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シュリーラーマチャリタマーナサ(17)「七賢人の来訪」

「七賢人の来訪」

 ここまで一気に話したあと一息つくと、ヤージュニャヴァルキャ仙人はなおバーラドヴァージャ仙人に語り続ける。

「パールヴァティ女神の厳しい苦行についてお話しましたが、今度はシヴァ様の素晴らしいご神徳に関するお話をしましょう――」

 サティー様が祭火に焼身供養して世を去ってからというもの、シヴァ様は世捨人のようになり、一途にラグ族の主ラーマ様の御名を唱えて過ごされる。やがて諸世界を回り、行く先々でラーマ様の神聖な伝記を聞くことに専心しはじめられる。

 歓喜の本源、福徳の倉庫、貪欲、愚痴、淫情を完全に超脱したシヴァ様は、全世界を法悦の光明で包む主神ヴィシュヌ様の化身ラーマ様を心に抱き、思幕の念にわれを忘れたまま地球上の至るところをくまなく周遊される。あるとき仙人たちに宇宙の真理について説法をし、あるところではラーマ様のご威徳の偉大さを語られる。大智を究めつくしたシヴァ様は、もとより世俗の煩悩を超越しておられるが、かつて妻で信者であったサティー様との死別には、深く心を痛めておられる。

 こうして、永い永い時劫が過ぎる。ラーマ様に寄せるシヴァ様の愛情はますます深くなる。シヴァ様の厳しい持戒の行、限りなく深い愛情、不動の信仰心を賞でて、恩愛の精髄、慈愛心の権化、美の象徴、ダルマの理想像、光明の本源、主ラーマ様が荘厳の相を現される。ラーマ様は、シヴァ様の徳性を賛嘆称揚したあと、

「シヴァ様! あなたのような苛酷な誓いを守りとおせる者は誰もいません。」

と讃えてから、ヒマーラヤの娘の誕生、ナーラダ仙人の予言、パールヴァティーの見た夢の話、無葉と呼ばれるに至る苦行の様子などを詳しく話して、シヴァ様を説得しはじめられる。

「シヴァ様、わたしに愛情をお持ちであるならば、どうかパールヴァティーのところへ出かけて、結婚をしてください。これは、わたしの切実なお願いです。どうか、快くお聞きとどけください」

 シヴァ様が答えられる。

「それは好ましいことではありません。かといって、主であるあなたのお奨めを無にすることもできません。わたしの大導師ラーマ様! 常にあなたのご命令を命とたのみ、それに忠実に従うのがわたしの最大の努めなのです。父、母、恩師、聖僧の言葉はなにものにもまして尊重しなければなりません。いっさいの我見を捨てて従うべきです。まして、あなたはわたしのすべて、わたしに最大の福徳をお授けくださる救いの神です。主よ! あなたのご命令を謹んでうやうやしく拝受いたします。」

 信仰、智性、悟道に裏うちされたシヴァ様の不退転の決意を知って、ラーマ様は深い満足感を覚えられる。

「シヴァ様! あなたの誓いはもはや完了しました。いまわたしの言葉を心にとどめおかれて、なにとぞご決断ください。」

 それだけ言うと、ラーマ様のお姿はシヴァ様の前から忽然と搔き消える。シヴァ様はラーマ様の残像を、心の奥にしっかりと刻みつけられる。

 しばらくして、北斗七星の精である七賢人がシヴァ様のところにやって来る。シヴァ様は七賢人を前にして、例えようもなく優美な声で告げられる。

「あなた方はこれからパールヴァティのところへ行って、わたしへの愛情が本物かどうか確かめてください。また、父親のヒマーチャルに会って、パールヴァティーを家に連れ戻すよう頼んでみてください。パールヴァティーが無事に家に戻ったら、なにはおいても彼女の不安を取り除くよう、あなた方のご助力をお願いしたいのです。」

 依頼を受けた七賢人がパールヴァティーのところに来てみると、まるで苦行の精が佇立するように見える。七賢人は驚いて、苦行の偶像に語りかける。

「ヒマーラヤの娘パールヴァティー様! どんな目的で、そのような苦行をされるのですか? どなたのために誓いを立てられたのですか? また、どんな神約を求めておられるのか、どうかわたしどもに真実をお明かしください。」

 パールヴァティー様が答える。

「話すだけでも身が縮む思いです。あなた方はきっと、わたしの愚かさをお笑いになりましょう。でも、心がどこまでも強情を張って言うことをきかないのです。誰の忠告にも耳をかさず、水の中で砂壁を築くような無茶をします。ナーラダ仙人の予言を真に受けて、わたしの心は翼を持たないのに、大空を飛び回りたがります。聖なる仙人さま方! わたしの願いは一つしかありません! シヴァ様の妻になることです。無智な女、愚かな女の浅知恵とお笑いください。」

 パールヴァティー様の言葉を聞いて、七賢人は笑いながら諭しはじめる。

「それはいけません。あなたは山脈から生まれた方です。第一、ナーラダの説法を聞いて、これまで幸せな家庭を作ったものがいるか、考えてごらんなさい。ナーラダは昔、創造主の一人であるダクシュの子どもを言いくるめて出家させました。おかげでダクシュの子どもたちは、生家の方を振り向きさえしなかったのです。チトラケートゥの家庭を滅茶苦茶にしたのもナーラダです。似たようなことがヒラニヤカシプの家でも起こりました。
 ナーラダの説法を聞いた者は男も女もみな、家族や家庭を捨てて乞食になりたがります。心は欺瞞だらけのくせに、姿形はいかにも善人らしく見せかけて、自分と同じくみんなを放浪者にしたがるのです。そんな悪質なナーラダの言葉を信用して、生来、人間性に欠け、恥も情けも優しさもなく、種族も家も家族も持たない不吉な身なりの素浪人、裸身にじかに生きた蛇を巻きつける妖怪、髑髏を綴り合せて作った首輪をかける怪物、―――そんな魔物とのそのような不吉な結婚に幸せはありません。あなたは性悪なナーラダのたわごとにたぶらかされて、とんでもない思い違いをしています。シヴァははじめ族長たちの勧めに従ってサティーと結婚しましたが、その後、妻を見捨ててとうとう死に追いやりました。いま、独り身で気ままに生きています。物乞いをして食べ、なにものにもわずらわされることなく、安楽に寝て暮らしています。シヴァは生まれつき、独りが好きなのです。そんな化け物の家に、どうして妻が居つくことができましょうか?
 悪いことは申しません。わたしたちの言葉を信じなさい。あなたにふさわしい良い男性を、わたしたちが探してあげましょう。真理と福徳と美を備え、性格はきわめて温順、徳行は抜群、誉れ高い名声はヴェーダ聖典にも謳われています。悪を離れ、徳を積み、ラクシュミーの夫として、いま天界に住んでおります。わたしたちはそのような理想の夫を連れて来て、あなたと妻あわせたいと願っているのです。」

 七賢人のまことしやかな話を聞いて、パールヴァティー様は急に笑い出す。

「わたしが山脈から生まれたとおっしゃったのは、あたっています。わたしは山脈の娘だから、強情心は山にも負けず不動です。たとえ身は滅んでも意志は変わりません。黄金ももとをただせば、山から生まれたものです。黄金は焼いても叩いても本来の性質を変えることがありません。わたしの心も黄金と同じです。わたしはナーラダ仙人のお言葉を信じます。導師の教えに背く者には、夢にも幸せはありません。シヴァ神は不吉の巣窟、ヴィシュヌ神は吉祥の倉庫と一般に信じられていますが、慕う者にとっては相手がどうであれ、その人だけしか目に見えないのです。
 七人の仙人様方! ナーラダ仙人よりも早くお目にかかっていれば、たぶんあなたがたの御教えに従っていたでしょう。でも、わたしはもはや、この命をシヴァ様に捧げました。命を捧げた以上、個人の善悪得失について考慮する気は毛頭ありません。あなた方がどうしても結婚話をまとめたいとお考えなら、結婚願望を持つ男女は世間にいくらでもいます。愛を求めてうずうずしているのです。そこへ行かれたらよいではありませんか?
 何千回生まれ変わろうと、わたしはシヴァ様と結婚したいのです。でなければ生娘のままで生涯をとおします。これは絶対に変わりません。シヴァ様から何度拒絶されても、わたしはナーラダ様の予言を信じ続けます。退転する気持ちはさらさらありません」

 パールヴァティー様はさらにつけ加える。

「聖仙人様方!あなた方の御足を礼拝し、謹んでお願いします。どか、おひきとりください。あまりに遅くなってしまいました」

 シヴァ様に対するパールヴァティー様の愛の深さに心打たれた七賢人は、感激に身をふるわせ、賛嘆と祝福の雨を降らせる。

「おお、世の母よ! おお、世の家よ! シヴァ様は形、あなたは影のごとく、二人揃ってはじめて、全世界の父と母です。パールヴァティー様!あなたに勝利あれ! あなたに幸せあれ!」

 七賢人は地にひれ伏してパールヴァティー様の御足に頭をつけて立ち去る。歓喜のあまり、仙人たちの身はふくらみ、全身の毛は何度も何度も逆立つ。

 七賢人はすぐに、雪山の王ヒマーチャルをパールヴァティー様のところへ送る。熱心に頼み、ヒマーチャルはついに娘を家に連れ戻す。そのあと、七賢人はシヴァ様のところへ行って、パールヴァティー様の話を一部始終聞かせる。限りなく深いパールヴァティー様の愛情を知って、大神シヴァ様は喜びで胸がいっぱいになられる。大役を果たした七賢人は満足して、住み家である天界に戻る。

 全智全能の大神シヴァ様は、寂然として独り瞑想に入り精神を集中して、ラグ族の主ラーマ様の思念をはじめられる。

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