ラームチャンドラ・ダッタの生涯(2)
悲しみは人に人生の厳しい現実に直面することを強いり、その眼を開かせてくれるものである。
彼の若い娘の死は極度のショックをラームに与え、彼の人生に大変革が起こった。
娘の死からしばらく経ったカーリー・プージャーの晩、彼は自身の家の屋根に上り、あかりでキラキラと輝くカルカッタの家々を眺めた。天上の闇は澄んでいて、空には輝く星がちりばめられていた。悲しみに打ちひしがれた彼のハートは、自然のパノラマの中に何か生きがいを探そうとしているように思われた。
不意に彼は、頭上を通り過ぎる風に吹かれる雲に気付いた。雲はすぐに見えなくなった。ラームは自身に問うた。
「雲はどこから来て、どこへ行くのか? 神は存在するのか? もしそうなら、彼に会うことができるのか?」
彼は、ブラフモー、クリスチャン、そしてヒンドゥーの今日の様々な宗教の指導者を訪れ始めた。しかし、誰も神と宗教についての彼の問いに答えることができなかった。この時期、ラームの家系のグルが彼の家を訪問し、彼にイニシエーションを与えたがった。ラームは率直な人だった。彼はこう言った。
「師よ、わたしは神を信じません。そのうえ、わたしは彼の存在に対して極度の疑念を持っています。あなたはわたしに神を悟る道を教えることができますか?」
グルは口をつぐんだ。彼は何を言うべきか分からなかった。
「偉大なる探求」がラームに憑りつき始めた。彼は、疑念を取り去り、神への渇仰心を満たそうと、より一層強く決心した。彼は多くの宗教の本を学んだが、自身の問いに満足のゆく答えを見つけることができなかった。
そして、遂に彼はカルカッタのブラフモーの指導者であるケシャブ・チャンドラ・センの著述から、シュリー・ラーマクリシュナについて知ることとなった。
一八七九年九月十三日、ラームは、ゴーパール・チャンドラ・ミトラと、いとこであるマノモハン・ミトラと共に、船でドッキネッショルへ向かった。彼らはドッキネッショルの寺院の庭に到着するとすぐに、シュリー・ラーマクリシュナについて尋ね、彼の部屋への道を教えてもらった。しかし彼らがそこに到着したとき、扉が閉じられていたので、彼らは西洋の教育の影響で、声を出して呼んだりノックをしたりするのをためらった。
ちょうどそのとき、シュリー・ラーマクリシュナがご自身でドアを開かれ、中に入るように彼らに仰った。
ラームは、シュリー・ラーマクリシュナが、もじゃもじゃの髪で、体に灰を塗りたくり、伝統的な黄褐色の衣を身にまとっている僧ではないということに気付いた。それどころか、師は質素の権化であられた。
シュリー・ラーマクリシュナは彼らに会釈をなさり、彼らをナーラーヤナと呼び、そして座るようにお求めなさった。それから彼はラームに微笑まれ、仰った。
「やあ、あなたは医者かね? (フリダイを指して)彼は熱を出している。彼の脈を調べることはできるかね?」
ラームは、シュリー・ラーマクリシュナがラームが医者だと知っていたことにびっくりした。フリダイを検査したあと、ラームはフリダイの体温が正常だと報告した。
当初からシュリー・ラーマクリシュナはラームを自分のものとし、彼の個人的な生活と心の葛藤をよくお尋ねなさったものだった。ラームは大変師に惹きつけられ、毎週日曜日に彼のもとを訪ねて、夕方になると家に帰った。
ラームは勇気を出して、ずっとつきまとっていた疑問を問うた。
「神は存在しますか? どのようにして人は神を見ることができるのですか?」
シュリー・ラーマクリシュナ「神は間違いなく存在する。昼間に星は見えないが、それは星が存在していないということを意味するものではない。
ミルクの中にバターはあるが、見るだけでそれがわかってしまう人がいるかね? バターを得るためには、日の出前に涼しい場所でミルクを撹拌しなければならない。
もし池の中の魚を捕まえたいなら、捕まえ方を知っている人から釣りの技術を学ばなければならない。それから釣竿をもって、池に釣り糸を投げ込んで、辛抱強く座らなければならない。徐々に魚は餌に近づいていき、そして食いつく。そして浮きが沈むとすぐに、魚を岸へ引き上げることができる。
同様に、ただ望むだけでは神を悟ることはできない。聖者の教えに信仰を持ちなさい。心を釣竿に、そしてあなたのプラーナ(生命力)を釣り針にしなさい。祈りと称名は釣り餌だ。
やがては、お前は神のヴィジョンに恵まれるよ。」
ラームはつい先日、有形の神を信じないブラフモー・サマージと関係を持ったので、どうやって無形の神を見ることができるのだろうかと、不思議に思っていた。師は彼の心を読まれてこう仰った。
「ああ、神は見ることができるよ。こんなに美しくて魅惑的なものを創造する神を、知覚できないと思うかね?」
ラーム「今生で神を悟ることは可能でございますか?」
シュリー・ラーマクリシュナ「おまえは強く欲するものを得るのだよ。成功への唯一の鍵は信仰だ。」
それから彼はお歌いになった。
瞑想をするにつれ、人は愛を感じるようになり、
愛を感じるようになるにつれ、人は利益を得るようになる
信仰はすべての根
カーリーマーの御足の甘露の湖水で
わたしの心を浸すなら、
信仰、供養、供儀はほとんど用なし
師は続けられた。
「一つの目標に向かって前進すればするほど、反対の傾向は取り去られる。もし東へ十歩移動するなら、西からは十歩遠くに移動することになる。」
ラーム「しかし、明らかな証拠がなければなりません。われわれに神の直接の経験がない限り、われわれの疑念を抱いた弱い心に、どうして神の存在を信用させることができますか?」
シュリー・ラーマクリシュナ「意識が混濁した腸チフスの患者は、水瓶一杯の水と山盛りの米を食べたいと騒ぎ立てる。しかし医者はこの懇願に取り合わないし、患者の言葉で薬を処方したりしない。彼は何をしているか分かっているのだよ。」
ラームは非常に感動した。彼は、シュリー・ラーマクリシュナの単純で説得力のある答えに感銘を受けた。彼はこの神聖な会話を聞くことに陶酔するあまり、家に帰るのに気が進まなかった。師のもとを訪れたときはいつでも、彼は俗世間、家族、そして職務のことに関する一切を忘れたのだった。
しかし、師と親密に接しているにもかかわらず、ラームの心は満足していなかった。神への切望はますます増大したにもかかわらず、疑念はしつこく彼につきまとった。
ある夜、彼はよく知っている池へ沐浴に行き、それからシュリー・ラーマクリシュナが秘密のマントラで彼をイニシエートし、水浴のあとに毎日百回、それを繰り返すよう指示なさる夢を見た。ラームは起きるとすぐに、身体全体が無上の喜びで振動しているのを感じた。
翌朝、彼はドッキネッショルに駆けつけ、夢のことを師に説明した。これを聞いて、シュリー・ラーマクリシュナは喜びに満ち溢れて仰った。
「夢の中で神聖な恩寵を受ける者は、必ず解放されるよ。」
師の言葉はラームに希望をもたらしたが、彼の心は聖なる夢では満足できなかった。彼は非常に疑い深く、彼にとって夢は空想にすぎなかった。
彼の心は再び揺れ始めた。彼は現世の楽しみには喜びを見出さなかったが、神の存在に対して確信しているわけでもなかった。このようにして2、3日が過ぎた。
その後のある朝、彼がカルカッタのカレッジ・スクエアの角に立って、自分の精神的な葛藤を友達に説明していると、背の高い見知らぬ人がラームに近付いてきて、こう囁いた。
「どうしてそんなに心配なんだ? 忍耐しなさい。」
ラームは唖然とした。その直後、彼は振り返って、有難い言葉で元気づけてくれたこの人物に視線を向けたが、すでにその姿は消えていた。ラームと彼の友達は二人ともその人を見、またその言葉を聞いたが、もうどこにも彼を見つけることはできなかった。ラームはそれは見間違いなどではなく、神からの直接のメッセージだと感じた。
この出来事をシュリー・ラーマクリシュナに話すと、彼は微笑まれて仰った。
「ああ、おまえはそのような出来事にしょっちゅう出くわすようになるよ。」