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「至高者の歌」

(41)至高者の歌

 クル軍とパーンドゥ軍は共にクルクシェートラ大平原に集結し、戦いの準備はすべて整いました。

 戦闘の開始に先立って、両軍の戦士たちが集まり、クシャトリヤの戦争における伝統的な法規を、名誉にかけて守ることを厳かに誓いました。

・毎日、日が沈むと共に、戦闘行為は一切中止される。
・一対一の個人戦においては、同じ条件の者同士で戦うこと(たとえば武器を持つ者が武器を持っていない者と戦うことは許されない)。
・決してダルマに反する方法を用いて戦ってはならない。
・何らかの理由で戦線を離脱した者には、攻撃を加えてはならない。
・騎兵は騎兵と戦い、決して歩兵を相手にしてはならない。
・同様に、戦車隊は戦車隊と、象隊は象隊と、歩兵隊は歩兵隊と、同じ規模同士で戦うこと。
・命乞いや降伏をしている者を殺してはいけない。
・一騎打ちをしている者を、第三者が横から武器で攻撃してはならない。
・武器を持っていない者、よそ見をしている者、退却している者、鎧をなくした者、これらの者を殺してはならない。
・非戦闘員や、法螺貝を吹いたり太鼓を叩いたりしている者を攻撃してはならない。

 これらが、クル軍とパーンドゥ軍の戦士たちが名誉をかけて守ると誓った戦規でした。

 このクルクシェートラの戦いにおいて、これらの戦規は、ときおり何らかの理由で破られることもありましたが、全体的には両軍とも立派にこれらの決まりごとを守っていました。

 さて、クル軍の総司令官ビーシュマ長老は、クル軍の王族たちを集めて、このように言って鼓舞しました。
「英雄たちよ、輝かしいときがやってきた。
 いざ、クシャトリヤ(武士)のダルマに従え。喜びをもって戦え!
 クシャトリヤは、病床の死も、老衰の死も望まず、むしろ戦いにおける死を望む!」

 なみいる王族たちはラッパを吹き鳴らし、天にも届くような勝どきをあげて、ビーシュマ大元帥の言葉に答えました。

 棕櫚の樹と五つの星を描いたビーシュマの旗が、燦然と輝いています。
 ライオンの尻尾を描いたアシュワッターマンの旗が、風になびいています。
 黄金色の布地に苦行者の鉢と弓をあしらったドローナの旗が、きらきら光っています。
 ドゥルヨーダナの有名なコブラの旗も、風に踊っています。
 クリパの旗は雄牛、他の人々もそれぞれの紋章を描いた美しい旗を掲げています。

 クル軍の勢ぞろいを見て、ユディシュティラはアルジュナに言いました。
「敵軍はまことに巨大で、わが軍は数において劣る。
 だからわれわれの戦術は、『展開』ではなく『集中』だ。
 『展開』は兵力を弱めるだけだ。兵を『針の隊形』に集結させよ。」

 
 ドリタラーシュトラ王は、盲目だということもあり、この戦争には参加していませんでしたが、戦況を細かく知りたいと思っていました。そこで聖者ヴィヤーサは、ドリタラーシュトラ王の御者のサンジャヤに、遠くの出来事を事細かに見通せる千里眼を与えました。こうしてサンジャヤは千里眼で戦争の状況をつぶさに見、それをドリタラーシュトラ王に細かく報告することになったのでした。

 さて、アルジュナは、猿の絵柄の旗印を掲げ、クリシュナを御者とし、白馬のひく戦車に乗り、颯爽と愛弓ガーンディーヴァを取り上げました。そしてクリシュナに言いました。
「クリシュナよ! どうか戦車を、前のほうに走らせてください。今から戦うべき敵たちを、私はよく見ておきたいのです。」

 そこでクリシュナは戦車を戦列の前のほうにまで持ってきました。アルジュナはそこから、立ち並ぶ敵たちの顔を見たのでした。
 祖父であるヴィーシュマ爺さん。
 武術の師匠であるドローナ師とクリパ師。
 叔父であるシャリヤ。
 いとこであるクル兄弟たち。
 その他、多くの自分の親戚や友人たちが、敵としてそこにずらっと並んでいるのを見たのです。

 このように、さまざまな親類縁者や友人同士が、両軍に分かれて殺しあおうとしているのを見たとき、アルジュナは悲痛の思いに駆られ、手足は震え、髪の毛が逆立ち、手からは愛弓ガーンディーヴァがずり落ちました。
 心は動揺し、立っていることさえできなくなったアルジュナは、クリシュナにこう言いました。

「おお、クリシュナよ! 私には、ただ不吉な前兆が見えるだけです。親族同士で殺しあって、いったい何の利益があるというのでしょうか。
 私は、勝利も領土も幸福もほしくはありません!
 師や親類縁者方を、私は殺したくはありません。たとえ私自身が殺されようと、彼らを殺したくはありません。たとえそれによって地上の王国はおろか三界すべてを手に入れることができようとも、そんなことはしたくはありません。
 たとえドゥルヨーダナたちが悪人であっても、彼らを殺すなら、今度は自分たちが罪を犯すことになります。
 ああ、私たちは何という大罪を犯そうとしているのでしょう!」

 このように言うとアルジュナは、弓も矢も投げ捨てて、悲しみに打ちひしがれたまま、座り込んでしまいました。

 そのようなアルジュナに対し、クリシュナは言いました。
「アルジュナよ! こんな大事なときに、君のどこからそんな弱気が出てくるのだ?
 そんな態度は男らしくないし、全く君にはふさわしくない。さあ、弱気を捨てて立ち上がりなさい!」

 そしてクリシュナはアルジュナに対して、悲しむべきでない理由と共に、さまざまなヨーガの教えを説き、正しい考え方と正しい生き方を示しました。
 このときのアルジュナとクリシュナの会話が、後に「バガヴァッド・ギーター(至高者の歌)」としてまとめられ、これは人類における最高の聖典の一つとなりました。現代のインドでも、バガヴァッド・ギーターは、宗派を超えてあがめられ、読まれています。

 さらにクリシュナは、自分が人間の姿を借りて現われたアヴァター(化身)であり、その正体は、宇宙のあらゆるものに偏在する至高者であることを明かしました。
 そしてアルジュナの懇願により、その至高者としての荘厳で恐るべき姿を、アルジュナに見せたのでした。
 恐れおののくアルジュナに向かって、クリシュナはこう言いました。

「私は世界を破壊する大いなるカーラ(時)であり、人々を滅ぼすためにやってきた。
 だから、君がいようがいまいが、両陣営のすべての将兵は誰一人生き残ることはないであろう。
 それゆえ、君は立ち上がって戦い、栄誉を勝ち取るがいい。そして敵を倒して王国の繁栄を楽しむことだ。
 私はすでに彼らの死を決定したのだから。君はただ私の『戦う道具』となればよい。おお、弓の名手よ!
 ドローナ、ビーシュマ、カルナをはじめ、他の豪傑たちの命はすでに私が奪った。
 ゆえに彼らを殺しても悩み恐れることはない。君はただ戦いに勝ち、敵を滅ぼしさえすればいいのだ。」

 このようにしてクリシュナは、この戦争の背後にあるより深い意味を説き、そしてさまざまなこの宇宙の真実を説きました。
 存在するように見えるものはすべて幻であり、この世界にはただひとつの実在、至高者クリシュナしか存在しないのだということを、クリシュナはアルジュナに教えたのでした。

 そして最後にクリシュナは、アルジュナにこう言いました。

「常に私を思い、私を信じ、私を愛し、私を供養し、私に帰依し、礼拝しなさい。
 そうすれば、君は必ず私のところに来られる。君は私の信愛の友だから、そのことを君に約束する。
 あらゆる宗教の形式を斥け、ただひたすら私に頼り、服従しなさい。
 そうすれば、私がすべての悪しきことから君を守ってあげよう。だから、なんら心配することはない。
 ただし、禁欲や修行をしない者、信愛の心がなく、私に奉仕をせぬ者、私のあら捜しをする者には、君は決して、この秘密の教えを伝えてはならぬ。
 だがこの秘密の教えを、私に対する篤い信愛の心を持って、私の信者たちに伝える人は、必ず私のもとへと到達する。
 この世界において、そのような人以上に真心をこめて私に奉仕をする人はおらず、この世界の中で、そのような人以上に私が愛する人はいない。
 私たちのこの神聖な対話を学ぶ人は、その優れた智性を私に供養し、私を崇め礼拝することであろう、と私はかたく信じている。
 また反感を抱くことなく、この対話を素直に聞いて信じる人も、もろもろの悪しきカルマから解放され、徳ある者たちの住む吉祥妙楽の世界へと入ることであろう。
 さて、君は私の話をしっかりと心して聞いたであろうか?
 君の無智と迷妄は、これですっかり追い払われたかな?」

 アルジュナは答えて言いました。
「あなたの恩寵により、私の迷妄は消え、正しい認識が得られました。
 今までの疑念は消え、私の信念はもう揺るぎません。あなた様のお言葉通りに行動いたします!」

 さて、聖者ヴィヤーサによって千里眼を与えられたサンジャヤは、この一連のアルジュナとクリシュナの会話を見聞きし、そのすべてを細かくドリタラーシュトラ王に伝え、そして最後にこう言いました。

「私は至高主クリシュナと、偉大なる魂アルジュナとの対話をこのように聞きましたが、そのあまりにすばらしい内容に、今、私の全身の毛が逆立っています。
 私は、ヴィヤーサの恵みにより、最高にして最も神秘な教えについて、すべてのヨーガをつかさどる救世主クリシュナが、自ら直接語るのを聞くことができたのです。
 この驚嘆すべき神聖な会話を、思い出せば思い出すほど、歓喜が何度も何度も私の胸にこみ上げてまいります。
 至高主ハリの、あの驚くべき形相を思い出せば思い出すほど、私の驚きは増し、私に大歓喜の波が、繰り返し繰り返し押し寄せてまいります。
 ヨーガの自在神クリシュナのいますところ、弓の名手であるアルジュナのいるところ、必ずや幸運と勝利と繁栄と健全な道義が実在することを、私は確信しております。」

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