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「シャリヤ」

(36)シャリヤ

 シャリヤはマドラデーシャの支配者で、ナクラとサハデーヴァの母マードリーの兄です。つまりパーンドゥ兄弟の叔父ということになります。

 パーンドゥ族とクル族の戦いが近づいているという話を聞き、シャリヤはパーンドゥ族に協力するため、大軍を率いて、マツヤ国へと向かっていきました。その大軍の規模といったら大変なもので、野営のテントは15マイルの長さに及んだといいます。

 ドゥルヨーダナはこの報告を受けて、シャリヤ軍を何とかして自分の味方につけたいと思いました。そこでドゥルヨーダナは部下に命じて、シャリヤとその兵たちにあらゆる歓待をしました。シャリヤの行軍の道筋に当たる場所に美しい宿舎がいくつも建てられ、そこでシャリヤ軍は、有り余るほどのおいしい食べ物や飲み物、その他の歓待を受けたのです。

 シャリヤは、これはユディシュティラが自分たちのためにやってくれた心遣いだと思い込み、大変喜びました。そして接待係の者に、こう言いました。
「こんなすばらしい歓待をしてくれたお前たちに、何か礼をしなければならぬ。ユディシュティラにそう伝えてくれ。」

 接待係たちはドゥルヨーダナのところへ行き、このシャリヤの言葉を伝えました。

 これを聞いたドゥルヨーダナは、この機を逃さずにシャリヤの前に登場し、
「クル族の接待を快く受けていただき、まことに光栄の至りです。」
と言いました。

 この歓待がパーンドゥ族によるものだと思い込んでいたシャリヤは、クル族によるものだと聞いて、びっくりしました。しかしすぐにシャリヤは、このドゥルヨーダナの行動を善意に受け取りました。つまり、クル族にとっては敵方となるはずの自分たちに対しても、長旅で苦労しているだろうとこのような歓待をしてくれたのか、と。シャリヤはドゥルヨーダナの行為に武士道精神を感じ、感動したのでした。

 次第に強まってくる感激に身を震わせながら、シャリヤは叫びました。
「見上げたお心がけよ! わしはそなたの武士道精神に感動いたしましたぞ。
 何か礼をしたいが、どのようにおこたえすればよろしいか?」

 ドゥルヨーダナは答えました。
「なにとぞ、今回の戦争において、われわれの味方になってください。これが、私があなたに返礼していただきたい唯一のことでございます。」

 シャリヤは、予期せぬ言葉に驚きました。ドゥルヨーダナは、かまわず続けました。

「あなたは、両家にとって同じように重要なお方です。そしてこうなったからには、われわれのほうを助けてくれるべきではございませんか?」

 ドゥルヨーダナの歓待に心をよくし、またドゥルヨーダナの策略を武士道精神と勘違いして感激していたシャリヤは、このように言われて、
「それもそうだなあ・・・」
と納得させられてしまい、自分たちの甥がいるパーンドゥ族ではなく、クル族のほうに味方につくと約束してしまったのでした。

 しかし、ここまで来てユディシュティラに会わないわけにもいかないので、シャリヤはドゥルヨーダナに言いました。
「私はお前たちの味方につくことを約束しよう。しかしやはり一度ユディシュティラに会って、事情を説明してこようかと思う。」

 ドゥルヨーダナは言いました。
「どうぞ、ユディシュティラに会って来て下さい。しかしすぐに戻ってこなくてはなりませんよ。私とのお約束を決してお忘れになりませぬように。」

 こうしてシャリヤは、マツヤ国のウパプラヴィヤへと向かいました。

 パーンドゥ一家は、シャリヤの到着を大喜びで迎えました。特に実の甥に当たるナクラとサハデーヴァにとっては、大変な喜びでした。パーンドゥ一家はシャリヤに、自分たちが直面している困難や心配事についてすべてを詳しく話しました。そして差し迫った戦争において協力してほしいという話になったとき、シャリヤは、ドゥルヨーダナとの一連の出来事を詳しく話したのでした。
 ユディシュティラは、ドゥルヨーダナの策略によって出し抜かれてしまったことを悟りました。内心は無念さと悲しみに襲われていましたが、武士として毅然とした態度をとり、シャリヤに言いました。

「叔父さんは立派な武士ですから、そういうことになってしまったら、ドゥルヨーダナとの約束を守らなければいけませんね。」

 シャリヤは答えました。
「ドゥルヨーダナにうっかりはめられたとはいえ、約束をしてしまったので、武士としては約束を守らねばならぬ。
 しかし心配するな。お前たち兄弟とドラウパディーは、長い間、悲しい思いをし、辱めを受けてきたが、それもまもなく終わるよ。お前たちは必ず勝利し、これからは幸せに暮らせるだろう。私は間違ってしまった。勘弁しておくれ。」

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