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「最後の説得」

(38)最後の説得

☆主要登場人物

◎ドリタラーシュトラ・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目の王。善人だが優柔不断で、息子に振り回される。
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は至高者の化身。
◎ヴィドラ・・・ドリタラーシュトラ王の主席顧問。マハートマ(偉大なる魂)といわれ、人々から尊敬されていた。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎サンジャヤ・・・ドリタラーシュトラ王の御者。
◎ドラウパディー・・・パーンドゥ五兄弟の共通の妻。
◎ガンダーリー・・・ドリタラーシュトラの妻。クル兄弟の母。

※クル一族・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たちとその家族。
※パーンドゥ一族・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たちとその家族。パーンドゥの五兄弟は全員、マントラの力によって授かった神の子

 パーンドゥ一家のところへ使いに行ったサンジャヤは、ハスティナープラへ戻ってきて、そこに集まっていた人々に、パーンドゥ家との会話の内容を詳しく報告しました。

 話を聞いた後、ドゥルヨーダナは立ち上がって言いました。
「父上よ、私たちのことは心配しないでください。われわれは必ず勝つでしょう。ユディシュティラも、それを知っているからこそ、王国を手に入れる望みを捨て、五つの村をくれるだけでいいという妥協案を言ってきたのではありませんか。これこそ、彼がわれわれの軍におびえている証拠です。」

 しかしドリタラーシュトラ王は言いました。
「息子よ、戦争はやめよう。王国の半分をユディシュティラに差し出し、半分の領地で満足しなさい。それで十分ではないか。」

 ドゥルヨーダナは憤慨して、
「パーンドゥ兄弟になど、針の先ほどの領地だって渡すものか!」
と叫ぶと、その場から立ち去ってしまいました。クル族の人々の間では、またもやさまざまな意見が飛び交い、大混乱になってしまいました。

 一方、ユディシュティラは、サンジャヤが去った後、クリシュナにこう言いました。
「クリシュナよ。サンジャヤは、ドリタラーシュトラ王の分身のような存在です。彼の会話や態度を通して、彼らの考え方がよくわかりました。
 ドリタラーシュトラたちは、われわれに領土を返すことなく、戦争を避けようとしているようです。私はサンジャヤの話を聞いて最初は喜んでいましたが、でもすぐにぬか喜びだということに気づきました。平和を願っていると言いながら、彼らは結局、われわれの正当な要求を拒絶しているのです。
 私は、たった五つの村をくれるだけでいいと伝言しましたが、おそらく彼らはそれさえも断ってくるでしょう。」

 クリシュナは答えて言いました。
「両家にとって最善の方法を見極めるために、私はハスティナープラへ行こう。ドリタラーシュトラ王の宮殿に行き、君たちの正当な要求を通した上で、しかも戦争をしないですむように、できるだけ努力してみよう。」

 それを聞いたユディシュティラは、クリシュナを引きとめて言いました。
「クリシュナよ、どうか行かないでください。今になって彼らのところへ行っても無駄だと思います。強情なドゥルヨーダナが、意見を変えるはずがありません。あのような良心のかけらもないような連中のところへ、あなた様を行かせたくはありません。あなた様の身の安全を危うくするようなことはできませんし、彼らを説得することは不可能です。」

 クリシュナは答えました。
「ユディシュティラよ。ドゥルヨーダナがどれだけ悪いやつか、私もよく知っているよ。だが、平和的解決のためには、あらゆる手段を尽くしておかなくてはならないのだ。ほとんど成功の望みのないことでも、し残しておいてはいけない。
 私の身の安全については、心配しないでよろしい。もし彼らが私に危害を加えようとすれば、彼らのほうが灰になってしまうだろう。
 情勢は険悪であり、戦争のにおいがする。だが最後まで平和のための糸口を探し続けるのが、私たちの義務なのだ。」

 こうしてクリシュナは、平和的解決のためにハスティナープラへと向かうことになったのでした。出発に先立ってクリシュナは、パーンドゥ家の人々と、長時間にわたって議論を交わしました。意外なことに、世界一の剛勇といわれるビーマでさえもが、平和的解決をすべきだと強く主張したのでした。これは、平和を望むことは臆病さの表われではなく、真に偉大な武人は平和を愛するのだということの一つの象徴でした。
 しかし逆に、昔受けた屈辱を忘れることのできないドラウパディーは、復讐のために彼らと戦うことを主張し、涙を流しました。クリシュナは彼女を慰めて言いました。
「おそらくドゥルヨーダナたちは、私の言うことに耳を貸さないだろう。そして戦争になれば、必ずパーンドゥ家が勝利するだろう。」

 パーンドゥ家とさまざまな議論を交わした後、クリシュナは、サーティヤキを従えて、早速ハスティナープラへと向かったのでした。

 ハスティナープラについたクリシュナは、まずヴィドラの屋敷へ行き、そこで休憩を取りつつ、ヴィドラと討議をしました。ヴィドラは言いました。
「ドゥルヨーダナが尊大に構えている理由は、ビーシュマやドローナが、武士としての道義上の責任から彼を見捨てるはずがなく、したがってその二人がクル側についている限り、自分たちは誰にも負けるはずはないと確信しているからです。」

 また、ヴィドラもクリシュナの身の危険を案じて言いました。
「あの悪者のいる宮殿に足を踏み入れることは、あなたにとって大きな過ちを犯すことになります。なぜならドゥルヨーダナとその弟たちは、悪知恵を使ってあなたのお命を狙う可能性がありますから。」

 クリシュナは答えて言いました。
「君の言う事はあたっているだろう。しかし私は、平和的解決のためにできるだけのことをするためにここへ来たのだ。私の命など、心配は無用だよ。」

 翌朝、クリシュナは、クル家に友好的な大勢の王たちが待つ宮殿に入りました。クリシュナは、パーンドゥ家の要求をはっきりと主張すると、さらにこう言いました。
「ドリタラーシュトラよ。一族を破滅に追いやることのないようにしておくれ。
 あなたは、自分にとって良いことを悪い、悪いことを良いと錯覚している。息子たちを抑制するのが、あなたの義務だ。パーンドゥ家は戦争の準備を整えているが、真に願っているのは平和なのだ。あなた方と共に、幸福に暮らしたいと願っている。あなたが名誉ある決定をされ、彼らを受け入れたならば、全世界はあなたに喝采を送るだろう。」

 ドリタラーシュトラは答えて言いました。
「あなた様のおっしゃったとおりのことを、私も願っているのです。だが私には力がない。息子たちは私の言うことをきかないのです。クリシュナよ、どうかあなたが息子たちを説得してください。」

 そこでクリシュナは、ドゥルヨーダナに向かって言いました。
「君は高貴な家柄の血筋を引いているのだから、ダルマの道を行きなさい。君が今考えていることは全くくだらないことで、卑しい人間にふさわしいことだよ。君のせいで、この名家の血筋が今途絶えようとしている。それがわからないのか。
 もし君がダルマにかなった正しい行動を取れば、パーンドゥ兄弟はドリタラーシュトラを自分たちの王としてあがめ、君を王位継承者とすることだろう。だから彼らに王国の半分を分けて、仲直りしなさい。」

 ビーシュマとドローナも、クリシュナのおっしゃるとおりにしなさいと、ドゥルヨーダナを説得しました。しかしドゥルヨーダナは頑として意見を聴こうとしません。

「愚かな息子のために悲惨な目にあう親、ドリタラーシュトラとガーンダーリーが哀れです。」
と、ヴィドラは嘆きました。

 ドリタラーシュトラも息子に言いました。
「クリシュナの言うとおりにしないと、われら一族は本当に破滅してしまうぞ。」

 ビーシュマとドローナは、繰り返し繰り返しドゥルヨーダナを説得し、過ちから救おうとしましたが、ドゥルヨーダナはかえって怒りをまして、こう言いました。
「クリシュナよ、あなたはパーンドゥ兄弟を愛するがあまり、この私を悪者になさる。他の者たちも同じように私を責めなさるが、この問題に関しては、私は微塵たりとも非難される理由はない。
 パーンドゥ兄弟は自ら好んで賭け事をし、自らの領土を賭け、そして負けたのだ。このことがどうして私の責任になるのですか? 
 私が少年のころ、年長者たちは、何の権利もないパーンドゥ家に、領土の半分を与えた。これは私たち兄弟にとっては、とんでもない仕打ちですよ。だが私はそれを甘受した。その王国を、彼らは賭け事をして失った。だから返還はお断りする。私は何も悪いことなどしていないし、ひとかけらの責任もないのだから。針の先ほどの土地だって、彼らにやるつもりはありません!」

 自分は何も悪いことをしていないし、責任もないとドゥルヨーダナが言ったので、クリシュナは笑って言いました。
「あの賭け事は、君とシャクニが共謀して、パーンドゥ兄弟をペテンにかけたものだし、しかも君は、王族たちが集まっているその面前で、ドラウパディーを散々辱めたではないか。それなのに君は恥ずかしげもなく、悪いことはしなかったなどと言うのかね。」
 そしてクリシュナはそれ以外にもドゥルヨーダナがパーンドゥ家に対して行なった不正行為の数々をあげました。ドゥルヨーダナとその弟たちは、憤慨してその場から出て行ってしまいました。

 クリシュナはドリタラーシュトラ王に言いました。
「王よ。多くの人々を救うには、時には何かを犠牲にしなければなりません。皆さんの一族を救おうと思ったら、ドゥルヨーダナを犠牲にしなければならぬかもしれませんよ。それが唯一の道です。」 

 ドリタラーシュトラは、ヴィドラに言いました。
「ガンダーリーをここへ呼んでおくて。母の言うことなら、ドゥルヨーダナも聞くかも知れぬ。」

 ガンダーリーが呼ばれてくると、ドゥルヨーダナも再びつれてこられました。彼の眼は怒りのために真っ赤に充血していました。ガンダーリーは、あらん限りの努力で、息子を正気に立ち返らせようとしましたが、ドゥルヨーダナは最後まで言うことをきかず、再び立ち去ってしまいました。
 
 ドリタラーシュトラはクリシュナに言いました。
「すべての努力は無駄になりました。ドゥルヨーダナは手に負えません。」

 やるべきことを終え、クリシュナはハスティナープラを立ち去ることにしましたが、その前に、生まれつき盲目のドリタラーシュトラ王に祝福を与えて、彼の眼を見えるようにしてあげました。
 そしてさらにクリシュナは、彼自身の正体――この宇宙のあらゆるところに偏在する、至高者としての荘厳で恐るべき姿を、特別にドリタラーシュトラ王に見せました。
 ドリタラーシュトラ王は驚きと恐怖と感動に包まれ、クリシュナに言いました。

「おお、クリシュナ様! あなた様の真の姿、宇宙に偏在する至高者としての姿を見せていただきましたので、私はもう他には何も見たくはございません。どうかまた盲目に戻してくださるよう、お願いいたします。」

 こうして彼は再び盲目に戻ったのでした。

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