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『釈迦牟尼如来』(13)

 
 さて、ヤサの父親に世尊が教えを説いているとき、ヤサは、自分の心をありのままに観察し瞑想し、執着が無くなり、心が煩悩から解脱しました。ゴータマはそれを知り、こう思いました。

『ヤサは、自分の心をありのままに観察した結果、執着が無くなり、心が煩悩から解脱した。ヤサはもうすでに、もろもろの欲望を享受することは無いだろう。よって、私はこの神通力を中止することにしよう。』

 こうして世尊は、ヤサの身体をヤサの父親に見えなくするという神通力を中止しました。それによってヤサの父親は、そばにヤサが座っているのを発見できたのでした。
 ヤサの父親は、ヤサに言いました。

『ヤサよ。お前が見えなくなって、お母さんは悲嘆に明け暮れているぞ。お母さんを悲しませないように、家に戻っておくれ。』

 ヤサは何も言わずに、ゴータマをじっと見つめていました。世尊はヤサの父親に言いました。

『長者よ、あなたはどう考えますか。ヤサはあなたと同様に、知識と直感によって、すでにダルマを見たのである。そして今、ヤサは、自分の心をありのままに観察した結果、執着が無くなり、心は煩悩から解脱した。
 長者よ。ヤサは、世俗の生活に帰ったとしても、前と同様に、もろもろの欲望を享受することができるだろうか?』

『尊師よ、それはできません。
 尊師よ、ヤサに執着が無くなり、心が煩悩から解脱したということは、ヤサにとってすばらしい利益です。
 尊師よ、世尊は今日、ヤサを従者として私の家においでになり、私の食事の供養をお受けになってください。』

 世尊は沈黙によって、ヤサの父親の願いを受け入れました。そこでヤサの父親は、世尊に恭しく礼拝をして去って行きました。

 ヤサの父親が立ち去ってまもなく、ヤサは世尊に言いました。

『尊師よ、私は世尊のもとで戒を受け、出家したいのです。』

 それに対して世尊はこう言いました。

『来たれ、修行者よ。法は十分によく説かれた。正しく苦しみを滅するために、梵行を行なえ。』

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