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クリシュナ物語の要約(18)「クリシュナ、ゴーヴァルダナ山を持ち上げる」

(18)クリシュナ、ゴーヴァルダナ山を持ち上げる

 あるときヴラジャの牛飼いたちは、インドラ神への礼拝の儀式の準備のために、忙しくしていました。
 それを見たクリシュナは、慢心に陥っているインドラ神を救済しようと考え、わざとインドラ神を怒らすために、父ナンダに向かって次のように言いました。

「すべての生き物は、カルマの力でこの世に誕生してきて、カルマの力で死んでいき、そしてカルマの力で苦楽を経験し、またカルマの力で恐怖や安心を感じるのです。
 このように、この世で自己が作ったカルマによって生きていく生き物が、インドラ神と何の関係があるのでしょうか? 各人が気質によってなす行為(カルマ)の流れを、インドラ神が変えることができるのでしょうか?
 生き物はすべて自己の性質の奴隷であり、カルマからなる生来の気質に従って生きていくのです。よってカルマの法則だけが、全能の神様なのです。
 だから人はただ与えられた義務を忠実に果たして、カルマ(行為)だけを礼拝すべきでしょう。この世で自己に幸福を与えてくれるものを神様と呼ぶとしたなら、それはまさに自己の正しい行為(カルマ)なのですから。
 また、宇宙を構成する根本エネルギーの一つであるラジャスの力に促されて、物事は相互に結合させられ、雲は集まり、雨も降るのです。インドラ神は、そのことに何の関係もありません。
 また、今まで僕たち牛飼いは、定まった町も領地も持たずに、森や山の中で暮らしてきました。だから僕たちは、牛やブラーフマナ、そして山をこそ礼拝することにしましょう! インドラ神への礼拝のために集めた供物で、それらのものを礼拝しましょう!
 ブラーフマナに、そしてすべての生き物に食べ物を捧げて、さらにあの山にすべての食べ物を供物としてささげましょう!
 それが終わったら、皆で一緒に供物のお下がりを食べて、白檀などで体を飾り、正装に着替えた後で、あの山の周りを、尊敬をこめて右回りに回って歩きましょう!」

 この言葉を聞くと、ナンダをはじめとする牛飼いたちはそれに賛成して、そのすべてをクリシュナの指示に従って実行していったのでした。祝福の言葉が述べられた後に、彼らはインドラのために用意された食べ物を、その山とブラーフマナたちにささげて、皆で山を右回りに歩いて行ったのでした。

 そして皆に確信を抱かせるために、クリシュナはこっそりと自分の分身を出して、巨大な姿に変身すると、「私が山である」と言って、人々がささげた食べ物を食べたのでした。
 
 自分の分身が供物を食べているのを見て、クリシュナは皆に言いました。
「ああ、皆さん、あそこを見てください。あの山が、目に見える姿となって、僕たちに慈悲を示そうとしておられます!
 あの山の神様は自由に姿を変えて、自分に敬意を払わない森の生き物たちを殺されるのです。だから僕たちは、牛と自分たちの幸福のために、あの山の神様に礼拝を捧げましょう!」

 こうして牛飼いたちは礼拝を捧げると、ヴラジャへと帰って行ったのでした。

 さて、プライドの高いインドラ神は、自分への礼拝が中止されたことを知って、大いに激怒しました。そして彼は強力な破壊の雲を呼び集めると、その雲に、ヴラジャを破滅させることを命じました。

 インドラ神の命令を受けたその雲の一群は、早速ヴラジャへと向かうと、そこに激しい雨、無数の稲妻と雷鳴、そして嵐を起こし、ヒョウを降らせて、ヴラジャの人々を苦しめました。
 そして激しい雨が降り続けた結果、大地はすべて水に覆われ、大洪水になってしまいました。
 こうして苦しんだ村の人々は、クリシュナに助けを求めました。

「ああ、クリシュナ、クリシュナ、祝福されしお方よ。あなたに庇護を求める私たちをお守りください!」

 クリシュナは、これがインドラ神の仕業であると見抜いて、次のように考えました。

「おごり高ぶり、世界の守護者であると自負するあの神々の、その無智を滅ぼさねばならない。
 サットヴァの性質を持つ神々においては、自らは最高の支配者であると自負するおごり高ぶりは、あるべきではないのだ。彼らのプライドを私がこの手でつぶすならば、それは彼らにとって恩恵があるだろう。
 それゆえ私は、インドラ神の力から、私の信者であるこのヴラジャの民を、神的な力によって必ず守り切るであろう。」

 そうしてクリシュナは、片手でゴーヴァルダナ山を引き抜き、それを左手の小指だけでたわむれるように持ち上げると、村の民にこのように言いました。
 
「ああ、お父さん、お母さん、そしてヴラジャの皆さん、どうかもう安心して、牛たちとともに、この山の下に避難してください。
 僕の手から山が落ちるかなどと、そんな心配をする必要はありません。そして嵐や雨も、もう怖がることはありません。なぜなら皆さんの保護は、もはや確実なものとなったからです!」

 このようにクリシュナから安全を約束された村の人々は、皆で急いでクリシュナが持ち上げた山の下に避難しました。
 ヴラジャの人々が、飢えや渇きや身の不自由さなども忘れて、クリシュナを一心に見つめる中、クリシュナは七日間もの間、その山を持ち上げ続け、その間、全く姿勢を崩すこともなかったのでした。
 
 このようなクリシュナの素晴らしい力を見ると、インドラ神は非常な驚きに満たされ、もはやプライドを捨て去って、雲たちに激しい雨を降らせるのをやめさせました。
 
 やがて雲が去り、再び太陽の光が差し込むと、生き物たちが驚いて見守る中、クリシュナは持ちあげていた山を再びもとの場所に戻したのでした。

 ヴラジャの人々は、クリシュナへの愛の思いに心を満たされて、クリシュナのそばに駆け寄ると、クリシュナを抱き締めました。そしてゴーピーたちも喜びに満たされて、カードや米を振りまき、祝福の言葉を述べて、自分たちの愛の思いを表現したのでした。

 そして天界の神々たちも、クリシュナを賛美して、天から嵐のように花を振りまき、天の音楽神ガンダルヴァは、喜んで祝福の歌を歌ったのでした。

 クリシュナにプライドを打ち砕かれたインドラ神は、天からおりてきてクリシュナのもとに近づくと、クリシュナの御足に自らの頭をつけて礼拝し、クリシュナの偉大さを賛美しました。それに答えてクリシュナは、次のようにインドラ神に言いました。

「あなたがインドラ神の地位におごっているのを見て、あなたが絶えず私を思い続けられるように、慈悲によって、あなたへの礼拝をやめさせたのである。
 富と権力を誇ることで人は盲目となり、全宇宙の主である私のことさえも無視するようになってしまうのだ。それゆえに私は、そのような者に慈悲を注ごうとするとき、その者の豊かさを奪い去るのである。
 ああ、インドラ神よ。もうあなたは天界に帰りなさい。どうかあなたにとってすべてが幸いになるように。あなたはこれからも私に従い、無私の思いで義務を果たしていくのです。」

 その後、ゴーローカ(非常に高い領域にある、牛の天界)から、スラビ(多くの恵みを生み出す天の乳牛)が、子牛たちとともにやってきて、歓喜して次のように言いました。

「ああ、クリシュナ、クリシュナ、偉大なヨーギーよ。全宇宙の創造主よ。
 あなたは私たちにとって、唯一無二の最高神なのです。それゆえあなたは、どうか私たちの王となってください!
 なぜならあなたは、この地球の重荷を和らげるために、大地に降誕されたのですから!」

 クリシュナはこの願いを受け入れ、そしてスラビはその乳房から天のミルクをあふれるように流れださせると、その中でクリシュナに沐浴していただきました。
 
 そして、さまざまな名前を持つクリシュナは、このときから「ゴーヴィンダ(牛たちの王)」、「ギリダラ(山を持つ者)」などとも呼ばれるようになったのでした。
 
 

つづく

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