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「リッシャシュリンガ」

(25)リッシャシュリンガ

 アルジュナが神の武器を求めて出かけてからしばらく後、ローマシャという名の聖者が、パーンドゥ兄弟のところにやってきました。ローマシャはユディシュティラに、大勢の従者を連れてあちこちと動き回るのは容易ではないから、従者の数を最小限に減らしてはどうかと勧告しました。かねてからその困難さを感じていたユディシュティラは、従者たちに対し、貧しくてつらく苦しい生活にあまり慣れていない者は、ドリタラーシュトラ王のところへ行ってもいいし、あるいはドルパダ王のところへ行ってもいいと告げました。

 こうして大幅に数の減った従者とともに、パーンドゥ一族は、聖地巡礼の旅に出、その場所ごとに、聖地にまつわる話を、聖者たちから聞いたのでした。

 たとえばある聖地に来たとき、ローマシャは、パーンドゥ一族に、その場所にまつわるリッシャシュリンガの話をしました。それは次のような話でした。

 その昔、ヴィバーンダカという聖者が、リッシャシュリンガという息子と一緒に、森に住んで修行していました。リッシャシュリンガは、男であろうと女であろうと、父親以外の人間をまだ一度も見たことも聞いたこともありませんでした。

 あるとき、アンガという国が飢饉に襲われ、人々は苦しんでいました。雨不足で穀物は枯れ、食糧不足で多くの人々が死んでいきました。
 国王のローマパーダがブラーフマナたちに助言を求めると、ブラーフマナたちは言いました。
「王よ。聖者ヴィバーンダカの息子で、リッシャシュリンガという名のけがれなき青年がいます。彼をこの王国に招きなさい。苦行によって彼は、どこにでも雨と豊作をもたらす力を持っているのです。」

 しかし厳格な聖者ヴィバーンダカが、リッシャシュリンガを連れてくることを許すとは思えません、そこで王は大臣たちとともに、いかにしてリッシャシュリンガをつれてくるかという会議をしました。そして、魅力的な遊女たちにその任務を託すことにしたのです。

 遊女たちは、なんとしてでもリッシャシュリンガを連れてこいという王の命令を受けて、途方にくれてしまいました。なぜなら、聖者ヴィバーンダカの怒りを恐れたからです。かといって、王の命令に背くわけにもいきません。とうとう彼女たちは心を決め、計画を立ててリッシャシュリンガのもとへと向かいました。

 遊女のリーダーが、恐る恐る聖者の草庵を訪れると、ちょうど聖者ヴィバーンダカは外出中で、リッシャシュリンガ一人しかいませんでした。遊女はこれ幸いとばかりにリッシャシュリンガに近づき、挨拶の言葉を交わしました。
 リッシャシュリンガは、父のヴィバーンダカ以外の人間を見るのは初めてでした。性的なことも何も知らず、男女の違いさえ知りませんでした。しかしその遊女の美しい容姿を見、美しい声を聞いた瞬間、過去生からの悪しき習性がよみがえってしまい、異性に対する欲求が動き出してしまったのでした。しかしリッシャシュリンガ自身は、それがどういう感情・煩悩なのか、自分で理解できていませんでした。そのためリッシャシュリンガは、この遊女を自分と同じような若き聖者であると考え、自分に沸いてきた感情は、聖者に対する憧れ・愛情の感情なのだと勘違いしてしまいました。

 遊女は、これは私たちの挨拶のやり方なのだと嘘をついて、リッシャシュリンガを優しく抱きしめました。リッシャシュリンガは、
「ああ、なんて気持ちのよい挨拶のしかたなんだろう」
と思いました。
 そして遊女はリッシャシュリンガの体を花輪で飾り、お菓子や酒を勧めました。

 まもなくして、聖者ヴィバーンダカの帰宅を恐れた遊女は、そろそろ修行の時間なので帰らなくてはいけないと言って、草庵を抜け出していきました。

 聖者ヴィバーンダカは、草庵に帰ってきて驚きました。というのは、草庵の中は掃除もされず、お菓子が散らばっていたからです。リッシャシュリンガの顔にはいつもの輝きがなく、どんよりしていて、激情の嵐にかき乱されたかのようでした。草庵でやらなければならないいつもの簡単な務めさえ忘れられていました。

 ヴィバーンダカはいささか当惑して、息子に尋ねました。
「お前は聖なる薪をまだ集めてきていないようだが、いったいどうしたのかね? 乳牛の乳は搾ったかい? 
 誰かがここにやってきたんだね? 誰がこんな変な花輪をお前にくれたんだ? どうしてそんな浮かぬ顔をしているんだ?」

 無邪気で正直なリッシャシュリンガは、こう答えました。
「すばらしく美しい姿をした一人の若き修行者がここに来られました。その方の立派さと声の美しさは言葉では言い表わせません。その方の声を聞き、その方の目を見ただけで、私の胸のうちはなんともいえぬ楽しさといとおしさでいっぱいになってしまいました。その方が私を抱擁されたとき――それがその方の挨拶のやり方だそうですが――私はいまだかつて味わったことがないほどの強い喜びを経験いたしました。」

 こう言うと、リッシャシュリンガはさらに詳しく、その訪問客の美しさについて、父親に詳しく説明しました。そしてさらにこう言い足しました。

「私の身体は、あの若き修行者と一緒にいたいという思いで、熱くなっています。私は行ってあの方を探し出し、何とかここにお連れしたいと思います。あの方の信仰深さやすばらしさを、父上にどうやって説明したらよいでしょう。私の胸は、あの方と会いたいという思いでいっぱいなのです。」

 リッシャシュリンガが、今までとは別人のようになってこのように述べたとき、聖者ヴィバーンダカは、何が起こったのかをすべて察しました。そしてリッシャシュリンガに言いました。

「息子よ。お前の見たのは若い修行者ではなく、よくあることだが、われわれをだまし、われわれの修行を妨げようとする悪魔だったのだよ。やつらは目的を遂げるためには、あの手この手を使ってくる。これからはやつらを近づけてはいけないよ。」

 
 しかし数日後、ヴィバーンダカの留守を見計らって、再びあの遊女が草庵にやってきました。リッシャシュリンガは遊女の姿を見ると、大喜びで近づき、挨拶を交わしました。
 遊女は自分の修行場だと言って、ある場所にリッシャシュリンガを誘いました。しかし実はそこは、巨大な船の上に人工的に森林を作った、偽の修行場だったのです。そうとは知らず、リッシャシュリンガはその船に乗せられ、いつの間にかアンガ国へと連れ去られてしまったのでした。

 アンガ国にリッシャシュリンガが到着したのを知って、ローマパーダ王は大いに喜び、彼を特別な部屋に案内しました。ブラーフマナが言っていたように、リッシャシュリンガがこの国に足を踏み入れたとたん、雨が降り始め、川や湖は満水となり、人々は狂喜しました。

 大喜びしたローマパーダ王は、娘のシャーンター姫をリッシャシュリンガに与え、結婚させました。

 一方、息子がいないのに気づいた聖者ヴィバーンダカは、リッシャシュリンガをあちこち探し回りました。とうとうアンガ国にやってきたヴィバーンタカは、すべての事情を知って最初は怒り心頭でしたが、心を鎮め、ローマパーダ王を祝福すると、リッシャシュリンガにこう言いました。

「息子よ。この王の喜ぶようなことをしてあげるがいい。しかし跡継ぎとなる男の子が一人生まれたら、また森のわしのところへ戻ってくるのじゃぞ。」

 そして実際にリッシャシュリンガとシャーンターの間に男の子が一人生まれた後、リッシャシュリンガはシャーンターとともに、アンガ国の城を出て、森へ帰り、聖なる修行者の生活に戻ったのでした。

  

 このような物語を話した後、聖者ローマシャは、ユディシュティラに次のように言って、話を締めくくりました。
「そなたとドラウパディーの場合と同じように、リッシャシュリンガとシャーンターも、時が来ると森に隠棲し、神を礼拝して生涯をすごした。ここがそのリッシャシュリンガの隠遁所だったところなのだ。さあ、ここの水で沐浴して、身を清めるがいい。」

 パーンドゥ一家はそこで沐浴をし、神に祈りをささげたのでした。

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