、それを理解することが大事ですね。
 だから、教えという観念を忠実に守ろうとするまじめさと、その意味合いとケースバイケースにおける使い方を理解する柔軟な智慧の、両方が必要ですね。

 はい。これもまず、文章だけを読むとちょっと分かりにくいんですけども、全体的なこの意味を見てみると――あ、まずね、全体の意味を見る前にちょっと各論から言うと、一番最初に出てくる「六つのパーラミターは、後のものほど優れている。」――これは正確に言うと、のちのものほど優れているというよりも、のちのものに向かって、まあ、なんていうか、成熟していくというか。で、逆の言い方をすると、あとのものは前のものがないとできないと。うん。そういう段階的な教えです。
 例えば簡潔に言うと、智慧を得るには瞑想がなきゃ駄目であると。でも普通、瞑想はなかなか入れないですと。うん。それはその前の精進が足りてない。つまりいろんな意味で修行や教えの実践をあなたは頑張ってやってますかと。日々の教えの実践、あるいはさまざまな修行を精進してると、自然に瞑想に入れるようになります。あなたは精進足りませんねと。いや、でもわたし、精進はなかなかできないんですと。怠けてしまうんですと。あなた忍辱してないでしょと(笑)。忍辱がある程度達成されてやっと本気で「やるぞ」という気持ちが出てくる。その前に忍辱の訓練をしっかりしなさいと。いや、忍辱できないんですと。
 忍辱できない――これは二つあります。忍辱できないという人。もう一つは忍辱のチャンスがないという人。どちらもその前の布施とか持戒が足りない。つまり布施や持戒をしっかり守ることによって、強い心を培うベースができるんだね。布施をしないと徳もない。持戒を守ってないと、もうちゃらんぽらんに生きてると、当然心は弱くなる。布施して、持戒を守り、それでやっと強い心のベースができる、っていうのが一つ。
 で、もう一つは、そのカルマ落としが来ないっていうのも同じで。これもいつも言ってるように、布施をすることで徳が積まれ、で、戒を守ることでその徳が漏れなくなる。これによってその人の、なんていうかな、内的な、聖なるっていうか良いエネルギー、徳のエネルギーが増大して、で、逆に悪業が落ちなきゃいけなくなるんです。このプロセスによって、バーッて、さっき言ったようなカルマが落ちるような状況が起きると。でもそれが起きないということは、まだ徳も戒も足りないんだと。だから布施をして戒を守んなきゃいけない。
 はい。あるいはそもそも戒律わたし守れないんですと。それは布施が足りないと。布施をしてしっかり徳を積むことによって守れるようになりますよと。こういう感じで段階的だっていうのが一つあるね。
 はい。ただこの六つのパーラミターもそうだし、ほかの修行もそうだけど、実際には段階的といっても、ケースバイケースで、実は今はこっちの方が大事だとかね、そういうのは出てくるけどね。だから、ちょっと話の総論に入るけども、総論としては、この六つのパーラミターも含めて、あるいは一切の修行とか教えも含めて、いかに本質的に意味のある修行をするか、いかに善や修行といった観念を使いこなすか。
 一番最初は教えとか修行がよく分からない。だからもう徹底的にというか、どんどんどんどん教えを学んで入れてく段階が当然あっていいんですけど。だんだんその深い意味合いとかがだんだん分かってくる。そうすると、つまり、何度も言うように教えも観念ですから。教えっていうのはもちろん、われわれを真理に導く道具ですから。真理そのものではない。お釈迦様は対機説法、あるいは方便とか言ってますけども。方便っていうのはもちろん嘘っていう意味じゃなくて、いろんな条件が今合わさっている、ここにおいて最高の教え。これが対機説法であって、方便なんだね。だからそれは条件が変わるといろいろ変わってくると。でも教えの一つ一つの意味が分かっていないと、それが、今どっちを取ったらいいか――つまりさ、ぶつかんないときはいいんですよ。ぶつかんないときは、当然全部教え、教え、で行けばいい。でも状況によって教えと教えがぶつかるときがあるわけだね。こっちの教えではこう言ってるけど、こっちではこう言ってる。今の状況、どっちを取ったらいいか? みたいな。そのようなときは、教えの深い意味を考えれば分かってくるんだね。だから最後の方にも書いてあるけど、ベースには真面目に教えを守ろうとする心が必要です。
 つまりなんでそういうこと言っているのかっていうと、これも何度か言ってるけど、大乗仏教とか密教が堕落したその原因は、この部分を間違ってとらえちゃったからです。うん。つまり大乗仏教とか密教の高度な世界になってくると、教えも観念だよってなって、言ってみれば何やってもいいんだみたいな世界になってくる。うん。そうするとまだ煩悩があってけがれてて教えも理解してない人が何やってもいいんだってなって悪業積んで地獄に落ちるとかね。うん。これは駄目なわけだね。だからベースには教えっていうのがわれわれを高い世界に導き、苦しみから解放してくれるものだから。真面目に、コツコツと、教えどおり観念的に生きるっていうそのベースが必要なんです。そのベースの上にちゃんと修行や教学ができてくると、その教えの深い意味が分かってくるんだね。この場合は教えではこうなってるけどこれは捨てていいとかが出てくるんだね。
 いい例えとしてはさ、いくつかあるけど、例えば、何度も言ってるけど、強盗というか悪人が、聖者のことを殺そうと思って追いかけてきたと。追いかけてきて、聖者はあっちに行ったと。で、悪人が来て、「あの聖者どこ行った?」――で、ここで、嘘をついてはいけないっていうその(笑)、教えにとらわれ過ぎると、「うう……あっちです!」とか本当のことを言ってしまうと。そうするとその悪人は聖者を追っかけていって殺しちゃうかもしれない。で、いろんな聖典とかではこれを、最悪の口の悪業といってます。うん。「でもそれ正直じゃん! 嘘言ってないじゃん!」って思うかもしれないけど、その人の言葉によって聖者が殺されるわけだから。これは悪業なんです。この場合の正解は嘘をつくことなんです(笑)。「あっちですよ」と嘘を教える。これ正解です。これを言った人の喉のチャクラは超浄化されます(笑)。普通だったら嘘をつくと喉のチャクラはけがれますと。しかしこの嘘は素晴らしい浄化を生みます。だからそこを、そういうことをさ、追求しているのが密教の世界なんだね。
 ただ、密教は、繰り返すけど、間違うと危ないです。うん。つまり、まあ例えば嘘についてもそうですけどね。嘘って悪業の中であんまりシリアスじゃないから、嘘をちょっと取り上げるとね、もし嘘をついて、相手の、誰かの修行が進むんだったら、これ、最高の嘘です。でもそう思ってついたけど、進まない場合もあるかもしれない(笑)。ね。あるいはそれが自分の、なんていうかな、これは教えにのっとった嘘だと思っていても、実はのっとっていないかもしれない。ダルマから外れている場合があるんだね。そうなると逆に大悪業になります。だから怖いんだね。だからベースとしては、繰り返すけど、真面目に、教えどおり、つまり今ので言ったら嘘は絶対についてはいけない。これは守った方がいい。でも、繰り返すけど、教えをしっかり理解した上で、本当に迷いなく、あるいはもちろんグルがいる場合はグルに聞いてもいいんですけど。これ、こういう条件だけども、これ一般的に悪業といわれているけども、でもこっちを満たすためにこっちを捨てていいでしょうかと。それが明らかにオッケーの場合はオッケーなんだね。
 また別の、分かりやすいパターンで言うとさ、これもよく出る話で、お酒ね。酒。酒は例えば仏教では、戒律で駄目ですよといってる。で、これはみんな酒は飲まないようにしましょうと。でも例えば密教とか、ミラレーパとかは――なんで酒が駄目なのかというと、いろんな意味があるけどさ、つまり酒の力によって、アストラルがちょっとかき乱され、いろんな悪業が心の中に出てくる。実際に酒の力で悪業犯しちゃう人もいるだろうし、犯さないまでも、心がちょっと乱れた状態になってしまう。アストラルがね。だから瞑想には良くない状態になるし。あるいは、そうだな、眠っていた心のけがれとかが噴き出すかもしれない。あるいは別パターンで言うと、医学的にも、ある程度のアルコールによって、脳細胞がね、何万個か破壊されるとかよくいうけども、つまり無智のカルマが強まると。つまりいろんな意味で修行にマイナスな面がアルコールにあるわけですね。しかしもしここに、もうそういうのを超越している人がいたとしたら――修行によってね。修行によって酒の影響をあんまり受けないと。そして、例えばトゥモとか、つまりクンダリニーの修行をするために、まあミラレーパなんかそうだったわけだけど、熱エネルギーの材料として酒を取り入れると。ね(笑)。うん。自分は全然悪影響は受けないと。この場合は別に、それはマイナスではないってなるよね。
 ミラレーパの話はみんな知ってると思うけど、ミラレーパは山の中で、もう食うものも食わず、そこら辺に生えている雑草を食って、ひたすら修行をしてたわけだね。それによってもう、体のエネルギーシステムはほぼ完成と。でも何も起きない。うん。体はガリガリで。実はシステムは完成しているんだけど、なんの経験もない。こんだけ修行して何もない、何も起きないと。つまりエネルギー不足。ね(笑)。そこにミラレーパの妹と元婚約者が現われて、お布施をしたわけですね。その布施が、肉と酒。一般的には生臭なものですよね、肉と酒って(笑)。しかしそれは肉も酒もどっちも熱エネルギーの源になるから。肉と酒を食べてブワーッてエネルギーが発生して。システムは完璧だから。ね(笑)。あとエネルギーだけだったから。それによってミラレーパは偉大な経験をなしたと。この場合は全くオッケーですよね。
 だからそういう感じで――まあ、あるいは悪とかじゃなくとも、今この修行をしてるんだけど、でもこっちの修行をするにはこれは今やんなくていいとかね。まあ、いろんなパターンがあるわけですね。修行だけじゃないけど、いろんな実践において。つまり繰り返すけどさ、何を言ってんのかというと、われわれはもちろん、自分のことに関して言えば、自分の悪業を浄化し、悪い心を捨て、聖なる、あるいは愛に満ちた、あるいは智慧に満ちた心と存在に自分を変えていかなきゃいけないわけだね。あるいは帰依という点で言ったら、グルや神のご意思にのっとり、その道具として、あるいはしもべとして弟子として恥ずかしくない状態をつくっていかなきゃいけない。あるいは菩薩道という点で言ったら、実際に衆生への偽りのない四無量心を持ち、そして具体的にほんとに、人々にいい影響を与えられるような存在になっていかなきゃいけない。その人の修行道にもよるけども、例えばカイラスのみんなでいったら、言ってみればこの三つ。今、代表的に三つ挙げたのがポイントですね。自分の修行をいかに進めるか、バクティとか帰依の道をいかに高めるか、そして菩薩道、具体的に実際に人を救うっていうことも含めて、菩薩の道をいかに高めるか。それなんです。それだけなんです。それにプラスのことは全部オッケー。マイナスのことは全部駄目っていうだけなんだね。
 で、その基本的な枠組みとして教えがある。でも今言った観点から言うならば、教えは全部観念ですから。ケースによっては、ある教えは今やんなくてもいいとかね。ケースによっては、その目的を達成するためには、普通はこれやっちゃいけないってことだけども、この場合はここでやった方がいいっていうのも出てくるわけだね。だからそういう柔軟な心を持ってないといけない。しかし繰り返すけど、歴史上多くの人が誤った過ちに陥らないように――「エゴ入ってないかな?」って考えた方がいいね。これは、こっちを取っていいだろうって思ったけどそれエゴじゃないかと(笑)。エゴ入ってると思ったらちょっと気を付けて。それは悪業になるかもしれないから。でも基本的には、繰り返すけど――ここで「優れた行ない」って書いてあるけども、つまり、より本質的な、自分と衆生の利益になることを取り続けなさいということですね。

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