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「それぞれの道」

(40)それぞれの道

☆主要登場人物

◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。クンティー妃とダルマ神の子。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。一族の長老的存在。
◎クリシュナ・・・パーンドゥ兄弟のいとこ。実は至高者の化身。
◎バララーマ・・・クリシュナの兄。非常に強い。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎ドルパダ・・・パンチャーラの王。ドラウパディーの父。ドローナに敵対心を抱く。
◎ヴィラータ・・・マツヤ国の王。
◎ドリシュタデュムナ・・・ドルパダ王の息子。ドラウパディーの兄。ドルパダの祈りにより、ドローナを殺すために生まれてきた。
◎シカンディン・・・ドルパダ王の娘。ビーマを殺すために生まれてきた。もとは女性だったが、苦行によって男性になった。
◎サーティヤキ・・・クリシュナと同じヤドゥ族の偉大な戦士。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。クンティー妃と風神ヴァーユの子。非常に強い。

※クル一族・・・盲目の王ドリタラーシュトラの百人の息子たちとその家族。
※パーンドゥ一族・・・ドリタラーシュトラの弟である故パーンドゥ王の五人の息子たちとその家族。パーンドゥの五兄弟は全員、マントラの力によって授かった神の子

 クリシュナの説得にもドゥルヨーダナは従わず、もはや戦争は避けられないという事態になったため、ユディシュティラはパーンドゥ軍の戦闘隊形を整えました。彼らは七つの戦団を作り、それぞれの長には、ドルパダ、ヴィラータ、ドリシュタデュムナ、シカンディン、サーティヤキ、チェーキターナ、そしてビーマを任命しました。
 
 ユディシュティラはさらに全体を統率する最高指揮者を誰にするか、兄弟たちに意見を求めました。それぞれがそれぞれの理由を挙げて何人かを推薦しましたが、ユディシュティラは決めかね、最後はクリシュナに意見を求めました。クリシュナは言いました。

「みなの言った意見はそれぞれ納得できるが、よく考えた末、私はドリシュタデュムナが最高指揮者になるのが良いと思う。」

 こうしてパーンドゥ軍の最高指揮者には、ドルパダ王の祈りによってドローナを殺すために生まれてきた男、ドラウパディーの兄であるドリシュタデュムナがつくことに決まったのでした。パーンドゥ軍は戦闘形態を整え、法螺貝の音、戦士たちの雄たけび、象のほえ声などを高らかに響かせながら、決戦の地と決まったクルクシェートラの平原に入っていきました。

 一方クル軍のドゥルヨーダナは、ビーシュマにどうか最高指揮者となってくれるようにと頼みました。ビーシュマは言いました。
「よろしい。だが、わしにとっては、パーンドゥの息子たちも、お前たちドリタラーシュトラの息子たちも、同じようにかわいい孫たちだ。わしは軍を指揮して義務を果たそう。わしの発する矢は、戦場において毎日多くの敵を殺すだろう。しかし、パーンドゥ兄弟を殺すことは、わしにはできない。もともとわしはこの戦争に不賛成だったのだしな。パーンドゥ兄弟を殺すことをのぞいては、わしはこの戦争に全力を挙げて責務を尽くすつもりだ。
 それからもう一つ。カルナのことだが、あいつはわしのことを不満に思い、わしの考えを嫌っている。お前は彼が気に入っているようだから、わしよりもあいつに軍を任せて、戦闘を指揮させたらどうだね。わしは一向に構わんよ。」

 またカルナのほうも、こう言いました。
「ビーシュマは私を嫌っているようだから、ビーシュマが生きている間は、私は控えていよう。ビーシュマが死んだ後、初めて戦闘に加わるよ。そして必ずアルジュナを殺す。」

 このようにクル軍は、戦争に入る前から、内輪もめをしていました。

 結局ドゥルヨーダナは、ビーシュマの「自分はパーンドゥ兄弟は殺さない」という条件を受け入れて、最高指揮者になってもらいました。こうしてクル軍も戦闘隊形を整えて、クルクシェートラの大平原へと入って行きました。

 
 パーンドゥ軍が野営しているところに、クリシュナの兄であるバララーマがやってきました。大歓迎で迎えるパーンドゥ兄弟に対して、バララーマは言いました。
「ダルマ神の息子・ユディシュティラよ、救いようのない大破滅が目の前に迫っている。大地は、見渡す限りに死体が転がる血の沼池になろうとしているのだ! 不吉な運命がクシャトリヤたちを狂わせ、自らを破滅させるべく、ここに大集合させている。
 私はクリシュナに何度も言った。『クル族もパーンドゥ族もわれわれの親戚だ。彼らが愚かな争いを始めても、どちらの側にもつかないことだ』とね。しかし弟は私の言うことを聴こうとしない。クリシュナはパーンドゥ兄弟を愛するがあまり、誤った行動をとり、戦争を是認して、今ここに君たちと共にいる。
 クリシュナと私が敵対することなどどうしてできよう。またビーマとドゥルヨーダナは二人とも私の弟子であるので、どちらか一方の側につくということもできない。それにクル軍が滅ぼされるのも、見てはいられない。
 考えに考えた末、私は今回のこの大戦争とは、一切のかかわりを持たないことにした。今回の一連の悲劇を見て、私は世の中がすっかり嫌になってしまったので、これから聖地巡礼の旅に出るつもりだ。」

 こうしてバララーマは、心を悲しみに満たしつつ、神に慰めを求めて、聖地巡礼へと旅立っていったのでした。

 バララーマが苦悩しつつ結果としてこの戦争に加わらなかったこのエピソードは、善良で誠実な人々がしばしば経験する困った立場を、よく表わしています。この種の苦境に立たされるのは、誠実な人だけです。世の不誠実な人々は、自分の好きなほう、利益になるほうを選ぶだけだからです。しかし私利私欲を離れた偉大な人はそんなことはしません。
 マハーバーラタの物語の中では、このバララーマだけではなく、ビーシュマ、ヴィドラ、ユディシュティラ、カルナなどが、こういった選択の試練に立たされています。そしてそこで彼らが選ぶ道は、単純な道徳論に従った道ではなく、それぞれの性格やカルマにしたがって、正しいと思われるほうを選んでいるのです。よってそれは多様性のある道となります。
 現代の批評家や評論家は、とかくすべてを同じものさしで計ろうとしますが、それは全くの誤りです。さまざまなカルマ、使命、性質によって、それぞれが選ぶべき道は変わってくるのです。

 このクルクシェートラ平原の大戦争においては、当時のインドのほとんどの王族が、クル軍かパーンドゥ軍のどちらかにつき、戦闘に参加しました。参加しなかった王族は、このバララーマと、ルクマ王だけでした。

 ルクマ王がこの戦争に参加しなかった理由は、バララーマの場合とは全く違っています。それを簡単に説明しましょう。
 ルクマ王の妹であるルクミニーは、実はヴィシュヌ大神の妃であるラクシュミー女神の化身でした。クリシュナはヴィシュヌ大神の化身なので、ルクミニーはクリシュナに自然に心ひかれ、クリシュナの妃になることを望みました。
 しかしルクマ王はクリシュナのことをよく思っていなかったので、ルクミニーとクリシュナの結婚に反対し、別の男と結婚させようとしました。事情を知ったクリシュナは戦車に乗って颯爽とやってきて、ルクミニーを奪い去りました。怒ったルクマは大軍を率いてクリシュナを殺そうとしましたが、クリシュナを助けに来たバララーマの軍と戦闘になり、結局バララーマの軍が勝ち、めでたくルクミニーはクリシュナの妃となったのでした。

 ルクマ王は、このたびのクルクシェートラの大決戦の話を聞き、パーンドゥ軍に加勢することで、クリシュナと仲直りすると共に、名誉をあげようと思い、大軍勢を率いて、パーンドゥ軍の陣営にやってきました。そして尊大な態度で、こう言いました。
「パーンドゥ兄弟よ。敵は実に強大ですぞ。私はあなた方を助けにやってまいりました。お望みならば、敵どものどんな部隊でも撃破してご覧に入れましょう。相手がドローナでもビーシュマでもカルナでも、私は勝つ自信があります。私があなた方を、勝たせてあげますよ。さあ、私に何をしてほしいか、ご希望をお聞かせください。」

 ルクマ王のこのような尊大な発言を聞いて、アルジュナは思わずクリシュナと顔を見合わせて笑い、ルクマ王に言いました。
「ルクマ王よ。われわれは敵軍を恐れていません。取り立ててあなたの助けが必要なわけではないので、あちらへ行くなり、こちらにとどまるなり、お好きなようになさってください。」

 こう言われたルクマ王は、怒りと恥ずかしさでいっぱいになり、軍勢をクル軍のほうへ移動させ、ドゥルヨーダナに言いました。
「パーンドゥ軍は、私の援軍を断りました。ですからわれわれはあなた方のほうにつきましょう。」

 こう言われたドゥルヨーダナは、こう答えました。
「パーンドゥ軍に断られたから、こちらに来たというのですか。私どもはあいつらの残り物をいただくほど、困ってはいないのです。」

 こうしてルクマ王は、どちらの陣営からも冷たくあしらわれてしまい、面目を失って故郷に帰りました。

 ルクマは高慢な性格のゆえに、参戦を取りやめざるを得ない結果になりました。彼はダルマに従って行動しようとはせず、ただ自分の私欲と名利だけを考えていたので、両軍とも彼を受け入れなかったのです。

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