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要約・ラーマクリシュナの生涯(26)「バーヴァムカにあるラーマクリシュナ」①

26 バーヴァムカにあるシュリー・ラーマクリシュナ

◎代理人の権限を与えるということ

 数回師にお目にかかった後のある日、ギリシュ・チャンドラ・ゴーシュは自らを師の前に投げ出し、こう言った。
「これからは何をしたらよろしゅうございますか?」

 これに対してラーマクリシュナは、ギリシュに修行上の様々な指示を出したが、ギリシュは当時大変現世的な欲望が強く、また何かを規則的におこなうということができない性格だったので、師の指示を実行する自信がなく、師に返事をせずに黙っていた。

 いくつかの指示を出してもギリシュが黙っているので、ラーマクリシュナはほほえみながらおっしゃった。

「おまえ、『私にはそれもできません』と言うつもりらしいね。よろしい、それなら、私に代理人の権限を与えなさい。」

 師はそのとき、半ば神意識の状態に入っていらっしゃった。

 これはギリシュの好むところであった。彼の心は今や穏やかになった。そして胸中には、師と師の限りない恩寵への、愛と信頼のやむことを知らぬ奔流があふれ出た。恐怖の種であった規則による束縛から今は永久に解放されたと知って、彼はほっとした。今はただ、自分が何をしようとも、師はその神力によって何とかして救ってくださるということを固く信じていさえすればよいのである、と。

 「師に代理人の権限を与える」ということは、当時のギリシュにとっては、次のこと以上の意味は全くなかった。すなわち、彼は自分の努力によって何ものかを放棄する必要もなければ、苦労して霊性の修行をする必要もない。師がその神力によって、彼の心から世俗性の最後の痕跡までも取り除いてくださるであろう、ということである。
 しかし彼はそのときには、自分が、あれほど耐え難いと思った規則の束縛の百倍も強い愛の縄の輪を、自ら進んで自分の首に巻き付けたのであることを理解しなかった。

 ギリシュは今は不安から解放された。そして食べているときも飲んでいるときも、他のいかなる行為に携わっているときにも、シュリー・ラーマクリシュナが彼の責任のすべてをご自分で引き受けてくださったという、一つの思いしか胸中にはなかった。

 ある日、ギリシュが師の前で些細な事柄について、『私はそれをするつもりだ』と言うと、師は突然、「これ! なぜ、『私はするつもりだ』などと言うのか。おまえは、『もし神がそう思し召すなら、私はするだろう』と言うべきだよ」と言ってたしなめられた。
 ギリシュは、「全くその通りだ。私は自分の責任を全部神に負わせ、神もそれを承知してくださったのだ。私は、神が私のために良いと思し召し、私にすることをお許しになったことだけしかすることはできないのだ。どうして私が、自分の力でそれをすることなどができよう」と感じた。これを悟って、彼は徐々に、『私はするつもりだ』とか『私は行くつもりだ』とかいうような言葉や想念を捨てるようになったのである。

 このようにして年月は経ち、ついに師ラーマクリシュナはこの世を去った。
 その後、ギリシュは、妻や息子の死など、様々な不幸にあった。しかし彼の心はそのたびに、『これがおまえ(ギリシュ自身)のためになるからこそ、彼(ラーマクリシュナ)はこのような出来事が起こるのを許していらっしゃるのだぞ。おまえは自分の責任を彼に譲り、彼はそれをお引き受けになった。しかし彼は、おまえにどのような道を通らせるかということについては、何一つ保証はなさらなかった。この道がおまえにとってたやすい道であるということをご存じだからこそ、それに沿っておまえを導いてくださるのだ。おまえはこれを「嫌だ」と言ったり不平を言ったりする理由を持ち合わせてはいないのだぞ。そんなことをしたら、彼に代理人の権限を差し上げたこと、つまりおまえの責任を彼にお渡ししたことが偽りだった、ということになるではないか』と、自分に主張するようになった。
 このようにして日が経つにつれ、ギリシュは、「代理人の権限を与える」ということの中に隠されている意味が、次第次第にハッキリとわかってきた。
 ついにはその意味は完全に理解されたのだろうか? そのことを尋ねられて、ギリシュはこう言った。

「今でもまだ、ごくわずかしか理解していない。あの当時の私は、代理人の権限を与えるというこの簡単なことの中にこれほど深い意味が隠されているとは夢にも知らなかったのだ。今になってわかったのだが、ジャパや苦行をはじめとする信仰上の修行にはいつかは終わりが来るけれども、『代理人の権限』を与えてしまった者の仕事は、終わるときはない。」

 なぜなら彼は、自分は一挙手一投足において、また吐く息吸う息において、自分は思いと行為を尽くして彼と彼のお力に依存しているか、それともこの惨めな『私』に依存しているかを監視しなければならないのだ、ということを理解するようになったからである。

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