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クリシュナ物語の要約(11)「ブラフマー神が主を賛美する」

(11)ブラフマー神が主を賛美する

 さてその後、クリシュナと子供たちはヤムナー河の砂浜に行き、もうお腹がペコペコだったので、皆で楽しくお弁当を食べ始めました。クリシュナが中心に座り、その周りを子供たちが幾重にもなって囲んで座りました。それはまるで、美しい蓮華の花のようでした。

 クリシュナは、腰布に横笛をさし、左手にはカード(ヨーグルト)をつけたご飯を、右手には果物を持ち、他愛ない冗談で仲間の子供たちを笑わせながら、昼食を楽しみました。その様子を、天の神々は驚異の目で眺めていました。

 このようにして子供たちがクリシュナに心を没頭させて食事をしている間に、いつの間にか子牛たちの姿が見えなくなってしまいました。森の奥へと迷い込んでしまったのです。

 クリシュナは、
「心配しないでもいいよ。僕が子牛たちを連れ戻してくるから、君たちはここで食事を続けていればいいよ。」
と言うと、一人で森の中へ子牛を捜しに行きました。

 さて、強大な悪魔アガまでがクリシュナに殺され、救済されたのを見ていたブラフマー神は、もっとクリシュナの素晴らしい栄光の力を見たいと思い、子牛と子供たち全員を、その神秘的な力で、別の場所へと隠してしまいました。

 クリシュナは子牛たちを見つけることができず、戻ってみると子供たちも全員消えていたので、そこら中を捜しまわりました。そしてこれはブラフマー神の仕業だと気づいたクリシュナは、ブラフマー神を喜ばせ、かつ子供たちの母親たちも喜ばせるために、消えたすべての子供たちと子牛たちと全く変わらぬ姿として、自分の分身をあらわしました。
 
 こうしてクリシュナは、自らの分身である子供たちと楽しく語らいながら、自らの分身である子牛たちを連れて、ヴラジャへと戻ってきたのでした。

 そしてクリシュナの分身であるその子供たちは、全く以前と変わらぬようにそれぞれの家に帰り、その家の子供として、それぞれの家にとどまったのでした!
 子どもたちの奏でる横笛を耳にすると、それぞれの母親は急いで席から立ち上がり、それぞれの子供たち(実は全員がクリシュナ)を愛おしくだきしめました。

 そして母牛たちも、クリシュナの分身である子牛たちを自分の子供とみなし、愛をもって乳を飲ませたのでした。

 子どもたちの母親や、母牛たちは、それぞれの子供たち(実は全員がクリシュナ)を、以前よりも深く愛しました。そして以前は持っていた「この子は自分のもの」という所有意識、エゴによる執着をいまや全く持つことなく、純粋な気持ちで、クリシュナが化身されたそれぞれの子供たちを深く愛したのでした。

 そしてこの遊戯の日々は、なんと一年間も続いたのでした。 

 あるときバララーマは、村の人々の子供への愛情、そして母牛たちの子牛への愛情が、以前とは比べ物にならないほど深く、大きく、純粋になっているのに気付き、いったいこれはどうしたことだろうかと考えました。そしてその智慧の目によって、子供たちと子牛たちの全員が、実はクリシュナそのものであることを見抜いたのでした。そこでバララーマがクリシュナにそのことを尋ねると、クリシュナは事の次第をバララーマに簡単に説明し、バララーマもそれを理解したのでした。

 さて、人間界の一年間は、ブラフマー神の世界では一瞬にすぎません。子供たちと子牛たちを隠したブラフマー神が、その人間界の時間における一年後に、再びその場へ戻ってくると、そこでクリシュナが以前と同じように、自分が隠したはずの子供たちと一緒に遊んでいるのを目にしました。

 いったいこれはどういうことなのか、ブラフマー神は理解することができず、その子供たちをじっと見続けました。するとその子供たちの全員が、青黒い肌をして、黄色の衣を身にまとい、四本の腕を持った、超越的な姿に変貌したのでした。そしてそんな彼らの一人一人に、この全宇宙のすべての被造物が、さまざまな礼拝を捧げているのを目にしたのです。
 さらに明と無明、24の宇宙原理、カーラ(時間)やスワバーヴァ(本性・自然)、サンスカーラ、愛欲、カルマ、三グナ、それらが人の姿となって、彼ら一人一人を囲んで輝いていたのでした。
 それら一人一人の子供たちは、純粋なる真理と意識、歓喜、祝福からなる、唯一の実在の体現だったのです。 
 これらの光景を見て、ブラフマー神は、驚きのあまりに呆然と立ち尽くしてしまいました。

 特有の栄光と祝福を持ち、マーヤーを超越し、論理によっては決して理解され得ないこの最高実在の姿を、ブラフマー神が理解できずに困惑しているのを見て、クリシュナはただちにマーヤーの煙幕をもとのように引き上げられたのでした。
 ブラフマー神がわれに返ると、そこには以前と同じような普通の人間界の外界の光景がありました。
 
 ブラフマー神はただちに自分の乗り物である白鳥から飛び降りると、四つの頭で次々とクリシュナの御足に礼拝を捧げ、歓喜の涙でその御足を濡らしたのでした。
 そしてブラフマー神は立ち上がると、自分が目にした主の栄光を思い出し、再び礼拝をし、立ち上がってはまた思い出して礼拝し、ということを何度も繰り返したのです。
 その後、ブラフマー神は、涙でぬれた眼をこすって、愛おしくクリシュナの姿を見つめました。そして合掌して深く頭を下げると、感動で体を震わせながら、クリシュナを賛美し始めたのでした。

「ああ、全宇宙が崇拝するお方よ。やさしき御足をされて、稲妻のごとき衣を身にまとい、肌は雨雲のように青黒く、クジャクの羽の冠が蓮華のお顔に眩しく映えるお方よ。私はあなたに礼拝を捧げます!
 ああ、征服されざる宇宙の主よ。聖者が語るあなたの物語を聞いて、心と言葉と身体であなたをあがめる者は、たとえ在家の者でも、あなたを悟ることができるのです。
 けれども、あなたへのバクティを無視して、一人で悟りを得ようと努力したとしても、彼らが手にする結果などは、結局はむなしきものとなるのです。
 ああ、今までまことに多くのヨーギーが、さまざまなヨーガや修行を実践した結果、最終的にすべての活動をあなたにゆだねて、あなたへの奉仕で得たバクティにより、自己を悟り、あなたの境地を手にしてきたのです。

 ああ、主よ。この私の悪しき様を、どうかご覧ください。私は無限者であるあなたを試そうとしたのです。私は何と無価値な者なのでしょうか!
 私は自分を独立した主と考え、宇宙の創造神という自負に陥って、あなたに罪を働いてしまったのです。ああ、あなたに庇護を求める私が犯した罪を、慈悲によってどうかお許しください!
 この私は、広大な宇宙卵(その中に様々な世界や星々があり、多くの衆生が住む、われわれが住むこの宇宙)を管理する者です。しかしそれと同じような無数の宇宙卵が、あなたの身体中の毛穴を、まるで原子のように行き来しているのです。そのように偉大なあなたと比べたら、この私は何と無価値な者なのでしょうか!
 
 この宇宙は、あなた以外はすべて幻だということが、今日、私に示されました。
 あなたの本質を理解できない者には、あなたは宇宙創造の際にはブラフマーとなり、それを維持するためにはヴィシュヌとなり、それを破壊するためにはシヴァとなると見えるのです。
 ああ、最高者であるあなたは、「生まれない者」でありながらも、慈悲のために、神々や人間や動物の姿となって、何度も地上に降誕されるのです。
 
 真我の本質を理解できない者には、無明ゆえに多様な宇宙が生じると見えて、彼が悟りを開いたなら、紐を蛇だと思っていた者が、紐を紐だと気づいたときに蛇の錯覚が消えるように、宇宙は主の中に消えていくのです。
 輪廻という束縛も、それからの解脱も、あなたを知らぬために生じた、偽りの概念なのです。その両者ともが実在ではないのです。あたかもそれは、太陽そのものには昼も夜もないようなものです。
 
 ああ、無限者であられる主よ。賢者はこの世界の中に、ただあなただけを求めようとします。しかし智慧の乏しき者は、あなたを捨てて、その肉体を自分であるとみなすのです。ああ、これは何と哀れむべき悲劇でしょうか!
 しかし、あなたの御足で祝福されたなら、そのような者も、あなたの栄光を悟ることができるのです。あなたの祝福がなければ、いくら自分で努力しようと、それは不可能なことなのです。
 それゆえ、ああ、全宇宙の守護者よ。どうか私にもその祝福をお与えください。私が将来、どのような世界に生まれようとも、いつもあなたの信者の一人として、やさしいあなたの御足に、愛をこめて奉仕することができますように!
 ああ、ヴラジャの牛やゴーピーたちは、何と祝福されているのでしょう! 彼女たちの胸からあふれる乳を、あなたは子牛や子供の姿になられて、アムリタ(甘露)のように味わわれたのです。彼らが味わった満足には、いかなる祭祀も匹敵することがないのです。
 
 あなたを知ると主張する者には、そうさせておけばよいでしょう。ああ、大いなる主よ、あなたの栄光は、ブラフマーである私でさえ、とうてい及ばぬところで輝いているのです。
 そのようなあなたに、私は宇宙の終わり(=ブラフマー神の一生)まで、礼拝をささげつづけることでしょう! 」

 無限者であるクリシュナを、ブラフマー神はこのように賛美すると、敬意をこめてその周りを三度回り、御足に礼拝をささげた後、自分の世界(ブラフマローカ)に帰って行ったのでした。

 そしてクリシュナは、ブラフマー神が隠していた子供たちや子牛たちを、もといた場所へ連れ戻されたのでした。
 その子供たちは、クリシュナと別れてから一年が経過していたにも関わらず、クリシュナのマーヤーによって、わずか一瞬の出来事と感じたのでした。そして子供たちはクリシュナに言いました。
「君は子牛をあちこち探し回って、やっと戻ってきたんだね。ぼくたちはまだお弁当を食べ終わってないから、君もここで一緒に食べるといいよ!」 

 これを聞くとクリシュナは心から笑い、彼らと一緒に食事を楽しんだのでした。そしてその後、皆で一緒にヴラジャに帰って行ったのです。

 そしてその子供たちは、
「今日、クリシュナのおかげで、とても大きな蛇が殺されて、僕たちはそいつから助けられたんだ!」
と、ヴラジャの人々に宣言したのでした。

つづく

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