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デーヴァプラタ

 インド二大叙事詩のひとつであり、世界最大の叙事詩であり、世界三大叙事詩のひとつともされる「マハーバーラタ」。

 これはさまざまな教訓を含んだ、現代的に見ても大変面白い物語であり、一説には実際にあった出来事を基にしているともいわれています。

 このとても長い物語である「マハーバーラタ」を、要約抜粋したかたちで、これからご紹介していきたいと思います。

 元資料として使わせていただいたのは、レグルス文庫の「マハーバーラタ」(C・ラージャーゴーパーラーチャリ編集)です。この本も、マハーバーラタをわかりやすくまとめていてとてもよい本ですが、それをさらに簡潔に要約したかたちでまとめてみたいと思います。

(1)デーヴァプラタ

 その昔、偉大なる王シャーンタヌは、ある美しい女性を見て、その美しさに心を奪われ、彼女に求婚しました。

 彼女はこたえて言いました。
「王様、では私は、あなたの后となりましょう。でもいくつか条件がございます。
 まず、あなた様であろうと他のどなた様であろうと、決して私が誰であるか、私がどこから来たかをお聞きになってはなりません。また私がするどんなことにも、善いことであろうと悪いことであろうと、邪魔をなさってはいけませんし、たとえどんな理由があるにせよ、私を怒ってはいけません。
 もしこれらの条件をお守りになれない場合は、私は即座にあなた様のおそばを立ち去ります。」

 夢中になっているシャーンタヌ王は、これらの事を守ることを誓ったので、彼女は王の后となりました。

 そして彼女はたくさんの子供を生みました。しかし新しい赤ん坊が生まれるたびに、彼女はその子をガンジス河に運んでいき、河の中に投げ込んでは、笑顔で王のもとに戻ってくるのでした。

 シャーンタヌ王は、そのような悪鬼のような振る舞いに、恐怖と苦悶で心を満たされましたが、自分が立てた誓いのゆえに、彼女には何も言わずに、好きなようにさせていました。

 こうして彼女は、七人の子供を殺しました。そして八番目の子供が生まれ、彼女がその子もガンジス河に捨てようとしたとき、ついに王は我慢ができなくなって、叫びました。
「やめなさい! なぜそなたは罪もない己の赤子を、このような恐るべき無慈悲なやり方で殺そうとするのじゃ!」
 怒りを爆発させ、王は彼女を制止しました。

 すると彼女はこう答えました。
「おお、大王様。あなたはお約束をお忘れになってしまったのですね。
 あなたはそのお心をご自分の子供のほうに向けられており、もはや私を必要とはなさらないのですね。
 私は去ります。ご安心ください。私はこの子を殺しません。
 私の正体は、ガンガー女神なのです。ヴァシシュタが八人のヴァス天人に人間界に生まれるように呪いをかけたので、私は彼らを哀れみ、彼らの母親になったのです。
 私はあなたのもとで彼ら八人を生みましたが、それはあなたにとってもよいことだったと思います。なぜならあなたは八人のヴァス天人に尽くした功徳により、死後、より高い世界へといたることになるからです。
 私はこの八番目の子をしばらくの間育て、それからあなたへの贈り物として、あなたにお返ししましょう。」

 こういうと、ガンガー女神は姿を消したのでした。

 ヴァス天人たちがヴァシシュタに呪いをかけられたいきさつは、次のような話です。
 
 ある日のこと、ヴァス天人たちは、妻を伴って、ヴァシシュタ行者の草庵がある山にやってきました。
 そこにはヴァシシュタ行者が飼っている牛がいたのですが、そのあまりに神々しい姿に、皆、心を奪われてしまいました。そして妻のうちの一人が、なんとかしてあの牛を手に入れてほしいと、夫に頼んだのでした。
 夫は最初、それを拒否しましたが、あまりに強く妻が頼むので、とうとう同意し、ヴァスたち皆で協力して、ヴァシシュタ行者の牛と仔牛とを盗んで連れ去ってしまったのでした。

 ヴァシシュタ行者がそこへ戻ってきたとき、牛がいないことに気づき、ヨーガの霊眼を使って、何が起こったのか一切を知るにいたりました。ヴァシシュタ行者は怒り、牛を盗んだ八人のヴァス天人たちが、人間界に生れ落ちるよう、呪いをかけたのでした。

 それを知ったヴァス天人たちは後悔し、ヴァシシュタ行者のもとへやってきて謝罪し、罪の許しを哀願しました。そこでヴァシシュタ行者は言いました。
「呪いはそのとおりに実現される。牛を捕らえたヴァスのプラバーサは、地上に末永く生き、大いに栄えるであろう。だが他のヴァスたちは、地上に生まれると同時に呪いから解き放たれるであろう。わしのかけた呪いを無効にすることはできぬが、この程度にまで和らげてやろう。」

 この後、ヴァシシュタは、激しい修行に専念しました。というのは、怒りを発してしまったことによって、自分の行力がいささか弱まってしまったからでした。

 ヴァス天人たちは、ガンガー女神のところへ行き、こう懇願しました。
「あなた様が、私どもの母親になってはいただけませんでしょうか。私どものために、どうか地上におくだりになり、しかるべき男性と結婚してくださるようお願い申し上げます。そして私どもが生れ落ちると同時に水中に投げ込み、私どもを呪いから解き放ってください。」

 かくしてガンガー女神は予定通りに八人の子供を生んだ後、シャーンタヌ王のもとを去りました。その後、シャーンタヌ王は、一切の肉体的欲求を断ち切り、行法を修するような気持ちで王国を治めました。
 ある日のこと、王がガンジス河の土手を散策していると、神のように美しい男の子が河と戯れて遊んでいるのを見つけました。するとそこへガンガー女神が現われ、王にこう言いました。

「王よ。この子が、あなたによって私がもうけた八番目の子供です。私は今までこの子を育ててきました。彼の名はデーヴァプラタです。この子を連れて帰ってください。」

 そう言うとガンガー女神は子供を祝福し、王に子供を手渡すと、再び姿を消したのでした。王は大喜びでその美しい息子デーヴァプラタを抱きかかえて城に帰り、彼を皇太子の位につけたのでした。

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