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「ユディシュティラの苦悩」

(51)ユディシュティラの苦悩

 クルクシェートラの戦争が終わって間もないとき、聖者ナーラダが、ユディシュティラの前に姿をあらわし、こう言いました。
「ユディシュティラよ。クリシュナの恵みと、アルジュナの武勇と、そなた自身のダルマの力によって、そなたは勝利を得て王位を獲得した。幸せかね?」

 ユディシュティラは答えました。
「聖者よ。王国が手に入ったのは事実です。しかし私は、多くの同族の者を失いました。愛する息子や甥たちも、皆死んでしまいました。この勝利は、私には大敗北のように思えます。
 それに聖者よ。私は血のつながった実の兄を敵とし、殺してしまいました。カルナのことです。実の兄を殺すという恐ろしい結果に至ったのも、もとはといえば私の所有欲が原因なのです。それに対してカルナは、母との約束を守って、私たちを殺さぬようにしました。ああ! 私は実の兄を殺した罪人なのだ! このことを考えると、私はいてもたってもいられなくなります。
 カルナの足は、母の足にそっくりなのですよ。あのひどいことが行なわれた大広間で、私の怒りは燃え上がり、カルナの足をにらみつけたのですが、それがあまりにも母クンティーの足に似ていたので、思わず怒りの火が消えてしまったほどです。それを思い出すと、よけいに悲しくなります。」
 
 こう言うと、ユディシュティラはため息をつきました。

 聖者ナーラダはここでユディシュティラに、カルナにまつわる話をすべて明かしました。

 カルナの出生の話。

 パラシュラーマから必殺の武器「ブラフマ・アストラ」を習ったが、それが肝心なときに役に立たなくなると予言された話。

 また、あるときカルナは、弓の練習をしているとき、放った矢が偶然、あるブラーフマナの牛に当たり、牛が死んでしまいました。そのブラーフマナは怒って、
「戦いのとき、お前の戦車の車輪がぬかるみにはまり、それが原因でお前は死ぬだろう。」
という呪いをかけました。まさにこの言葉通り、カルナの車輪はぬかるみにはまり、その隙にアルジュナに射殺されてしまったのでした。

 また、カルナは物惜しみしない男だったため、カルナが生まれながらに身につけていた神聖な鎧と耳飾りを、インドラ神が欲しいといった時、気軽にあっさりと渡してしまいました。このときからカルナの力は以前より少し弱くなりました。

 一連の話を明かした後、ナーラダは言いました。
「インドラ神に神聖な鎧と耳飾りをあげてしまったことで力が弱くなってしまったこと、パラシュラーマの予言、牛を殺されたブラーフマナの呪い、パーンドゥ兄弟のうち一人しか殺さないと誓ったこと、それにくわえて彼の御者のシャリヤが何かとカルナの武勇を見くびって彼の気力をそいだこと、そして最後にクリシュナの策略と、これらが皆一緒になって、カルナの死の原因となったのだ。君一人の責任ではないのだから、嘆くのはやめなさい。」

 ナーラダはこう言いましたが、ユディシュティラの気持ちは楽になりませんでした。

 カルナの死についてユディシュティラが苦しんでいることを知ったクンティー妃は、ユディシュティラに言いました。
「息子よ。カルナの死のことで、自分を責めてはいけません。
 彼の父である太陽神スーリヤが、そして私自身も、彼に懇願したのですよ。心のよこしまなドゥルヨーダナのもとを去って、ユディシュティラのもとへ行ってくれと。でも彼は私たちの忠告を聞かなかった。彼は自分で死を選んだのです。」

 ユディシュティラはクンティー妃に言いました。
「母上。あなたはカルナの出生の秘密を隠して、私たち兄弟をだまされましたね。それにより母上は、大きな罪の原因を作ってしまわれたのです。
 ああ、今後、すべての女性は、秘密を守るということが決してできなくなりますように!」

 実兄を殺したという苦悩にさいなまれて、ユディシュティラはこのように女性全体を呪ったのでした。

 カルナのみならず、戦死した多くの人々のことを思うにつけ、ユディシュティラ心の痛みは日増しにひどくなっていきました。自責の念に耐えがたくなり、彼はついに、悪業消滅のために、世を捨てて森に入ろうと決心したのでした。ユディシュティラは弟たちに言いました。
「この世の暮らしにはもう何の喜びも感じなくなった。王の仕事にも関心がなくなった。頼むから、お前たちで国を治めてくれ。そして私を森にやってくれ。」

 アルジュナは、必死で止めました。ビーマも、次のように言って反対しました。
「出家は、クシャトリヤのダルマではござらぬ。われわれの義務は、積極的に生きて、自分に与えられたカルマを一生懸命生きることであり、世を捨てて森に行くことではござらぬ。」

 ナクラも同様に止めました。
「カルマ・ヨーガの道を選んだほうが、間違いがありません。出家の道には困難が付きまといます。」

 サハデーヴァも同様に主張しました。
「兄上は私たちにとって、父でもあり、母でもあり、教師でもあるのです。私たちを捨てていかないでください。一緒に暮らしてください。」

 ドラウパディーもこう言いました。
「悪いことをした人に罰を下すのは王の義務の一つなのですから、ドゥルヨーダナたちを殺したのは、正しいことなのです。これは統治者として避けられぬ責務ではありませんか。あなたはその仕事を正しく行なったのですから、後悔する必要などどこにもございません。これからは、ダルマに従って国を治めるのが、あなたの義務でございます。いたずらに嘆き悲しむのは、おやめくださいませ。」

 そして聖者ヴィヤーサも、さまざまな例を挙げながらユディシュティラの義務について説明し、都へ行って国家統治の責任を負うようにと説得しました。

 こうしてみなに懇願されて、ユディシュティラはハスティナープラで王位につきました。統治の仕事を始める前に、ユディシュティラは、矢のベッドで死を待っているビーシュマ長老のところへ行き、祝福を受けてから、教えを求めました。

 ビーシュマはユディシュティラに、さまざまな教訓を与えました。このときの教えは「シャーンティパルヴァン」と呼ばれ、「マハーバーラタ」の実に四分の一に及ぶ膨大なもので、その後のインドの法律観や道徳観の基礎となったものです。

 ユディシュティラへの訓話が終わると同時に、ビーシュマの魂は肉体から抜け出ました。

 ユディシュティラはガンジス河に行き、儀式を行なって、ビーシュマの魂の冥福を祈りました。儀式を終えるとユディシュティラは、ガンジス河の流れを眺めながら、しばしの間、直立していました。過ぎ去った悲劇のすべてが心によみがえり、耐え難い痛恨のために意識を失って、倒れてしまいました。
 それを見つけたビーマが走りよってきてユディシュティラを抱き起こし、慰めの言葉をささやきました。そこへドリタラーシュトラもやってきて、こう言いました。

「もう悲しむのはやめなさい。立ち上がって、弟や友人たちに助けられながら国を統治しなさい。国民は皆それを待ち望んでいる。王としての仕事に精を出すのが、これからのそなたの義務だ。
 私は愚かだったから、ヴィドラの忠告に耳を貸さず、大きな過ちを犯してしまった。ドゥルヨーダナの愚かな言葉に従って、自分自身を欺いていた。夢の中の黄金のように私の栄光は消え去り、百人の息子たちも失った。だが、これからはそなたが私の息子だ。嘆くのはもうよしなさい。」

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