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アディヤートマ・ラーマーヤナ(22)「ダシャラタ王の死」

第七章 ダシャラタ王の死

◎スマントラの帰還とその後

 さて、スマントラは、日が暮れる前にアヨーディヤーに戻ってきた。彼は眼から溢れる涙を隠すために、布で顔を覆っていた。馬車を外にとめ、彼はダシャラタ王に会いに宮殿へ行った。彼は王に恭しく挨拶し、礼拝した。
 スマントラに対して、ダシャラタ王は悲しみに心を取り乱してこう言った。

「おお、スマントラよ! ラーマはシーターとラクシュマナと共に、どこに暮らしているのだ? お前は彼らとどこで別れたのだ? ラーマとシーターとラクシュマナは、冷酷な罪人である私に何か伝言を残してくれたか?
 おお、徳高きラーマよ! おお、愛しきシーターよ! お前たちは悲しみの海に沈んで今にも死にそうな私に会いに来てくれないのか!」

 彼は長い間このように嘆き、完全に悲しみに飲まれてしまった。このように哀れに泣いている彼に対して、大臣はこう言った。

「私は御身の馬車に乗ったラーマ様とシーター様とラクシュマナ様を、シュリンギヴェーラの町があるガンガーの岸までお連れしました。
 そこでグハ王は彼に果物と根を供養しました。ラーマ様は大変喜ばれてそれらを受け入れて、御手でそれらに触れられたのですが、何も召し上がりませんでした。
 あのラグ族の偉大なる王子は、グハ王にバンヤン樹の樹液を取って来るように頼まれました。それを使って、彼は頭の上で髪の毛を王冠のようにもつれされて、結いました。それから、彼は私に御自分の意思でこう仰いました。

『ああ、スマントラよ! 次のように王に伝言をお願いいたします。どうか、私のために気を落とさないでください。われわれはアヨーディヤーで暮らすより幸せに森で暮らしましょう、と。
 母上によろしくお伝えください。彼女に私が理由で生じた悲しみをすべて捨てさせてください。そして悲しみに打ち沈んだ父王を慰めてあげてください。』

 次にシーター様が眼に涙を溢れさせ、悲しみで言葉を詰まらせてラーマ様に一瞥を投げかけながらこう仰いました。

『私の義父と義母に、どうぞ私の完全なる礼拝をお伝えください!』

 シーター様は顔をうつむかせながらそう仰りました。
 そして、彼らは涙を流しながら舟に乗り込み、私は彼らがガンガーを渡るまで彼らを見送ったのです。その後、悲しみで重くなった心持ちで、私はこの場所にやって来たのです。」

 すると次にカウサリヤーが、眼に涙を浮かべながら、このように王に言った。

「あなたの愛する妻カイケーイーに対する愛著から、あなたは彼女に恩寵を授けられました。それに従って、王国を彼女の息子にあげてください。しかし、なぜ私の息子が森へ追放されなければならなかったのですか?
 現状に対する責任は、あなたにありました。なのに、なぜそのようにずっと嘆き悲しんでおられるのですか?」

 カウサリヤーのこれらの言葉は、王に、化膿した傷に炎が触れたような苦しみを与えた。そして再び眼から涙を溢れさせて、彼はこのようにカウサリヤーに言った。

「なにゆえにお前は、悲しみで今にも死にそうな私に、さらなる悲しみを与えるのか。私のプラーナは今にもきっと離れていくに違いない。このすべては、私の軽率な行動からかけられた、聖者の呪いの影響によるものである。」

◎ダシャラタにかけられたムニの呪い

 私が若き頃のこと、私はあるとき夜に弓矢を持って、河岸の深い森の近くで狩りをしていた。
 深夜に聖者が、自分と彼の両親の喉の渇きを癒すために河に水を汲みに来た。彼は水差しを水に浸し、ゴボゴボという音をたてた。その暗い夜に何も見えない中で、私はその音を聞き、象が水を飲んでいるのだと思った。そして私はその音のする方向に矢を放ち、見もせずにその標的に矢を当てたのだ。

『ああ! 死んでしまう!』

 その方向から人間の声が聞こえてきた。その声はさらにこう言った。

『私は誰にも危害を加えていない。おお、神よ! 誰が私を殺すのでありましょうか? 私の父と母はとても喉を渇かしながら私の帰りを待っています。』

 この人間から発された言葉を聞いて、私は恐怖で震えた。私は矢に撃たれた人に近づいて行き、こう言った。

『おお、聖なる御方よ! 私はダシャラタであります。私は標的の正体に気付かずに矢を放ってしまいました。おお、聖者よ、どうかお許しください。』

 私は声は詰まらせてこう言い、彼の足もとに倒れ込んだ。そこで聖者はこう仰った。

『おお、王よ! 恐れることはありませぬ。
 あなたはブラフマハッチャの罪は受けないでしょう。私は苦行に従事するただのヴァイシャであります。私の両親は空腹と喉の渇きに襲われながら、私の帰りを待っています。
 彼らにいくらかの水を持っていってあげてください。無駄な思考で時間を無駄にしてはいけません。それはすぐに為されなければなりません。そうしなければ、私の父は怒って、あなたを灰にしてしまうかもしれません。彼らに飲むための水をあげ、彼らの前にひれ伏し、何が起こったのかを彼らに知らせるのです。
 それでは、大いなる苦しみの中にある私が、ただちに死ぬことができるように、この身体から矢を抜きとってください。』

 聖者のそのような言葉を聞いて、私はすぐに矢を抜き取り、手に水入りの瓶を持って聖者とその妻の元へと向かった。
 私は、たいそう年老いて、盲目で、非常なる空腹と喉の渇きに苦しんでいる彼らを見つけた。彼らは『息子はまだ水を持ってこない。どうしたのであろうか? あのように敬虔な息子が、年老いて、喉を渇かせ、あの子以外に支えのない哀れなわれわれのような両親を見捨てることがあろうか?』というような思いで頭がいっぱいであった。そのような悲嘆に暮れた思いに悩まされているときに、彼らは私の足音を聞いたのだった。そしてその父はこう言った。

『おお、わが息子よ! どうして遅れたのだね? さあ、われわれにおいしい水をおくれ。そしてお前もその水を飲みなさい。』

 このように話していた彼らに向かって、私はゆっくり歩み寄り、ひれ伏すると、謙虚にこう言ったのだ。

『私はあなた方の息子ではありませぬ。私はアヨーディヤーの王ダシャラタであります。
 この罪深い輩は狩猟に夢中になり、夜中に動物を殺しておりました。私が水源から少し離れたところでたむろしていると、ゴボゴボという水の音が聞こえてきました。それを動物が暗闇の中で水を飲んでいるのだと勘違いし、私はその音が指し示す方向へ矢を放ちました。すると私は「ああ! 死んでしまう!」という叫び声を聞いたのです。それに恐怖しながら、私はその場所へと向かいました。
 そして私はそこで、ジャータの髪をした若い聖者が倒れているのを見たのです。
 それを見て恐ろしくなり、私は彼の足もとに跪くと、許してくれるよう祈りました。
 その若い聖者はこう言いました。

「ブラフマハッチャの罪について恐れることはありませぬ。私の両親に飲み水を持っていってあげてください。彼らに命を乞うて祈るのです。」

 若い聖者からこのように指示を受け、この聖なる人を殺した者はあなたのもとにやって参りました。どうかあなたの御足に避難所を求める私に、慈悲をお垂れください。』

 この理由を聞くや否や、彼らは忍びがたい悲しみに襲われた。彼らは嘆きと悲しみを表にあらわしたのだった。彼らはさまざまに悲しみを吐き出し、地面に倒れた。それから彼らは私にこう言った。

『われわれの息子が倒れている場所に、われわれを連れていってください。』

 そして私は彼らを、彼らの息子が横たわって死んでいるところへと連れて行った。その二人の夫婦は、手でその生気のない身体に触れ、さまざまに彼の死んだ息子を嘆き悲しんだのだった。
 彼らはこう言った。

『ああ、われらの息子よ! われらの息子よ! われわれに水をおくれ。お前はなぜこんなに遅かったのか?』

 そして私の方を振り向くと、彼らはこう言った。

『おお、王よ! すぐに火葬用の薪を用意してください。』

 私は彼らの指示に従ってそれを用意し、そこに三人の身体を置き、彼らが望んだ通りに、その薪に火を点けた。彼らの身体は焼けて、彼らは天へと召された。
 しかし老いた聖者は、死ぬ前に私にこのように呪いをかけたのだ。

『われわれと同じ運命があなたにも降りかかるだろう。あなたの死は、あなたの息子と結び付いた悲しみを理由として起こるであろう。』

 いかなる方法によっても防ぎ得ないその呪いは、今、効き始めた。」

 そう言うと王はさまざまに、嘆き悲しみに耽ったのだった。

◎バラタの帰還とカイケーイーとの対立

 ダシャラタ王はこう言った。

「おお、ラーマよ! わが息子よ! おお、シーターよ! おお、徳高きラクシュマナよ! 私はお前たちとの別離のために、もうすぐ死ぬであろう。私は私からお前たちを引き離したカイケーイーのせいで、今、死と向かい合っている。」

 そう言うと、ダシャラタは息を引き取り、天へと召されたのだった。そしてカウサリヤーとスミトラ―と他の宮殿の女たちはひどく嘆き、泣き始めた。
 その朝早くに、ヴァシシュタが、他の大臣たちと共に宮殿にやって来た。
 彼らはダシャラタの亡骸を防腐のためにオイルで満たした器に浸した。それから彼らは王室の大臣たちを呼び、彼らにこう言った。

「馬に乗って、速やかにユダジット王の都へと行きなさい。
 気高きバラタ王子はシャトルグナと共に今そこに滞在しておられる。彼にただちに帰って来てほしいという旨を伝えてくれ。
 アヨーディヤーに来たら、彼らは王とカイケーイーに至急に会わなければならない。」

 このように指示を受けると、使者は速やかにバラタの叔父であるユダジットの都に到着した。そして彼らはバラタとシャトルグナにこう言った。

「バラタ様、シャトルグナ様と共に、一刻の猶予もなしに、至急アヨーディヤ―の都にお帰りください。聖仙ヴァシシュタ様から御身らに、このようにお伝えするよう御命令いただきました。」

 バラタはグルのこのような指示を聞いて非常に動揺した。しかしその指示に従って、彼は王かラーマに何か危難が起こったに違いないと道中ずっと恐れながら、ただちにシャトルグナとその使者と共にアヨーディヤ―に向かったのであった。
 陰気に包まれ、人けがなく、装飾の一切ないアヨーディヤーの都を見て、バラタはさらにはっきりとしない恐怖でいっぱいになった。ただちに彼は、王家の壮観を何も感じられない宮殿へと向かった。そこで彼は、一人で座っているカイケーイーを見つけ、母である彼女に敬虔な礼拝を捧げたのだった。
 バラタの到着は、カイケーイーを息子への愛から湧き出る精神的な興奮で満たした。彼女は座からただちに立ち上がると、彼を抱きしめ、彼を膝の上に座らせた。
 彼女は息子の頭頂の臭いを嗅ぐと、本国の人々――彼女の父、兄弟、愛しい母――の幸福について彼に尋ねた。それから彼女は彼の帰還にまみえることができた大きな喜びを彼に述べたのだった。それらの母の言葉に心の中で落胆すると、バラタは大きな悲しみに心を動かされ、母であるカイケーイーにこう尋ねた。

「ああ、母上よ! わが父君は何処でありますか? 私はここであなたとしか会っておりません。あなたなしに一人でお座りになられるのは、わが父君の習慣では決してなかったはずです。私は今ここで彼とまみえておりません。彼は何処でありますか? どうか父王がどこにおられるのかを教えてください。
 私は父君にまみえていないことについて、深く案じております。そして私の心は、それが理由で悲しみと恐怖でいっぱいなのです。」

 それからカイケーイーは彼にこう言った。

「ああ、徳高き愛する息子よ! あなたの悲しみには何の用途がありましょうか? あなたの父は、アシュワメーダのような偉大な儀礼を行なってきた一切の誠実なる方々と同じ運命を辿られたのよ。」

 この言葉を聞いて、バラタは悲しみに打ちひしがれて地面に倒れると、このように嘆いた。

「ああ、わが父君よ! あなたは私を悲しみの海に投げ捨てて、何処へ行ってしまわれたのですか? あなたは私を誠実なる王ラーマ様に託して、何処へ行ってしまわれたのですか?」

 そしてカイケーイーは、ひどく興奮して髪を乱して床に横たわっている息子を抱え起こした。彼女は彼の眼を拭うと、彼にこう言った。

「安心なさい。すべてがよくなるでしょう。私はあなたのためにすべてのものを手に入れました。」

 バラタはそこで彼女にこう尋ねた。

「父上は死に際に何と言っておりましたか?」

 カイケーイーは何も気を遣うことなくこう答えた。

「彼は『おお、ラーマよ! おお、シーターよ! おお、ラクシュマナよ!』と言いながら、ずっと嘆いていました。何度も何度もこのように嘆き悲しんだ後、彼は肉体を捨て、天へと召されたのです。」

 それからバラタは彼女にこう言った。

「ああ、母上よ! ならばラーマ様とシーター様とラクシュマナはどこにいたのですか? 彼らは父のおそばにいなかったのですか? それともどこかに行っていたのですか?」
 
 カイケーイーはこう答えた。

「あなたの父は、ラーマをユヴァラージャとして即位させるための準備を急いでいました。私は、王国をあなたのものとするために、その準備を邪魔したのです。
 心の広い王は昔、私に二つの恩寵を授けてくださいました。私はその願いを叶えてくださるように彼に求めたのです。その一つ目の願いによって、私はあなたのために王国のすべてを手に入れました。そしてもう一つによって、私はラーマを苦行生活を送らせるために森へ追放したのです。それに従って、王であるあなたの父は王国をあなたに譲り、そしてラーマには森を与えられたのです。シーターは正妻のダルマに従って、森へ行く彼について行く道を選びました。そしてラクシュマナも、彼の兄への愛に駆り立てられて、そのようにしたのです。彼らが旅立った後、王はラーマの御名を叫びながら、ずっと嘆き悲しみ続け、ついには亡くなられたのです。」

 母のそのような言葉を聞くと、バラタはまるで鋭利な武器で突き刺されたかのように、意識を失って床に倒れた。カイケーイーはそのような息子を見ると悲しみに打ち沈んで、再びこう言った。

「おお、愛しき息子よ! あなたはなぜそのように悲しみに打ちひしがれているの?
 この大いなる王国があなたの手に入った今、どこに悲しむ理由がありましょうか?」

 そのような母の言葉を聞くと、バラタはまるで彼女を焼き尽くそうとするかのように、燃えるような赤々とした目つきで彼女にこう言った。

「おお、おぞましく罪深い生き物め! あなたは御自身の夫を殺したのです。あなたと話をすることは私にとってふさわしからぬことであります。あなたのような罪深い人の胎に生まれたことで、私も同様に罪人となってしまいました。
 ゆえに私は炎の中に身を投じます、あるいは毒を飲んで命を絶ちます。あるいはこの剣で自らの命を絶ち、死王ヤマの世界へ行きましょう。おお、悪魔よ! あなたは自らの夫を殺したのです! あなたはクンビパカ地獄に縛りつけられる運命となりましょう。」

 このようにカイケーイーを罵ると、バラタはカウサリヤーの部屋へと向かった。ああ! バラタを見ると、カウサリヤーは周りを気にすることなく泣き叫んだのだった。

◎バラタ、カウサリヤーの許しを求める

 バラタは彼女の足元にひれ伏し、彼女と共に泣き続けた。徳高く貞淑な妻であるラーマの母カウサリヤーは、とてもやせ衰え、哀れに見えたのだった。そして彼女はバラタを抱きしめ、眼から涙を溢れさせると、彼にこう言った。

「ああ、息子よ! あなたが遠くに行っている間に、それら一切の不幸な出来事が起こったのですよ。あなたはすでにあなたの母から、これら一切の彼女の成したことを聞いたに違いありません。ラグ族の一切の者のハートを喜ばせる御方であるわが息子ラーマは、彼の妻とラクシュマナと共に、木の皮を着て、髪をジャータにして森へ行ってしまいました。彼は悲しみの海に私を落としたまま去っていったのです。
 ああ、ラーマよ! あなたは私の息子として私から生まれた至高者であられます。それでもやはり、私は悲しみを克服することができません。私は、運命とは誰にとってもあまりにも乗り越え難いものであると思います。」

 このように言葉では表せない悲しみに嘆き悲しんでいるカウサリヤーを見ると、バラタは彼女の足をつかみ、このように言った。

「ああ、母上よ! 私の言うことをお聞きください。
 もし私が、カイケーイーがラーマ様の即位式を妨害するために為したこと、そしてその他の関連した事柄に加担していたならば、もし私があらゆる点で彼女を駆り立てることに関与していたならば、ああ、母上よ、百のブラフマーハッチャの罪を私にお与えください。もしそれらに私のわずかな入れ知恵が少しでもありましたならば、剣でヴァシシュタ様と彼の妻のアルンダティー様を殺したのと同じ罪を私にお与えください。」

 このようにして自分の無実を述べると、バラタは泣き叫び始めたのだった。

◎ヴァシシュタのバラタへの助言

 それからカウサリヤーは彼を抱きしめると、こう言った。

「ああ、息子よ! 私はあなたを理解しています。だから悲しまないでください。」

 その間に、バラタの到着を聞いてヴァシシュタが大臣たちと共に宮殿にやって来た。バラタが泣いているのを見て、ヴァシシュタは彼に優しくこう言った。

「ダシャラタ王は歳を取っておられた。彼は賢者であり、誠実さで名高かった。人間の生が与えてくれるものすべてを享受し、最高の供養を用いたアシュワメーダのような偉大なる儀礼を執り行い、シュリー・ハリをラーマという御姿で自分の息子として授かったことで、彼は今ついにインドラの世界に召されて、インドラ御自身と並んで座っておられる。彼はモークシャ(解脱)を得るにふさわしく、ゆえに彼の死を哀れに思うことは無意味である。そなたの悲しみはすべて見当外れなのだ。
 真我は永遠であり、不滅である。彼は純粋であり、生、死、そしてその他の変化を持たない。ゆえに解脱を得たそなたの父の魂を嘆き悲しむことは、そなたにとって全く根拠のないことなのである。
 そして身体に関してはというと、それは無知覚であり、不浄であり、破滅の支配の下にある。そなたはこのように真剣に考えるならば、悲しみに対する根拠のなさを見出すであろう。
 軽率で無智な人々は、その父や息子が死ぬと、胸を打って嘆き悲しむ。しかしこの儚い命は取るに足らない者であると理解している賢者に関しては、死という現象は放棄の精神を強化し、シャーンティの至福を獲得する手段となる。
 人がこの世界に生まれたならば、死は確実に彼につき従う。生を得た一切の生き物にとって、死は避けられないのだ。
 無智な者でさえも、個々の生と死はカルマによって決められているという一般的な原則を理解している者は、死が起こるとき、悲しみの原因はないということを見出すであろう。ならばそなたのような悟りに達した者にとって、この状況で悲しみに打ち沈むことに何の根拠があろうか?
 何千もの世界のシステムは創造のサイクルの途上で破壊され、そして多くのそのような創造のサイクルは過ぎていった。同様に、多くの海は干上がっていった。この無限のヴィジョンの前で、どうしてこのほんの短い人間の人生に執着することなどがあり得ようか?
 人の命は葉の上の水滴のように気まぐれであり、それは常に破滅に支配されている。そなたは幼き頃に早過ぎる死と出会ってしまった者たちを知っているだろう。ならばなにゆえにそなたは、それほどたくさんの生きるための現実的な価値観に執着するのであるか?
 現象化した存在(ジーヴァ)は、彼が過去の現象において為したカルマの結果として現在の現象化を得る。このように現在に現象化したジーヴァは、彼がこの生で為したカルマの結果として現在の身体の死の後、さらにまた別の現象化を得る。このように、ジーヴァは身体が滅びた後にまた新たな身体を得るのだ。
 人としてのジーヴァは使い古した服を捨て、新しい服を着る。そのように心の内の魂は、老衰した身体を捨て、新しい身体をとる。これは永遠の作業なのである。
 この現象のために悲しむことに何の根拠があろう? 魂は決して死ぬことはなく、生まれることもなく、成長することもない。
 人の中に顕現するその魂は、至高なる非二元なる真我そのものである。彼は六つの変化の形態を持たない。彼は純粋実在、純粋智性、純粋歓喜の本性――ブッディとその他の変化に富む人格の層の目撃者である。崩壊から解放されたならば、彼は永遠に一なる者である。真我がこのようであると十分によく理解したならば、悲しみを捨て、次にそなたに求められることを為し始めなさい。
 おお、気高き者よ! そなたの父の身体を、それが保存されているオイルの器から出し、そなたの大臣と私と共に一切の通例の葬儀を執り行い始めるのだ。」

 このようなグルの教えのおかげで、無智から生じていた悲しみを放棄し、バラタは適した形で、彼の父の一切の葬儀を執り行なったのであった。
 彼は多くの火の供儀を行なった父の身体を、グルに解説された聖典の規則に従って火葬した。火葬から十一日目に、彼は一切のヴェーダに精通している何千何百もの聖者たちに正式に食物を施した。
 父の名前で、彼は同様に彼らに多くの供物――財産、牛の一群、村々、宝石で飾られた衣服を捧げたのだった。

 大臣たち、そしてさらにグル・ヴァシシュタに囲まれて、彼は弟のシャトルグナと共に宮殿に住み、絶えずラーマのことを考えていた。
 彼はこう考えた。

「ラーマ様がシーター様とラクシュマナと共に行かなければならなかった森の環境を思うとき、そしてこの一切の悲劇の原因であるあのわが母の悪魔の顔をるとき、私の心は炎と共にあるような耐え難い感情で燃えあがる。ゆえに断固たる決意を持って、私はこの王国とそれに関連するすべてのものを放棄し、すべてを魅了してそれを楽しんでおられる微笑みをたたえた魅力的なお顔をしたラーマ様に常に奉仕させていただくために、森へ行こう。」

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