この世で
ラーマクリシュナ僧院の僧で、シアトルのヴェーダーンタ協会を設立したスワミ・ヴィヴィディシャーナンダは、晩年、二度にわたって脳卒中で倒れた。その後、退院したが病状は回復せず、周りにいる人間の気配すら感じ取れなくなっていた。また普通に会話することもできず、不明瞭なことをぶつぶつとつぶやくようになっていた。
ある日、弟子の一人がヴィヴィディシャーナンダの部屋を訪ね、そばに座った。その弟子はそのときあることで落ち込んでおり、師のそばに行きたかったのだ。ヴィヴィディシャーナンダはいつものようにぼんやりとして、その弟子が入ってきたことにも気づいていないようだった。弟子はただ静かに座り、師のそばにいることを心地よく思っていた。ヴィヴィディシャーナンダは力なく寝椅子に背をもたれ、何かをつぶやいていた。そのようにして二人きりの時間がしばらく過ぎた。
すると突然、ヴィヴィディシャーナンダは椅子にまっすぐに座り直し、はっきりとした力強い声でこう言った。
「この世で気分を害するほどに価値のあることは何一つ存在しない。」
そしてヴィヴィディシャーナンダはまた寝椅子にもたれかかり、再びぼんやりとして、外界を意識していないような状態に戻った。
しかしこの突然発された言葉は弟子のハートに強力なパワーをもって直入し、彼の心の問題を一瞬で消し去った。そしてそれは二度と忘れられることはなかった。