yoga school kailas

「ヴィヴェーカーナンダ」(24)

 講演、ヨーガのクラス、個人指導、手紙のやり取り、書籍の執筆など、救済のさまざまな活動に燃えるように従事していたヴィヴェーカーナンダは、1985年の中ごろには、さすがにすっかり疲れきっていました。
 ニューヨークにおけるヴィヴェーカーナンダの生徒の一人だったエリザベス・ダッチャー嬢は、そんなヴィヴェーカーナンダのために、セントローレンス河のほとりにあるサウザンド・アイランド・パークにある彼女が所有する別荘に招待しました。
 ヴィヴェーカーナンダは喜んでその招待を受け入れ、その静かな環境で、12人の弟子たちとともに、7週間にわたり、休息と修行の日々を過ごしたのでした。
 ヴィヴェーカーナンダは、自分の多くの生徒の中で、修行の実践に本当に熱心な者のみをこの別荘に連れてきました。この中からヴィヴェーカーナンダは、数人でもよいので、真のヨーガ行者を完成させたいと思ったのです。
 このときの12人の弟子の中には、死に至るまでヴィヴェーカーナンダに忠実に仕えた、シスター・クリスティンやJ・J・グッドウィンなどもいました。

 ヴィヴェーカーナンダは、この隠遁所の不断の静けさの中、かつてラーマクリシュナがドッキネッショルで弟子たちを導いたのと同じ雰囲気で、弟子たちを導きました。ヴィヴェーカーナンダは別荘の三階に宿泊し、弟子たちは一階に宿泊し、そして二回の部屋で、ヨーガの講習や、会話と沈黙による彼らの親しい交わりがなされたのでした。

 12人の弟子たちになされた講義において、ヴィヴェーカーナンダは、聖書、バガヴァッド・ギーター、ウパニシャッドなどの講義に加え、一般向けの講義では封印していた、自らの師であるラーマクリシュナについて、彼の思想や日常生活などについて、熱心に弟子たちに語りました。

 ここに集った12人の弟子たちは皆キリスト教徒でしたが、ヴィヴェーカーナンダの激しい教えに、混乱する者もいました。たとえばこの別荘の所有者であるダッチャー嬢は、革命的ともいえるヴィヴェーカーナンダの教えに、しばしば圧倒されました。今まで信じていた自分の理想、価値観、宗教についての概念などのすべてが、打ち砕かれていくように思われたのです。彼女は時にはヴィヴェーカーナンダと口論をし、数日間、姿を見せないこともありました。
「ダッチャー嬢は最近姿を見せませんが、どうしたのでしょうか? ご病気でしょうか?」
という問いに対して、ヴィヴェーカーナンダはこう言いました。
「これは普通の病気ではありません。その病気は彼女の心に生じつつある大混乱に対する肉体の反動です。彼女はそれに耐えられないのです。」

 ヴィヴェーカーナンダはこの別荘においてさまざまな講義をしましたが、いつも主題は「神の実現」ということに帰結するのでした。そしてその基盤としての戒律の遵守を強調しました。正直、誠実、非暴力、自制、不盗、禁欲などなしに、霊性の向上はありえない、と強調しました。

「すべての教団において、性的な純潔が強調されるのには理由があります。精神的な巨人は、純潔の誓いが守られるところからのみ生まれます。
 性的な純潔と霊性の向上の間にはつながりがあります。祈りと瞑想を通じて、聖者たちは肉体の中の生命力を精神のエネルギーに転じているのです。ヨーガ行者はそれを意識的に行ないます。このように変えられた力はオージャスと呼ばれ、脳髄の中に蓄えられるのです。それは最低の中心から最高のものへと引き上げられます。」

 こうしてヴィヴェーカーナンダは、自分に従う熱心な弟子たちに対して、戒律の遵守、特に性的な純潔を求めたのでした。

 ヴィヴェーカーナンダはこの別荘において、何人かの弟子にイニシエーションの儀式を施し、正式に出家させました。またヴィヴェーカーナンダ自身も、大きな霊的・精神的進歩を経験しました。彼は友人への手紙にこう書きました。

「私は自由です。私の魂の束縛は断ち切られました。この肉体が消えようと消えまいと、何をかまうことがありましょうか。私は真理を説かねばなりません。――神の子である私は!
 私に真理をお授けになった神は、地上で最も勇敢で最良な人々の中から、同志の働き手を私に派遣してくださるでしょう。」

 またヴィヴェーカーナンダはこの別荘においての霊的・精神的進歩を、「出家修行者の歌」という詩で生き生きと表現しました。その一部は、以下のようなものでした。

 
 汝の束縛を断て!
 輝く黄金や光鈍きものや貴金属などの汝をくくれるもの、
 愛と憎しみ、善と悪――すべての相対の大群を断て。
 知れ! 愛撫であれ鞭打ちであれ、奴隷は奴隷、自由でないことを。
 束縛は黄金であっても縛る力は弱くない。
 それゆえ、それらの足かせを断て。勇敢なる出家修行者よ! 
 唱えよ!
 オーム タット サット オーム!

 肉体、それがあろうとなかろうと、もう心に留めるな。
 その使命は果たされる。カルマは自然に尽きるままに。
 ある者はそれを花輪で飾り、他の者はそれを足蹴にする。この世間は無だと言おう。
 称賛も非難もない。そこでは、称賛する者・される者、非難する者・される者――皆一つなり。
 それゆえ、彼は平静なれ。勇敢なる出家修行者よ! 
 唱えよ!
 オーム タット サット オーム!

 真理を知れる者はほんのわずかだ。
 他の者は汝を憎むであろう。
 そして汝、偉大なる真理の具現者である汝をあざ笑う。
 だが、気にするな。
 行け! 汝、自由なる汝よ。
 そこかしこに趣いて、
 救え! マーヤーのヴェールに覆われし暗黒から、彼らを救え。
 苦痛の恐怖も、快楽への願いも、ともに超越して行こう。勇敢なる出家修行者よ! 
 唱えよ!
 オーム タット サット オーム!

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