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『釈迦牟尼如来』(12)

 
 ときに、ヤサの両親は、ヤサの姿がどこにも見えないことに気付き、使者を四方に派遣し、ヤサを捜索させました。ヤサの父親自らも、ヤサを探しに出かけました。
 ヤサの父親は、途中で、ヤサの黄金のサンダルが脱ぎ捨てられているのを見つけ、さらに捜索を続けました。世尊釈迦牟尼は、遠くからヤサの父親がやってくるのを見て、こう思いました。
『私は神通力によって、ヤサの父親がここに座っても、隣に座っている息子のヤサが見えないようにしよう』

 さて、ヤサの父親は世尊のもとに近づいてきましたが、世尊の神通力によって、そこに座っているヤサを見ることはできませんでした。そしてヤサの父親は、世尊にこう尋ねました。
『尊師よ、世尊はヤサを見かけませんでしたか?』
 そこでゴータマは言いました。
『長者よ、では、まずここへ座りなさい。ここに座っていれば、ヤサのことを見つけ出すことができるでしょう。』
 これを聞いて、ヤサの父親は喜び、世尊の傍らに座りました。
 世尊はヤサの父親に、『順序に従った訓話』を行ないました。すなわち、

1.布施のすばらしさ
2.戒のすばらしさ
3.天界に生まれることのすばらしさ
4.欲望のデメリットと、欲望から解放されること(解脱)のメリット

 これらの教えを段階的に説いていきました。そうして世尊は、ヤサの父親の中に、健全な心、柔和な心、偏見にとらわれない心、歓喜の心、澄み切った心が備わったのを知り、最高の教えである『四つの真理』をお説きになったのでした。その教えを聞いて、ヤサの父親の中に、けがれの無い法眼が生じました。

『およそ原因と条件によって生起する性質のものは、すべて消滅する性質のものである』

と。

 こうしてヤサの父親は、法を見、ダルマを得、ダルマを知り、ダルマに深く入り、疑念を超え、確信を得て、ゴータマの教えのうちにあって他人に頼ることの無い境地にいたり、世尊にこのように言いました。

『すばらしいことです、尊師よ。
 すばらしいことです、尊師よ。
 ちょうど、倒れた者を起こすように、
 あるいは、覆われたものを顕にするように、
 あるいは、方角に迷った者に道を示すように、
 あるいは、【眼ある人々は見るであろう】と言って暗闇の中に灯火を掲げるように、
 世尊は種々の方便で真理を明らかにされました。
 私は今、尊師に帰依し奉ります。
 また、教え(ダルマ)に帰依し奉ります。
 また、出家修行者の集い(サンガ)に帰依し奉ります。
 世尊は私を、在家信者(ウパーサカ)として受け入れてください。
 私は、今日から命の終わるまで帰依いたします。』

 こうしてヤサの父親は、一番はじめに三宝帰依を唱えた在家信者となったのでした。

 

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