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クリシュナ物語の要約(6)「主の命名と、幼児としての主の遊戯」

 
(6)主の命名と、幼児としての主の遊戯

 あるときナンダは、偉大な苦行者として世に知られる、ヤドゥ族の祭官・聖仙ガルガを家に招いて、息子の命名式と浄化の儀式を行なってくれるように頼みました。

 しかし聖仙ガルガは、慎重に答えました。

「私はヤドゥ族の有名な祭官であり、またあなたとヴァスデーヴァとの友情も、世間ではよく知られています。ですからもし私がこの子の浄化の儀式を行なったならば、世間の人々も、カンサも、この子こそが、カンサを殺す運命を持ったデーヴァキーの八番目の息子ではないかと、疑いを抱くでしょう。そしてその結果、あなたの息子が殺されてしまったならば、それは我々にとって大きな不手際となるでしょう。」

 そこでナンダは、誰にも知られぬように、牛舎の中でひそかに儀式を行なうことを提案しました。聖仙ガルガもそれを了解し、自分の身分を隠して、ナンダの二人の息子の命名式を行なったのでした。

 聖仙ガルガは言いました。
「ローヒニーが生んだこの子は、親族をその素晴らしさで喜ばせることから、ラーマ(人々を喜ばせる者)と呼ばれるでしょう。そして並外れたその力により、バラ(力)とも呼ばれるでしょう。さらにもう一つの隠された意味により、サンカルシャナ(統一する者)とも呼ばれるでしょう。
 そしてヤショーダーから生まれたこの子は、各ユガごとに異なった姿をとり、白色、赤色、黄色という、三つの色でこの世に生まれてきたのでした。そして今回は彼は黒い色で誕生してきたのです。そのためクリシュナ(黒)と呼ばれるでしょう。
 またこの子は過去のある時代にヴァスデーヴァの家に生まれたことがあり、そのためヴァ―スデーヴァ(ヴァスデーヴァの息子)とも呼ばれるでしょう。
 さらにこの子は、その素晴らしさと行ないに一致した、多くの名前と姿を持っています。
 ああ、ヴラジャの王よ。過去の多くの時代において、この子はこの世に降誕し、悪人によって苦しめられる多くの人々を救ってきたのです。
 この子に愛を捧げる敬虔な者には、どんな敵も力を及ぼすことはできないのです。
 それゆえこの子は、ああ、ナンダよ、その素晴らしさと壮麗さ、名声、そして栄光において、主ヴィシュヌにも匹敵する者なのです。それゆえにあなたはこの子を、これからも熱心に世話していかなければなりません。」

 これを聞くとナンダは、自分は何と祝福されたものなのだろうかと、大いに喜んだのでした。

 やがてバララーマとクリシュナは少し大きくなって、ゴークラの村を這って遊ぶようになりました。
 ぬかるんだヴラジャの土の上を、二人の御子が膝をすりながら愛らしく元気に動き回ると、足と帯につけられた小さな鈴がかわいい音色を立てて、それを聞くと二人はとても喜ばれるのでした。
 また通りがかりの人の後をつけて行っては、無邪気に怖がり、あわてて母親のもとに戻っていくのでした。

 体が泥だらけになっても美しく彩られたように見える二人を、母親たちはいとおしく抱き上げると、こみ上げる愛の思いであふれるように胸から乳を流し、御子たちがそれをおいしそうに吸うとき、蓮華のようなそのお顔が、愛らしい笑いで輝くのを見ては、母親たちは喜びのあまりに恍惚となってしまうのでした。

 やがて二人がもう少し成長し、いろいろな子供の遊びをするようになると、そんな二人の姿は、若い女性たちの心をすっかり魅了したのでした。子牛のしっぽをつかんだ二人が、ヴラジャ中をあちこちと引きずられて遊んでいるのを見ては、彼女たちは大いに喜び、家から外に出てきては、笑いながらその様子を見続けるのでした。

 二人が遊びに夢中になっていると、母親たちはそんな二人を、獣や火や水など、さまざまな危険から身を守ろうと細心の注意を払っていたため、しまいには家事もできないほどになってしまいました。

 その後、クリシュナとバララーマの二人は、もはや膝をすることなく、立ってゴークラの町を歩き、同じ年頃の子どもたちと遊びまわるようになりました。
 
 魅力あふれるクリシュナのいたずらを目にしたゴーピー(牛飼い女)たちは、クリシュナの家まで出かけていくと、母親のヤショーダーに、次のように話すのでした。

「あなたの息子は、まだ乳を飲ませていない子牛を放してしまって、私たちがそれを叱っても、ただ笑っているだけなのですよ。
 そして苦労して私たちが作った牛乳やカードを盗んでしまい、それを自分で食べるばかりか、猿たちにも食べさせて、その猿たちも食べなくなったら、今度はその壺を壊してしまうのです。
 私たちが牛乳などを入れた壺を高い所につるしていても、あなたの息子は椅子や臼を使ってうまく手を伸ばして、壺からそれを盗ってしまうのです。あなたの息子は、体中の宝石を光らせて部屋中を照らしながら、こんな悪戯をするのですよ。
 私たちがきれいに片づけた部屋の中を、この子はそんないたずらばかりして散らかして、また庭でおしっこをしたりもするので、私たちは本当に困ってしまいます。そしてそんな悪ふざけをした後で、この子は何も知らない無邪気な子供のように、あなたのそばにちょこんと座っているのです。」

 おびえたような眼をした美しいクリシュナの顔を見ながら、彼女たちがこのように訴えても、ヤショーダーはクリシュナを叱ろうとせず、ただ笑って聞いているのでした。

 ある日、バララーマと仲間の子供たちは、クリシュナが土を食べたと、ヤショーダーに報告に来ました。
 そこでヤショーダーは心配のあまり、やさしくクリシュナの手を取ると、困惑したような眼をするクリシュナを、次のように言って叱ったのです。
「あなたはどうして土なんか食べたのですか? 本当に困った子だわ。お兄さんやお友達が教えてくれたのですよ。」

 しかしクリシュナはこう答えました。
「お母さん、僕は土なんか食べていません。みんな嘘をついているんです。もしみんなの言うことが本当だと思うなら、どうか僕の口の中をその目で調べてみてください!」

 そこでヤショーダーはクリシュナの口を開けさせ、その中を覗き込みました。

 その時、彼女がクリシュナの口の中に見たのは、空、山、大陸、そして海からなるこの地球と、惑星、稲妻、風、月、星々、水、火、空気、心、さまざまな感覚とその対象、それらすべての源である三つのグナ、それら動・不動の一切からなる、全宇宙の姿だったのです。
 
 すべての魂、三つのグナ、カルマと時、そしてそれらすべてからなる素晴らしい宇宙が、自分を含むヴラジャの地とともに、すべてクリシュナの口の中に存在しているのを見て、ヤショーダーは仰天してしまいました。

「これは夢なのかしら? それとも神様が起こされた幻なのかしら? それともこの子が生まれつき持つ、神のような栄光なのかしら?
 ああ、私はこの宇宙の唯一の真実である、ブラフマンに祈りをささげましょう。それはとても理解しがたく、心や理性や言葉では推測できず、この宇宙の基礎であるのです。私はそのブラフマンのおかげで、この不思議が見られたのだわ。
 おお、私は主なる神だけに庇護を求めるでしょう。そのお方のマーヤーのせいで、私の心には、『私はナンダの貞淑な妻であり、彼の財産の唯一の女主人である』と、そしてナンダは私の夫であり、この子は私の息子なのだと、さらに牛飼いやゴーピーたちや牛たちはすべて私のものなのだという、そのような限定された誤った意識が生じているのです。」

 このようにヤショーダーは、クリシュナこそが全宇宙そのものであり、主ヴィシュヌそのものであり、また自分はその主のマーヤーによって、今、さまざまな限定的な意識を持たされているだけなのだという真実を、すべて悟ったのでした。

 しかしクリシュナはすぐにまた、自分のマーヤーの力によってヤショーダーを覆いました。するとヤショーダーは、今自分が悟った真実をすべて忘れてしまい、再び「ナンダの妻、クリシュナの母」という意識に戻って、クリシュナを膝の上に載せると、母としてのあふれる愛情をクリシュナに向けたのでした。

つづく

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