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解説「クンサン・ラマの教え」第一回(1)

2020年10月28日

解説「クンサン・ラマの教え」第一回

 今日は新しいテーマで『クンサン・ラマの教え』ですね。
 はい。まあ初めてなんでちょっとベースの話からすると、これはチベット仏教のニンマ派の教えですけども。ニンマ派というのは――まあチベット仏教はいろんな派があるわけだけど、おおまかに分けると、ニンマ派、カギュー派、サキャ派、ゲルク派ってあるわけですけども、このうちゲルク派、サキャ派、カギュー派は、まあ新訳派といってね、このニンマ派を旧訳派、あるいは古派といいます。
 というのは、非常に古い時代の、パドマサンバヴァとかが伝えた時代の仏教をずーっと受け継いでるのはこのニンマ派ね。で、ちょっと時代が下がってから、いや、もう一回ちゃんとインドに学び直しに行こうっていう流れが始まり、それによってできたのが、まあマルパがインドに行って持ってきたカギュー派や、あるいはサキャ派、ゲルク派といった派ですね。だから大きく分けると、この古い派――ニンマ派と、新しい派――サキャ派、ゲルク派、カギュー派に分かれるわけだけど。
 で、この古い派っていわれたニンマ派っていうのは、まあもちろんベーシックにはほかの派と同じ、小乗、大乗、密教の仏教があるわけだけど、特にこのニンマ派を特徴付けてる教えとして、ゾクチェンっていうのがあるわけだね。で、このゾクチェンっていうのは非常に、まあある意味謎、もしくはとらえどころのないところがあって。もともとこのゾクチェンがどこから来たのかっていうのは、まあ未だに実は分かってないところがある。伝説では、インドの、あるいは現代のパキスタンかもしれないけど、あの辺にいたガラップ・ドルジェ、あるいはプラヘーヴァジュラっていう聖者が、人間界に初めてゾクチェンを説き、そこからの流れでチベットに伝わったっても言われてますし、でも一説では、いや、もともとチベットにあったとも言われたり、あるいは中国の禅の影響も受けてると言われたり、まあいろんな説があるんだね。で、ちょっとよく実態が分からない。で、実態が分からないだけじゃなくて、まあもともととらえどころのない教えなので、あまり体系化されず、かつさまざまなヴァージョン、いろんなパターンの修行法が、チベット中に散らばってたんだね。だからこれは、なんていうか、普通の教えみたいに体系化してまとめるのは無理だと言われてた。
 しかしあるとき天才的な人が現われて、それがまあロンチェンパですけども、ロンチェンパがその天才的資質によって、無理だと言われていたゾクチェンの体系化に成功したわけですね。で、そのころからゾクチェンというものが、よく分かんない教えではなくて、非常に知性的な教えとしてまとまっていったわけだね。
 はい。しかしまあそれでもまだ普通の人にはよく分からないところがあったわけだけど、それからさらに時代が下って、今度はジグメ・リンパっていう人が現われて、このジグメ・リンパも天才的な人で、この人がロンチェンパのあとを受け継ぎ、より優れた体系を生み出したわけですね。それがロンチェン・ニンティクっていわれる体系ね。
 もちろんこのニンマ派のゾクチェンの修行法は、このロンチェン・ニンティクだけじゃないんですけど、ほかにもいっぱいあるんだけど、このロンチェン・ニンティクが非常に優れていたので、まあ非常にチベットのゾクチェンを修行する人の中でも、このロンチェン・ニンティクといわれる体系が、中心的な修行の一つとして行じられるようになったわけですね。
 はい。で、そのロンチェン・ニンティクは、全部やる人と、全部はやらないで要点だけやる人もいるわけですけど、もし全部やるとしたらかなり膨大な教えなんだけど、その中で準備修行というのがあって――もちろん準備修行っていうのはほかの修行でもあります。で、だいたい同じようなものです。チベットのいろんな派のいろんな修行の、まあ例えばナーローの六ヨーガにも準備修行がある。マハームドラーにも準備修行があると。すべてあるんだけど、まあだいたいみんな同じです。まず基本的な教えの理解から始まって、皆さんもやってるような、マンダラ供養とか懺悔とか発菩提心とか、まあそういうところから入っていくわけだね。
 で、そのロンチェン・ニンティクにも準備修行というのがジグメ・リンパによって提示されていて、それが――ジグメ・リンパがまとめた準備修行が、まあ最近アムリタチャンネルでも公開した「前行の詩」っていうやつですね。あれはもちろんかなりこちらでアレンジしてる部分もありますけども、あの「前行の詩」をジグメ・リンパがまとめたと。まあ、でもあの「前行の詩」を見れば分かるように、非常に完結にまとめてある。
 で、話をこの『クンサン・ラマの教え』の作者であるパトゥル・リンポチェに持っていくと、パトゥル・リンポチェは、まあこの教えの道に入り、で、彼の根本グルはジグメ・ギャルウェー・ニュグという人がいたと。で、この根本グルがパトゥル・リンポチェにゾクチェンの教えを与えるときに、そのジグメ・リンパの教えに則ってまず準備修行から教えたわけですね。で、これが非常に素晴らしかったらしいんだね。つまり、ジグメ・リンパの根本テキストがあって、それを基に師匠がパトゥル・リンポチェに嚙み砕いて教えてあげたと。で、その教え方が非常に素晴らしかった。で、普通は一回、その講義を受ければ十分なんだけど、パトゥル・リンポチェはそれを師匠から二十五回受けたっていうんですね。うん。まあ少なくとも二十五回以上受けたと。それだけ師の教えが素晴らしかったと。
 で、パトゥル・リンポチェはその後、この根本グルが教えてくれた素晴らしい準備修行の教えを――教えの説明があまりにも素晴らしかったので、これは残しておかなきゃ駄目だと思ってまとめたのが、この『クンサン・ラマの教え』なんだね。
 だからこのクンサン・ラマっていうのは彼の師匠のこと。まあもちろん本名ではなくて――クンサン・ラマっていうのは、ラマっていうのはこれグルのことですけども、クンサンっていうのはいわゆるサマンタバドラね。チベット語ではクントゥサンポっていいますけども。日本では普賢菩薩といわれますけど、まあつまり漢字どおりなんだけど、つまり普賢、あまねく賢いと。うん。つまり、あまねく賢きグルっていう意味での「クンサン・ラマ」ですね。つまりサマンタパドラのような、あまねき賢きわがグルが説いてくれた教えと。
 まあ、といっても当時はテープレコーダーとかなかったから、パトゥル・リンポチェが根本グルから受けた教えを記憶していたものを、当然パトゥル・リンポチェのいろんな表現も使ってまとめてあるだろうから、この作品は、彼の根本グルとパトゥル・リンポチェの、まあ共同著作っていうかな、共同作業による作品といっていいでしょうね。
 もう一回まとめると、だいたいチベット仏教のどんな修行法でも、準備修行はまあ似たようなものなんだけど、ジグメ・リンパがゾクチェンのロンチェン・ニンティクの準備修行をまとめて、それをパトゥル・リンポチェのグルが非常に素晴らしい講義をしましたと。で、それをパトゥル・リンポチェが「素晴らしい!」と思って自分の表現も入れつつまとめましたと。そのパトゥル・リンポチェがまとめたこの『クンサン・ラマの教え』が非常に素晴らしいということが広まって、まあ現代ではもう派を問わず、結構これが使われてるらしいんだね。ニンマ派だけじゃなくてほかの派でも、最初の準備修行の説明のときに、この『クンサン・ラマの教え』を用いたりする。まあ、それだけパトゥル・リンポチェ自体が、派を超えて尊敬される聖者であって――いうのもあるけども。よって、この作品も派を超えて、まあ多くの派で準備修行の説明として使われてると。
 はい。じゃあ本文に入りましょう。

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