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「選択」

(35)選択

 

 アルジュナは、予想される戦争時の協力を頼むため、クリシュナのいるドワーラカーへと向かいました。

 一方、スパイからの報告でパーンドゥ側の動きを知ったドゥルヨーダナも、クリシュナの協力をとりつける為、ドワーラカーへと向かいました。

 そしてこの二人はまさに同じ日に、ドワーラカーのクリシュナの屋敷に到着したのでした。

 そのとき、クリシュナはぐっすりと眠っていました。二人ともクリシュナの親戚なので、遠慮なく寝室に入り込み、クリシュナの目覚めを待ちました。
 先に寝室に入ったドゥルヨーダナは、ベッドの枕元に置いてあるきらびやかな椅子に、どっかりと腰を下ろしました。一方アルジュナは、ベッドの足元あたりで恭しく合唱して立っていました。

 やがて目を覚ましたクリシュナは、足元に立っているアルジュナを見て、
「やあ、よく来たね。」
と言いました。ついで枕元の椅子に座っているドゥルヨーダナを見つけると、同様の挨拶をしました。そしてクリシュナはたずねました。
「二人とも、どうしてここに来たのかね?」

 ドゥルヨーダナが先に話し始めました。
「わがクル族とパーンドゥ族は、まもなく戦わざるを得ない雲行きなのです。
 もし戦争にでもなれば、あなたは当然、われわれを応援してくださらなければなりません。
 クル族もパーンドゥ族も、どちらもあなたの親戚です。ですが、今日、私はアルジュナよりも少し先にここへ到着しました。『先着優先』は、わが民族の伝統です。ですからあなた様は、私に協力しなければならないのです。」

 クリシュナは答えました。
「ドゥルヨーダナよ。ここへ来たのは君が先かもしれないが、目が覚めて私が先に見たのは、アルジュナのほうだ。だから『先着優先』の伝統にのっとっても、君とアルジュナは全く立場は同じなのだよ。
 そこで私に提案がある。私と同族の者たちで構成した、ナーラーヤナ軍がある。兵士の強さといい、数といい、装備といい、天下無敵の軍隊だといっていいだろう。
 アルジュナかドゥルヨーダナか、どちらかの側に、このナーラーヤナ軍をそっくりすべて協力させよう。そしてもう一方には、私一人だけがつく。ただし私は武器を持たないし、戦いもしない。
 そして伝統においては、何か良いものを分配するときには、年下のものから先に選ぶというのがしきたりだ。よってその選択の権利を、アルジュナに与えよう。
 さあ、アルジュナよ。どうするか。最強の軍隊を選ぶか。それとも武器を持たない私一人を選ぶか。」

 クリシュナの言葉が終わるか終わらぬかのうちに、アルジュナは何のためらいもなく答えました。
「武器などなくとも、あなた様お一人に来ていただけたなら、これ以上の幸せはございません。」

 これを聞いたドゥルヨーダナは、内心の笑いを隠すのに苦労しました。ドゥルヨーダナは顔を輝かせて、
「それならわれわれは、最強のナーラーヤナ軍をいただきましょう。」
と言い、クリシュナはそれを了承しました。

 こうしてこの両軍の戦争において、クリシュナの持つナーラーヤナ軍はクル族につき、クリシュナ自身は武器を持たずにパーンドゥ族につくことが決定したのでした。

 ドゥルヨーダナは喜んで部屋を出て行くと、クリシュナの兄であるバララーマのもとへ行き、ことの次第を報告しました。バララーマはかつてドゥルヨーダナの師でもあったので、友好関係があったのです。バララーマは一部始終を聞くと、ドゥルヨーダナに言いました。

「ドゥルヨーダナよ、ウパプラヴィヤにおける会議において、私は君の立場をできるだけ弁護し、この同族間の無益な争いを避けようとした。しかしこのような事態になってしまい、もう私にはどうすることもできぬ。
 クリシュナと敵対する側につくなどということは、私には絶対にできない。かといって、私の弟子である君と敵対する気にもなれない。
 なんにせよ、ドゥルヨーダナよ。もし戦争が避けられぬものなら、クシャトリヤ(武士)として恥じない行動をとるのだぞ。」

 ドゥルヨーダナは意気揚々として、ハスティナープラに帰っていきました。途中、こんなことをつぶやきながら。
「アルジュナは馬鹿なやつだ。武器を持たぬクリシュナ一人を選ぶとは。ナーラーヤナの大軍がわれわれの側についてくれたとは、なんと幸運なことか!」

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