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ジャータカ・マーラー(9)「ヴィシュヴァンタラ王子」②

「一体何があったというのだ?」

 王に尋ねられて、彼らは言いました。
「王さま、あなたはご存じないのですか。
 あなたの勝利の象徴であり、敵国の王どもが恐れるあの偉大なるゾウの王を、ヴィシュヴァンタラ王子は、よその国の者に布施してしまったのです。
 王さま、我が国に勝利をもたらす女神のようなあのゾウを布施するとは、明らかに行き過ぎです。
 このような政治の邪道に、王の栄光がどうして伴うでしょうか。王さま。このことを許しておくことは、あなたにとってふさわしいことではありません。これはやがてあなたの敵たちを喜ばせることになりましょう。」

 王はこの民衆の言葉を聞いて、ヴィシュヴァンタラ王子への愛着ゆえに、いくらか不快な思いを持ちつつも、王としての義務に忠実なるがゆえに、「その通りだ」と言ってなだめながら、民衆に言いました。

「ヴィシュヴァンタラ王子が布施の愛好におぼれていること、そして政治的手段をかえりみないことを、私は知っている。そしてこれは、国政に当たる者としては、不適当な行為であったことも間違いない。
 しかし、王子が一度、吐き捨てたもののように与えてしまったものを、誰が取り戻すだろうか。
 私は、ヴィシュヴァンタラ王子が布施についての適量を理解するような方策をとるだろう。だからこの件については、もう怒りをおさめなさい。」

 しかしシビ族の民衆たちは答えました。
「大王さま。このことについてとがめただけで、ヴィシュヴァンタラ王子の行き過ぎた布施行が、治るとは思いません。」

 王は答えました。
「それなら、私はどうすればいいというのだ。
 王子は徳に執着し、罪悪行為には一切背を向けている。そして彼は私の息子である。だから、彼を捕縛したり死刑にすることなどはできるはずがない。
 それゆえに、君たちは怒りを鎮めたまえ。私はこれから、ヴィシュヴァンタラ王子に、そのような過度な布施はさせないようにしよう。」

 しかしシビ族の民衆は、ますます怒りを増大させて、王に言いました。
「ヴィシュヴァンタラ王子の殺害や捕縛やむち打ちなどを、誰が望むでしょうか。
 しかし、ヴィシュヴァンタラ王子は徳の高い人格であって、慈悲と柔和さのゆえに、王としての統治の責任に耐えうる人ではありません。
 法・実利・愛欲の三つの徳の実行に長ける人こそが、王の座に就くべきです。法のみを溺愛するが故に政策をかえりみないヴィシュヴァンタラ王子のような方は、苦行林に住むことこそ適しています。
 ヴィシュヴァンタラ王子を放っておくならば、大王にも、民衆にも、障害をもたらすでしょう。我々はそれに耐えることができますが、王さまが破滅することに、われわれは耐えることはできません。
 よって、ヴィシュヴァンタラ王子は、仙人たちがよく行くヴァンカ山へと行くべきであります。」

 さて、王に対して愛情と尊敬を持ち、王のためを思うが故のこのような厳しい民衆の言葉を聞いて、王は、息子との別離の思いに心を痛め、悩んで深く嘆息しつつ、シビ族の民衆たちに言いました。

「もしこれが君たちの心からの要求であるならば、一昼夜だけでも彼を許せよ。そして明日の夜明けになれば、君たちの望むところをかなえるであろう。」

 民衆がそれを了承したので、王は侍者に命じました。
「行け、そしてこの事情をヴィシュヴァンタラに告げよ。」

つづく

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