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解説「ミラレーパの十万歌」第一回(6)

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【本文】

 ミラレーパは意気揚々として、衣服を直し、腕に薪を抱えて、洞窟に戻りました。
 中に入ると彼は、皿ほどもある大きな目を持った、五人のインドの悪魔を見つけて、ぎょっとしました。一人は彼の寝床に座って説法をし、二人はそれを聞き、もう一人は食べ物を用意し、ささげ、残りの一人はミラレーパの本を学んでいました。
 ミラレーパは思いました。
「これは、わたしのことをよく思わない地元の神々の魔法による現われに違いない。わたしはここに長く滞在してきたが、彼らに何の布施も挨拶もしなかった。」
 そして彼は、「赤い岩の宝石の谷の神々への挨拶の歌」を歌い始めました。

 はい。これはちょっと、なんかコミカルな感じだけどね。ミラレーパが心が変わって、「さあ!」って意気揚々と洞窟に戻ってきたら、五人の悪魔がいたと。で、皿ほどもある大きな目をしてて、一人は――つまりその皿ほどの大きな目の悪魔の一人が、ミラレーパの寝床に座ってなんか教えを説いてると(笑)。で、ほかの悪魔たちがこう聞いてると(笑)。で、一人はなんか食べ物を捧げてて、で、もう一人は別のところでミラレーパの本を読んでると(笑)。
 さっきも言ったけど、悪魔あるいは悪霊、まああるいはレベルは別にして、霊的な存在っていうのは存在します。実際にね。今もこの空間にもいるかもしれない。それはちょうどそこら辺を野良猫が歩いてるような感じで普通にいるんです。
 仏教の世界観っていうのは、まず地獄があって、動物界があって、霊の世界があって、人間の世界がありますよと。で、この動物界と霊の世界と人間の世界、まああとは神々の――神々もかなり広いから、神々の低い方の世界ね――これは結構つながってるんだね。結構同じような世界にいます。ただわれわれが普通に見ることができるのは動物だけだけど、動物だけじゃなく、霊とか、あとちょっと低い段階の神っていうのは、見ることができないだけで、その辺にいっぱいいるわけです。
 で、修行途上いろんな悪魔やあるいは低い神、まああるいは高い神との遭遇っていうのをわれわれは経験します。
 ここでも何回か言ってるけど、わたしも修行中、いろんなタイプの魔的な存在と出会ったことがある。で、ちょっとこれを見て思い出すのは、イメージ的に似てるのは、わたしが以前経験したものとしてね――これもちょっと前に話したことあるけど、昔わたしが福岡に住んでいたときに、ある場所でね、短い間だったんだけどヨーガを教えることになって――ただその場所っていうのは、あまりいい感じの場所じゃなかった。で、それは多くの人がそう思ったんだね。多くの人っていうのは、そこをちょっと掃除したりとか物を運んだりするのにいろんな人が手伝ってくれたんだけど、みんな調子が悪くなった。「なんかここ変ですよ」とか。で、わたしはもともとあまりそういうのは感じない方なんだね。つまりあまり――まあ悪く言えば敏感じゃない。良く言えば、まあ図太いっていうか。あまりその(笑)、ちょっと変なところに行ってもそんなに悪くならないんだけども、そこはなんか変だった。ちょっと変な空間だったんだね。まあでもそれはそれでいいと。別にそれは修行でね、そこを浄化すればいいと思ってた。
 で、あるときそこで寝てたら、悪魔がやってきたんです(笑)。で、それはなんていうか表現しづらいんだけど、わたしがこう寝てて――もちろん目もつぶってるんだけど、窓から入ってきたんです。で、まあわたしがここに寝てるとしたら、この辺にこう二匹いたんだね。目をつぶってるんだけど分かるんです。その姿とか。それは小さい。これくらいの小ささで、子供みたいな悪魔なんだね。で、座ってる。で、そのときわたしは横になりながら意識がある状態で、まず、仏教でチューの瞑想ってあるんだけど、つまりこの自分の体をこうバラバラに切り刻んで、いろんな神とか悪魔とかに捧げる瞑想があるんだけど、まずそれをやったんだね。自分をバーッて切り刻んで、「さあ、わたしの体が欲しいなら持っていきなさい」と。
 で、そのころ実は――そのころっていうよりも、その前の段階で何年かわたしはよくそういった悪魔的なものとか悪霊とかと、あるときは対決したり、あるいはあるときはまあなんていうか、こちらの心が変わることによって悪魔が消えたりとかっていう経験をよくしてたんだね。だからそういう悪霊的なものに対してちょっと心の余裕があった。だからその二匹の変な子供みたいな悪魔が来たときも、あまり慌てずに、「ああ、よく来たな」と。「ゆっくりしていけ」みたいな感じで語りかけたんだね、心の中で。そしたらその二匹がなんか慌てだして(笑)。多分ね、脅かしに来たのか分かんないけど、そしたらこっちが余裕でなんか対処したから(笑)、慌てだした。なんか「おおー」って慌てだして、パーッて窓から逃げていったっていうことがあったんだけど(笑)。そういう感じの経験っていうのは、これから皆さんも経験するかもしれない。それはよくあります。
 で、このミラレーパの出会ったものも、まあそういう雰囲気があるね。非常にコミカルで。別にミラレーパを殺そうと思ってワーッてやってきたサタンみたいな感じじゃなくて(笑)、この辺にいる霊的な存在がちょっとコミカルな感じで現われたと。
 はい。そして、「これは、わたしのことをよく思わない地元の神々の魔法による現われに違いない」と。
 もちろんインドとかチベットとかでもそうだけど、日本でもよく――まあ八百万の神って言うけど、例えば何とかの山の神とか、例えば湘南台の神とかね。あるいはこの洞窟を守護してる神とか、そういう発想ってあるよね。で、それはもちろん実際にあるんです。実際にその地を守護してる神とか、あるいは何か一つのものをね、守ってるっていうよりも、そこに住んでる神とか、いろいろいるんだね。で、ミラレーパはここにずっと住んできたけども、この土地の神に挨拶してこなかったから、ここの土地の神っていうかな、霊的な存在がちょっと怒ってるのかもしれないなと。で、そこで挨拶の歌っていうのを歌ったわけですね。

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