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勉強会講話より 「聖者の生涯 ナーロー」③(1)

20100217聖者の生涯 ナーロー③

◎前回までのまとめ

 はい、もう一回ちょっと基本的なことを言うと、ナーローというのはチベットではナーローパといわれますが、インドのまあ大密教行者ですね。チベットのいわゆるミラレーパとかで有名なカギュー派の大元をたどると、このナーローに行き着くという、その行者なんですけども。
 インドやチベットというのは、みなさんも知ってのとおりいろんなね、聖者が登場して、古くから近代までいろんな聖者の名前をみなさん知ってると思いますけども。そういった聖者っていうのは、だいたい並列に捉えられるわけだけど、実際にはもちろんさまざまなステージの差はあると思うんだね。というのはわれわれがね、修行の道に入って、そして仏陀とか、あるいはヨーガ的にいうと完全に至高者と合一するような最終のステージに行くまでは、無数のその段階があるわけで。で、そのどの段階の聖者かっていうのは当然、いろんな段階がある。
 ただもちろん普通は、インドとかチベットとかのフィーリングではね、あまり段階分けとかランク分けとかしないからね。まあ西洋とかあるいは現代の考え方だと、すぐランク分けをしたがるわけだけど。普通はあんまりそういうのはしないから、まあ逆にちょっと分かりにくい。ただ実際は、いろんな聖者といわれる人にも当然多くのステージの違いはね、あると思います。
 もちろんそれは人によってその評価は違ってくるでしょう。で、いつも言ってるけども、わたしのね、わたし個人の見解というかな、フィーリングで言うと、やっぱりこの今回勉強するナーローパ、そしていつも話がよく出てくるパドマサンバヴァや、それから近代でいうとラーマクリシュナね、こういった方々っていうのはやっぱり桁違いな感じがするね。それはもう至高者の化身ともいえるぐらいの、ちょっとこうわれわれとはね、もう本当に桁の違う魂という感じがする。だから今回の物語とかもそうだけども、まあちょっとわれわれの住む世界とはかなりかけ離れた、はるか彼方の世界の話のように聞こえるわけだけども、その中からね、何かその――われわれとはちょっとステージは違うんだけども、取り入れられるエッセンスが学べたらいいと思います。
 はい。前回までのというかここまでの簡単なあらすじを言うと、ナーローという方は、出家し――まあ出家前のことはちょっとはしょるけども――いろいろあって出家し、非常に学問的にもそして修行者的にも飛び抜けて優れていて、あっという間にインド一の修行僧になるわけですね。で、よくこのナーローが師匠であるティローパに弟子入りする前の話として、ナーローっていうのは学問的にはとても優れていたけども、でも智慧がなかったっていうふうに解説する人もいますが、実際はそうではありません。ナーローはこの時点で――つまりインド一の修行僧といわれ、そして、まだしかし自分の本当のグルであるティローパに出会う前――この時点で、いわゆる六派羅蜜ね、六つのパーラミターでいうところの、智慧の段階。つまり空性ね、空性の智慧の段階に達していたといわれます。で、おそらくそうだろうなと。
 つまりちょっと桁が違うんだね。つまりその空の段階に達していて、しかしその先があった。で、その先に至るために、試練を受ける話なんだね。
 だからもう一回言うけども、よくね、よくいる学者さんみたいに、知識はいっぱい詰め込んだけどもぜんぜん智慧がないので、いろんな試練を受けるというようなレベルの低い話ではない。もう一回言うけども、その智慧の段階、空性の智慧、空の智慧の段階――プラジュニャーとかいうわけだね。パンニャーとか。つまり般若の世界。般若心経の般若の世界ですね――この世界には、もうすでに一人で到達していた。しかしその先があるんだね。
 よく、このあいだ何回か前の勉強会で、空、空の世界――つまり大乗仏教とかでいうね、シューンヤターとかいう空性の世界というのは、マハームドラーといわれるものと同じですかという質問があったんですけども、これはね、厳密にいうと違うんです。つまりそのマハームドラーといわれるものは、あるいはゾクチェンとかもそうだけども、その空の先にあるんだね。空の悟りといわれるものの、さらに先にあるんです。ですから、何度も言うけども、修行階梯の遥か先の話なんですね。
 ただこういう話っていうのは、「ああ、本当に遠い話だな」って考えるんじゃなくて、われわれ自身をね、鼓舞する材料として使わなきゃいけないね。つまり、これだけこの大乗仏教とか密教とか、あるいはもちろんヨーガもね――その完成に向かうヨーガってもちろんそうだけども――その道っていうのは果てしなく、かつ完全な境地を目指すわけだね。それには例えば一般的に言うところの、何度も言うけども、空の悟りとか、そんなのはまだ途中段階だと。そしてそのさらに先に何段階も越えなきゃいけないものがあって、ひたすら努力していくっていうかな。ひたすら自分をぶっ壊していくような道なんだっていうことだね。
 それは例えばしっかりと頭に叩き込んで、自分を鼓舞するように考えていくと、例えば自分を振り返ったときにね、自分はこの偉大な道を歩んでるわけなんだけども、何そんなところで引っかかってるのと(笑)。ね。そういうふうに自分を奮い立たせなきゃいけないね。目標が低いとさ、自分が今低いところで引っかかってても、まあいいんじゃないかって思ってしまう。そうじゃなくて、もちろん今生でどこまでいけるかは別にして、われわれが歩んでいるこの道はね、遥かこのナーローパのような状態までわれわれも行かなきゃいけないんだと。それは、もう一回言うけども、一般的に智慧とか般若とかいっているような段階すらも飛び越えて、ひたすら自分をぶっ壊し、無明をぶっ壊し、完全な智慧を高めていく段階に到達しなきゃいけないと。それに例えば密教っていうのは、そこに一生で行けるとまでいってると。もちろんそれにはね、例えば過去のいろんな成就者の伝記を読むと、八十四人の成就者とかもそうだけどね、十二年かかりましたとかあるわけだけど――でもまあ十二年でいけたらすごいよね。もちろんそれは前生からの機根とかあるから、今生ではいけないかもしれないが、でも今生でね、いけるところまでっていうかな、遥かその完成にできるだけ近づくとしたら、自分を――もう一回言うけどね、振り返って、今自分が引っかかっていることとか、あるいは自分が躓いてるとことか、あるいは自分がちょっと曖昧にしているとことかね、甘えているところとかっていうのは、情けないと。そんなものは早くパッとこうすっ飛ばしてしまえっていう気持ちっていうかがね、必要だね。
 というのはね、なんでこういうこと言っているのかっていうと、みなさん見ていてもそうだし、わたし個人の経験でもそうなわけだけど――やっぱりいつも言うけども、できないことはしょうがないよね。できないことはしょうがないが、認識の甘さによってやってないことってたくさんあるんだね。できないんじゃなくて、考え方が甘いがゆえに、乗り越えていないところがたくさんある。それは何度も言うけども、もったいないんだっていうことだね。このような道にめぐり合えるチャンスっていうのは、いつまであるか分からない。今生もいつ死ぬか分からないし、来世もそういう道にめぐり合えるか分からないと。だからいつも言うけども、できることぐらいやれと。乗り越えられることぐらい乗り越えろと。そういったその自分を鼓舞する材料にね、こういうものは使ったらいいと思います。
 はい、で、話を戻しますが、そのナーローがインド一の修行僧といわれ大学者といわれていたときに、おばあさんが現われるわけですね。で、このおばあさんっていうのはダーキニー、つまり修行者を助ける女神の化身だったわけだけど。このダーキニーがナーローに対してね、「お前は、教えの表面的なものしか理解していない」と。「真の教えの意味を理解するには、お前のグルである、真の師であるティローパを探しに行け」と。そういうメッセージを与えるわけですね。で、もちろんナーローはここで、おそらく直感的な知性によって、それが真実のメッセージだと確信したんでしょう。それによってそれまで持っていたすべての地位や名誉を捨てて、ティローパ探しにでかけるわけだね。つまりインド一の大学者であって、インド一の称賛を受ける修行者であったそのすべてを捨てて、本当にどこにいるか分からないティローという男を捜しにでかけるわけですね。で、その中でナーローがさまざまな試練に遭うと。これが前回、前々回から勉強してる、十二の小さな試練といわれるパートなんだね、ここはね。つまりナーローがティローに出会うまでのさまざまな試練ね。
 この試練というのはかなりパターン化されています。前回とか前々回に出てた人は分かると思うけど、どういうパターンかっていうと、つまりナーローがこうティローを探して歩いていると、まあ何かに出会うんだね。何かに出会って、そこでやりとりがあって、で、いつもこう失敗してしまうんです、ナーローはね。で、失敗して、最後にその、例えば出来事の対象だった人がパーッてこう空に浮いたりして、まあ教えを説くと。つまりそれが実は師匠ティローの化身だった、現われだったというのを明かして、ナーローパは気絶してしまう。気絶してしまって、起き上がるともう何もなくなっている、というパターンね。
 これは、何度も言うけども――最後にね、種明かしがされるわけだけども――すべてはナーローのけがれた心の現われであると同時に、ティローつまり師匠が顕わした示唆というかな、メッセージだったわけだね。
 はい、で、ちょっとその具体的なね、今回の例をじゃあ読んでいきましょうね。

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