アディヤートマ・ラーマーヤナ(24)「ダシャラタの葬儀の遂行」
第九章 バラタの帰還とその後
◎ダシャラタの葬儀の遂行
さて、バラタは大いなる歓喜に包まれながら、ラーマの聖なるアシュラムの周辺に到着した。その地面にはラーマとシーターの御足の跡が付いていたのであった。
功徳を生み出すヴァジュラ、アンクシャ、蓮華、旗などのラーマの御足の印がついたその足跡を見て、バラタとシャトルグナはその足跡についていた塵を頭にいただいた。
バラタはこう言った。
「なんと素晴らしき幸運であろうか! 私はまさしくブラフマーや他のデーヴァたちやヴェーダ聖典が追い求めるラーマ様の御足の塵によって神聖化されたこの地を見ることによって祝福されたのだ。」
神聖なる愛のほとばしりで彼の心は溢れかえり、彼の胸は歓喜の涙で濡れ、心の集中がラーマに向けられると、バラタはゆっくりとシュリー・ハリそのものであられるラーマの庵へと近づいて行った。
彼はそこでシーターと共に座り、ラクシュマナに仕えられているラーマを・・・・・・ドゥルヴァ草のような青い肌をして、長い眼を持ち、頭にジャータの冠をいだき、木の皮の衣を着て、穏やかで平静な御顔を持ち、昼間の太陽のような光輝をお持ちのラーマを見たのだ。悲しみと喜びの両方に同時に圧倒され、バラタは急いで彼の御許へ行き、彼の前にひれ伏すると、彼の御足を両手で握りしめた。
長い腕をお持ちのラーマは彼を抱え起こすと、バラタを抱擁し、涙で身体を濡らした。そして彼を膝に座らせると、一切に遍在する御方ラーマは、彼を何度も何度も抱きしめたのだった。
喉が渇いた牛が急いで水たまりに行くように、ラーマに会うことを切望していた彼の母カウサリヤーも、急いで彼の御許へと行った。
母を見ると、ラーマは即座に立ち上がり、眼から涙を溢れさせながら彼女の足元に礼拝した。彼女は極度に悲しみに打ちひしがれて、息子を抱擁したのだった。
ラーマは他の母たちにも敬礼した。一行の中のヴァシシュタを見つけると、ラーマは彼の前に完全な礼拝を捧げ、「聖者とまみえることができるとは、私は本当に祝福されております」と仰ったのであった。そしてラーマは彼ら皆を適切な座に座らせ、次のように仰った。
「わが父君はお元気でありますか? 私の出発に悲しみ打ちひしがれていた父は私に何か伝言を送ってこられましたか?」
ヴァシシュタはラーマにこう答えた。
「おお、ラグ族の統率者よ! そなたの父はまるで悲しみの炎の中で焼かれるようにしながら、絶えずそなたを思い、常に『おお、ラーマよ! おお、シーターよ! おお、ラクシュマナよ!』と泣き叫んでいた。ああ! 彼は今や亡くなられたのだ。」
グルのこの言葉は、まるで耳の腫瘍に穴をあける苦しみのように、ラーマの耳に入って来た。「おお、父上! おお、父上よ! なんという悲劇でありましょうか!」と叫びながら、ラーマは地面に倒れ、ラクシュマナと共に泣き始めたのだった。
ラーマはこのように泣き叫んだ。
「ああ、慈悲深き父君よ! あなたは私を捨ててどこへ行ってしまわれたのでありますか?」
ラーマにつられて、母たちとその他の者たちも皆泣き始めた。
ラーマはこのように仰って、嘆き悲しまれた。
「ああ、気高き御方よ! 私は今や孤児であります。これから先は、誰が私を優しく撫でてくれるのでしょうか?」
彼につられて、シーターとラクシュマナも、さらにより大きな声で泣き叫んだ。
ヴァシシュタは慰めの言葉をかけて、彼らの悲しみを癒した。それから彼らはみな河へ行き、沐浴することで自身を清め、死のときに王が望まれたようにして、水の供養を捧げたのだった。ラクシュマナとラーマは、故人においしい供物を捧げる儀式を執り行った。
彼らが捧げた供物は、わずかな森の植物の粉と蜂蜜を混ぜ合わせて、それを丸めて固めて作ったもので、すべての苦行者が食すものである。
「聖典には、われわれはわれわれの先祖に、われわれがとっているすべての食物を捧げるべきであると説かれている。」
――こう考えて、彼らは自分を慰めた。
この死者供養が終わると、ラーマは再び沐浴し、泣きながらアシュラムへと戻っていかれた。かなりの長い間泣いた後、他の皆も再び沐浴し、アシュラムへと戻って行ったのだった。
◎バラタの帰還の要請
葬儀を行った翌日、彼らは皆、断食を行なった。そしてその次の日に純粋な水で沐浴した後に、バラタは座っておられたラーマにこう言った。
「ああ、気高き御方よ! どうかわれわれに、あなたを王として戴冠する許可をお与えください。どうか戻って来て、父君からあなたに受け継がれた王国を統治してください。あなたは私にとっての兄であり、同時に父でもあります。ゆえにクシャトリヤのダルマに従って、臣民の統治という使命を遂行してください。
あなたの一族を存続させるために、多くのヤジュナを執り行い、子孫をもうけた後、あなたにとってのすべてのものを放棄するに適した時期がやって来るでありましょう。そしてあなたの息子と継続者に王国の責任を譲り渡した後、森へ行ってはいかがでしょうか。それは今ではありませぬ。私に慈悲をお垂れください。どうかわが母上の愚行をお忘れください。帰って来て、われわれを統治してください。」
そう言うと、バラタはラーマの御足を自らの頭の上に乗せ、彼の前に棒のようにひれ伏し、礼拝した。
ラーマはただちにバラタを抱え起こすと、彼を膝に座らせて心を愛の中に溶け込ませて、ゆっくりとこう仰った。
「愛しき弟よ! 私の言うことをお聞き。お前の話してくれたことの中には、多くの真理がある。けれども、父君が私にダンダカの森で十四年を過ごし、その後に都に帰ることを命じられたことは事実である。そしてその期間、彼はお前バラタに王国を任せられたのだ。ゆえに王国が父君ご自身によってお前に与えられたのは明らかであろう。そして私にも同様に、父君によってダンダカの森の王国が与えられたのである。ゆえに、父上の命に完全に従うことが、われわれ二人の使命ではないだろうか。父に背き、自分の甘さに従って物事の遂行に取りかかる者は、たとえ生きていようが、死んでいるも同然である。そのような者は死後、確実に地獄に堕ちる。ゆえに、お前が王国を統治し、われわれは森に仕えようではないか。」
これに対してバラタはこう答えた。
「父君が命令を下されたとき、彼は女への情欲の虜となり、欲望の餌食となっていたゆえ、正気を失っておられたのであります。父のお言葉は気が狂った人のそれ以上に真剣に受け取る必要はありませぬ。」
ラーマは、彼の誤りを正してこう仰った。
「お前は父君が女への情欲の虜であった、あるいは欲望の餌食となり正気を失っておられたなどと言ってはいけない。生来誠実であられたゆえに、父君は昔カイケーイー王妃と約束された願いを彼女に与えることができないならば、ご自身の誓われた言葉に対して不誠実となってしまうということを恐れておられたのだ。
高潔なる人は、地獄よりも不誠実を恐れる。私も父君によって命じられたものとしてそれらを行うと、カイケーイー妃の御面前で約束した。ラグ族に生を得た者であるというのに、私はいかにしてわが王統のしきたりを破り、約束を果たさないなどということができようか?」
ラーマのこれらの言葉を聞くと、バラタはこう答えた。
「ああ、誠実なるお方よ! それではあなたの代わりに、私が苦行者の木の皮の衣を着、十四年の月日を森で暮らしましょう。あなたは王国を統治し、幸せに暮らしてください。」
ラーマはこの提言を拒否して、さらにこう仰った。
「王国は父君によってお前に与えられた。そして私には森を与えられたのだ。これらの贈り物を互いに交換することを承諾してしまったならば、その互いの立場が崩れてしまうであろう。ゆえにそれは約束の裏切りとなる。」
バラタはこのように訴えた。
「では、私もラクシュマナのようにあなたと共に森で暮らし、あなたにお仕えいたします。あなたがそのようにお決めにならないのであれば、私は食を絶ってこの命を終わらせましょう。」
このように熟考し、バラタはダルバ草を太陽にかざし、東の方向を向いて座った。
バラタが進む道を決意したのを見て取ると、ラーマは眼でサインを送って、グル・ヴァシシュタに、この状況に介入し、助けてくれるように懇願した。
そしてヴァシシュタはバラタを誰もいない場所に連れ出し、彼にこう言った。
「愛しき息子よ! 私から、疑う余地のない不変なる事柄に関する秘密を聞きなさい。
ラーマは真に主ナーラーヤナご自身であられる。ブラフマー神に懇願され、彼はラーヴァナを滅ぼすためにダシャラタの子として化身されたのだ。
そしてヴィシュヌのシャクティーであるヨーガマーヤーは、ジャナカの娘シーターとして顕現された。ヴィシュヌの寝床として仕えている大蛇アディシェーシャは、ラーマに侍り、仕えるために、ラクシュマナとして生まれた。
ゆえに彼らはラーヴァナを滅ぼすために進んで行かなければならない。カイケーイーの願いとこれに関する彼女の残酷な言葉のすべては、神の御意思のたまものなのだ。そうでなかったら、どうして彼女があんなことを話すことができたであろうか? ゆえに愛しきバラタよ、ラーマを連れて帰るなどの考えを捨てるのだよ。
お前の軍隊と弟と共に、さあ、都へ帰るのだ。ラーヴァナを一族諸共滅ぼした後、ラーマはすぐに帰って来るであろう。」
師のこれらの言葉を聞いて、バラタは仰天して、驚きのあまり眼を大きくしながら、ラーマに近づいて行ってこう言った。
「ああ、王者の中も最も偉大なる御方よ! あなたの王国の統治の象徴として仕えるために、あなたの礼拝に値する履物を私にください。あなたが帰還されるまで、私はあなたを象徴するあなたの履物への奉仕を通じて、あなたのしもべとして王国を統治致しましょう。」
これらの言葉を述べると、バラタはラーマの御足を荘厳なるサンダルの上にのせた、そしてラーマはそれらを拾い上げると、厳かにバラタに返したのだった。
そしてバラタはその、貴金属でできていて宝石のちりばめられたサンダルを受け取ると、ラーマの周りを回り、彼に何度も何度も礼拝した。
それからバラタは、信仰心のほとばしりで声を詰まらせながら、こう言った。
「もしあなたが十四年の月日が経った後の最初の日に帰って来なかったならば、私は燃える炎の中に身を投じます。」
ラーマはこのバラタの祈りを受け入れると、その理解の元に彼を送り返したのだった。
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