パトゥル・リンポチェの生涯と教え(3)
◎パトゥルの根本グル
先代のパルゲ・ラマの甥、オンポ・コンチョは、会計管理者としてパルゲの屋敷を管理していた。彼は若きトゥルクを、パルゲ・サムテン・プンツォクが建て、今やパルゲ・トゥルクの本邸としての役割を果たしている巨大な石の屋敷、パルゲ・ラブランに連れて行った。即位式でパトゥルは、高い成就を得た修行者ジグメ・ギャルワイ・ニュグと初めて会った。彼がパトゥルの根本グルになるのである。
ジグメ・リンパの心の弟子ジグメ・ギャルワイ・ニュグは、ダギャル・タマ・ルン(乾いた小枝の谷)の、風が吹きさらす山腹にある隠遁所で、多くの年月を過ごしていた。隠遁生活中、この師は、洞窟にも庵にも籠ることなく、外の開かれた場所、(岩などが)自然に突き出ているところの下、あるいは地面の浅い窪みの中で暮らした。彼は、野生の草や根から栄養を取り、自分の生活を必要最小限に簡素化した、まさに不放逸の苦行者の見本であった。ギャルワイ・ニュグは、悟りを得るまでその場所にとどまり続けるという誓いを立てた。
ジグメ・ギャルワイ・ニュグはしばしば、パトゥル・トゥルクがまだ若いときから、彼に教えを与えるためにパルゲ・ラブランに赴いた。彼は、古い弟子であるウムゼ・サンギェ・パルサンにこう打ち明けた。
「私がザの上流地域に来たのは、ただ、パルゲ・トゥルクのためだけだったのだ。」
◎小僧
若いとき、パトゥルは師ジグメ・ギャルワイ・ニュグと師の師であるドゥドゥプチェン一世ジグメ・ティンレイ・オーセルに同行して、ダチュカの北の荒涼とした遊牧地域であるゴロクに旅をした。あるとき、彼らの前に巨大な遊牧民の野営地が現われ、そこに近づいてみることにした。
巨大なヤクの毛のテントの入り口に、一人の若者が立っていた。彼はラマたちに尋ねた。
「どこから来られたのですか?」
「ドコクから来ました。」
「あなたたちは、死者の弔いの儀式を行なうことができますか? 母が数日前に死んでしまったのです。すでにラマを呼びにやったのですが、これでは、ラマが到着する前にかなりの時間が経ってしまいます。一番近くのラマでも、歩いて三日かかるところに住んでいるのです。」
「ええ。できます。」
三人はテントの中に招き入れられ、良質の白い羊毛のフェルトのカーペットの座を与えられた。そして正式な要請が為され、亡くなった一族の母親のために儀式と祈りを行なうための、儀式用の白いシルクのスカーフが手渡された。
二人の高齢のラマ、ドゥドゥプ・ジグメ・ティンレイ・オーセルとジグメ・ギャルワイには、お茶が振舞われた。二人は、テントの中に残って導入の祈りを行なっていた。若きパトゥルは外に行って、トルマ作りや、メインの儀式――究極の悟りの純粋世界・ブッダの浄土に意識を移し変える「ポワ」で使う供物の準備に忙しくしていた。
パトゥルが働いている間、一家の娘が、火を起こすのを手伝ってくれだの、ミルクを沸かしているのをじっと見ていてくれだのと言って、ずっと彼の仕事の邪魔をしていた。邪魔をするたびに、彼女はパトゥルのことを面白半分で、「ベンチュン(小僧)」と呼んでいた。
しばらくすると、すべての準備が整った。三人のラマは、ジグメ・リンパのロンチェン・ニンティクのアヴァローキテーシュワラのサーダナー(成就法)にある「苦しみからのありのままの開放」として知られている死者への儀式を行なった。
三人のラマは一晩そこに泊まった。翌朝、彼らが出発の準備をしていると、その一家の父親が彼らに懇願をしてきた。
「どうか、もっとここにとどまってください! よかったら三年間。それがだめでしたら三か月。少なくとも三日間だけでも!」
ラマたちは答えた。
「いいや、それはできません。われわれは行かねばならぬのです。」
父親が尋ねた。
「ではせめて、あなた方のお名前だけでも教えてください。」
「実は……」
少年パトゥルが答えた。
「彼ら二人はとても偉大なラマなのですよ。髪の白い方が、ジグメ・ティンレイ・オーセル。灰色の髪の方が、ジグメ・ギャルワイ・ニュグです。」
父親はびっくりした。この名高きラマたちのことを聞いたことがあったからである。
父親はパトゥルに尋ねた。
「それで、あなたはどなたですか?」
「ああ、僕はアブ・ウルロです。」
パトゥルは面白半分に、家族内でのあだ名を名乗った。
「ただの子供です!」
遊牧民の一家は信仰心で胸がいっぱいになって、ラマたちの祝福を乞うた。三人のラマが去ろうとすると、一家の息子が彼ら一人一人に、馬具を完備した良質の馬を布施した。裕福な遊牧民は、しばしば弔いの儀式を行なってもらったことへの感謝の気持ちから、そのような高価なものを布施するのである。
ラマたちは言った。
「どうか、馬はあなたたちの元に留めておいてください。
われわれには贅沢な施物は必要ないのです。もし純金を布施してくれたとしても、われわれは受け取らないでしょう。いくらかの茶葉とツァンパなら歓迎しますがね。ちょうど今、切れてしまっているのですよ。」
三人のラマたちが去る際には、遊牧民の一家全員が付き添いとして彼らについて来て、一日の道のりを同行した。彼らはそれほどの敬意を感じていたのだ。