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聖者の生涯「ヴィヴェーカーナンダ」(3)

 
 二度目のドッキネッショル訪問において、ナレーンドラは不思議な経験をしました。
 ラーマクリシュナは恍惚状態のままナレーンドラに近づき、何事かをつぶやきながら、右足をナレーンドラの体の上におきました。
 するとそのとたん、ナレーンドラは驚くべき体験をしました。壁や部屋や寺院の庭が、いや、全世界が、そして自分自身でさえもが、空中の中に消えていったのです! 
 ナレーンドラは、死の恐怖を感じました。そしてあまりの恐怖に、こう叫びました。
「何をされるのですか、私には、家には両親も兄弟も姉妹もいるんですよ!」

 ラーマクリシュナは笑って、ナレーンドラを正常な状態に戻すと、
「よろしい。やがていろいろなことが起きるよ。」
と言いました。

 通常意識に戻ったナレーンドラは、非常に当惑しました。ナレーンドラは、自分がラーマクリシュナに催眠術をかけられたのだと思いました。しかしそれがいつ、どのようにしてなされたのか、全くわかりませんでした。また、ナレーンドラは鉄のような意志の強さを持っていることを自負していたので、これまで、催眠術にかかるような人間は意志が弱いのだと、馬鹿にしていたのです。だからよりいっそう、当惑は大きかったのでした。
 合理主義者のナレーンドラは、自分がなぜ瞬間的にそのような状態に陥ったのか、さんざん分析しましたが、答えを見つけることはできませんでした。そしてナレーンドラは、こう考えました。

「私の心の頑強な構造を思いのままに破壊できたあの人が狂人だなどと、どうしていえようか? 強力な意志力を持つ私の心をまるで粘土の塊のように自由に作り変えた人が、どうして狂人なものか。
 しかし最初の訪問のときには、ずいぶん奇妙なことを口走っていた。」

 このように、ナレーンドラは、ラーマクリシュナが一体どういう人物なのか、確固たる結論を下せずにいました。そして、なんとしてでもこの驚くべき人物の性質と力を理解しようと、心に決めたのでした。

 三度目の訪問において、ナレーンドラは、ラーマクリシュナが自分に何をしてこようとも、決して催眠術などにはかからないぞという強い決意を持って、ラーマクリシュナと再会しました。
 しかしこのときもラーマクリシュナは、恍惚状態でナレーンドラに触れました。ナレーンドラは、十分に警戒していたにも関わらず、意識を失ってしまったのでした。
 
 意識を失ったナレーンドラに対して、ラーマクリシュナは、彼が本当は誰なのか、どんな世界から、何のためにこの世に生まれてきたのか、どのくらいこの世にとどまるかなどの質問をしました。ナレーンドラは意識を失ったままで、質問に答えました。そしてそれは、ラーマクリシュナが以前にヴィジョンの中で見ていた内容と一致したのでした。

 これについて、後にラーマクリシュナはこう言いました。
「彼が自分が誰なのかを知ったら、それ以上はこの世にとどまらないということだ。意志の力を強く行使したヨーガの力によって、直ちに肉体を捨ててしまうだろう。ナレーンドラは偉大な魂で、瞑想の完成者なのだよ。」

 また、この出来事の以前にラーマクリシュナ自身が見た、ナレーンドラがこの世に生まれてくる前のヴィジョンの一つについて、ラーマクリシュナが弟子たちに説明したことがありました。それは、次のような内容でした。

 ある日、ラーマクリシュナはサマーディの中で、超越的な至福の世界に入りました。そこには七人の偉大なるリシ(聖仙)がいて、深いサマーディに入っていました。
 すると、その世界の光の一部が凝縮して、神々しい聖なる子供が現われました。
 その子供は、一人のリシのそばに行くと、そのリシの首を抱きしめ、優しく話しかけて、そのリシをサマーディから呼び起こそうとしました。リシはサマーディから目覚めると、自分を起こした子供を見つめました。そしてこの神聖な子供が、このリシに話しかけました。

「私は降りるよ。お前も一緒に来なくてはいけないよ。」

 リシは無言で、同意の優しいまなざしを送りました。そして再びサマーディに入ると、このリシの一部分が輝く光となって、地球へと降りていったのでした。

 これが、ラーマクリシュナが以前に見ていたヴィジョンでした。そしてナレーンドラに初めて会ったとき、ラーマクリシュナは、ナレーンドラがこのリシであることがハッキリとわかったのでした。
 そしてその聖なる光の子供は、ラーマクリシュナ自身だったのでした。

 さて、二度にわたって、ただ体に触れるだけで自分の心を完全にコントロールされてしまったナレーンドラは、それまでの合理的な考え方に大きな打撃を与えられました。そしてこの理解しがたく魅力的なラーマクリシュナを、自分の師として受け入れることに同意したのでした。
 とはいえ、この時点ではナレーンドラは、ラーマクリシュナの言葉のすべてを無差別に受け入れていたわけではありませんでした。

 ナレーンドラは、ラーマクリシュナに対する深い敬愛の念が目覚めつつありましたが、今まで知らなかった霊的世界の新しい真理に心を開きつつも、科学的な眼でそれらを検討していくことにも心を注いだのでした。
 そしてラーマクリシュナの奇妙な振る舞いも、ラーマクリシュナがアヴァター(至高者の化身)であるとするならばすべて説明がつくと、ナレーンドラの鋭い知性は気づきました。
 ナレーンドラはもう自分の人間的な思索力でラーマクリシュナを分析することに限界を感じ、師の真実を理解する能力を神がお与えになったときに改めて考えようと、心に決めたのでした。そこでこれ以上それについて思索するのはやめ、ラーマクリシュナに実際に学び、神を実現することに専念するようになったのでした。

  

つづく

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