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クリシュナ物語の要約(15)「ヴェーヌ・ギーター(横笛にささげられた歌)」

(15)ヴェーヌ・ギーター(横笛にささげられた歌)

 季節は秋になりました。あるときクリシュナは、水が澄み渡り、蓮のかおりの風が心地よく吹く森の中へ、仲間の子供たちと牛たちとともに入っていきました。

 そこでは花が美しく咲き乱れ、ミツバチや鳥たちが楽しくさえずっていました。

 クリシュナはそこで、美しい横笛を吹き始めました。その横笛の音を耳にするや、ヴラジャの乙女たちは、クリシュナの姿は見えずとも、その調べに合わせて歌おうとしました。
 しかし、歌おうとするや否や、彼女たちは、愛くるしいクリシュナの姿を思い出し、こみ上げる愛の思いに圧倒されて、とても歌うことができなくなってしまったのです。

 するとそのときクリシュナは、まるで舞台の踊り子のように、横笛を吹きながら、彼女たちの心の中へと入っていきました。

 ヴラジャの乙女たちは、自分の中に入ってきたクリシュナを心の中で愛おしく抱きしめると、次のように歌い始めました。

「ああ、友よ、これこそが、眼を持つ者たちの、最高の誉れです。
 クリシュナとバララーマの二人の御子が、仲間とともに牛を導きて、横笛を奏でながらなげかける、そのまなざしよ。
 そのお顔を見て喜ぶことよりも大きな至福を、私たちは知りません。
 柔らかきマンゴーの葉と、クジャクの羽の飾り、蓮華の飾りをつけ、二人の御子は、絵のように美しく衣をまといて、仲間たちが歌う中、踊り子のように姿をあらわされた。
 ああ、この横笛は、いかなる善き行ないをなしたのだろうか。クリシュナの唇を味わい、その甘露の祝福を受けるとは。
 ああ、ヴリンダーヴァナの森は、クリシュナの御足で触れられて、その誉をさらに高めた。
 ゴーヴァルダナの丘では、クリシュナの横笛の調べを聞いて、クジャクは歓喜して踊り、それを見たすべての生き物は、動くのをやめてしまった。
 天の女神たちは、クリシュナのお姿を目にして、その唇で奏でられた不可思議な調べを耳に聞いて、愛の思いに心を乱され、髪から花を落として、裾もひどく乱れてしまった。
 甘露のごときクリシュナの横笛の調べを聞いて、子牛たちはクリシュナの姿を心にとめ、心の中で愛おしく抱きしめて、涙を流して立ち尽くす。
 ああ、友よ。これらの森の小鳥たちは、実はすべて聖者なのであろう。葉が茂る枝に止まって、まばたきもせずにクリシュナを見つめているとは。ああ、声も立てずに、クリシュナの横笛の甘い調べを聞かんとするとは。
 ああ、夏の日差しの中、クリシュナはバララーマや仲間とともに、牛たちに草を食ませて、横笛を奏でられる。空では雲が湧き上がって、愛しき主のために、傘のように大きく広がり、クリシュナを暑さから守りつつ、やさしく華を降り注ぐ。
 ああ、草の上では赤いサフランが、クリシュナの御足に踏まれてさらに赤く染まりあがる。愛にやつれた乙女たちは、顔や胸にそれを塗って、恋の苦しみを癒されよ。
 ああ、乙女たちよ。この山は、クリシュナの最高のしもべです。クリシュナとバララーマの二人の御子の蓮華の御足に歓喜して、彼らに清き水や葉を、洞窟や花をささげんとするとは。
 ああ、友よ。二人の御子は、仲間とともに、森から森へと牛を導き、横笛を奏でられる。美しきその調べに、生き物はすべて動きを失い、動かぬ木々は喜びを身にあらわした。」

 ヴリンダーヴァナにおけるクリシュナの遊戯を、ゴーピーたちはこのように歌いながら、それらに心を魅了されていくのでした。

つづく

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