アディヤートマ・ラーマーヤナ(51)「ハヌマーンの輝かしき帰還」
第五章 ハヌマーンの輝かしき帰還
◎ハヌマーン、シーターにいとまを告げ、帰還する
その後、ハヌマーンはシーターに会い、彼女に礼拝すると、こう言った。
「ああ、気高き御方よ! では、ラーマ様の御許に帰還する許可を私にお与えください。ラーマ様は、ご兄弟と共に、あなた様に会いにすぐにやって来られます。」
こう言うと、彼はシーターの周りを三回回り、再び礼拝すると、出発の準備をした。そして彼はシーターにこのような言葉を言った。
「ああ、気高き御方よ! では私は発ちます。幸運があなたにありますように。
大軍を伴って、スグリーヴァ様、ラーマ様、ラクシュマナは今すぐにでもこの町に来られるでしょう。」
シーターは悲しみに打ちひしがれて、ハヌマーンにこう言った。
「あなたにお会いして、私は一切の苦しみを忘れてしまいました。
ああ、行ってしまうのですね。私はどうやってラーマ様のことを聞くことなく命を保てばよいのでしょう。」
ハヌマーンはシーターに返答して、このように言った。
「そう仰りますならば、ああ、気高き御方よ、どうぞ、私の肩にお乗りください。お望みならば、あなたを一瞬にしてラーマ様の御許にお連れいたしましょう。」
するとシーターはこう言った。
「ラーマ様が、海を乾かすか海に橋を架けるかして、弓を携えて猿の軍隊と共にやって来て、戦争でラーヴァナを殺し、私を救出しなければなりません。そしてラーマ様は不朽の名声を得るのです。
なので、あなたはお行きなさい。私は何とかして生き延びます。」
このように再び出発を許可されると、ハヌマーンは彼女に礼拝し、トリクータ山の頂上へと行き、海を跳び越える準備をした。
跳び立つために、恐ろしく大きいハヌマーンは、とてつもない力で山を圧迫した。その山は大地深くに沈んでしまったのだった。そして風のような速さで、彼は空へと跳び立った。
そのとき生じた力によって、三十ヨージャナもある山が地上の高さにまで沈んだ。空へと上昇し、ハヌマーンは恐ろしい雄叫びをあげた。
その音は、海の向こう岸にいる猿の集団の耳に届き、彼らは大歓声の中、こだまのようにお返しの雄叫びをあげたのだった。
「使命を果たし、ハヌマーンが帰還した。彼の発した雄叫びから、われわれにはそれがわかる。
おお、猿たちよ!
あのわれわれのリーダーの到着を見守りたまえ。」
猿の将軍たちがこのように話していると、風神の子は山の頂上に降り立ち、猿たちにこう言った。
「私はシーター様を発見し、ランカーを森林諸共滅ぼして参りました。
そしてラーヴァナと言葉を交わしました。私は今それらすべてを果たして帰還したのであります。
さあ、ラーマ様とスグリーヴァ様の御許に参りましょう。」
ハヌマーンがこのように話すと、すべての猿たちは歓喜した。そしてある猿はハヌマーンを抱擁し、またある猿はハヌマーンの尻尾に口づけをし、そしてまたある猿は狂ったように踊ったのだった。
彼らは皆、ハヌマーンと共にラーマが滞在しておられるプラシュラヴァナ山に向けて出発したのだった。
◎マドゥーヴァナの壊滅
猿たちが進んでいくと、スグリーヴァの特別の保護の下にあるマドゥ―と呼ばれる山に辿り着いた。
そして猿の将軍たちは皆、次のようにアンガタに言った。
「おお、英雄よ!
われわれは皆、極度に腹が減っております。われわれの気高きリーダーである御身に許可をいただけますならば、われわれはこの森で豊富にとれる果物を食べ、甘い蜂蜜を飲みとうございます。
飲食に満足したならば、われわれはただちにラーマ様とラクシュマナ様の御許へと向かいましょう。」
そこでアンガダはこう言った。
「われわれに託された使命を果たしてくれたハヌマーンがここにいる。
彼を称えて、おお、猿の将軍たちよ、果物と根を素早く食べて、また進むがよい。」
そして猿たちは蜂蜜を食べ始めた。
それに気づくと、この森の番人であるダディムカが、彼らを撃退するために自分の護衛を送った。
しかし、それに気づくことなく、猿たちは蜂蜜を食べ続けたのだった。
森の番人たちが殴りかかろうとすると、猿たちは彼らを殴ったり蹴ったりして、また食べたり飲んだりを続けるのだった。
ダディムカはスグリーヴァの叔父であった。彼は猿たちのこの態度に極度に激怒し、森の番人たちと共にスグリーヴァがいるところへと向かった。
そして彼は王にこう言った。
「おお、王よ!
御身が長い間維持されていたマドゥーヴァナが今日、王子アンガダとハヌマーンによって破壊されました。」
ダディムカの説明を聞くとスグリーヴァは歓喜のムードでこう言った。
「風神の子がシーター様を発見したに違いない。それについて疑いは全くない。
そうでなければ、誰も私のマドゥーヴァナを見ることさえしないであろう。彼らの行動はただ、ハヌマーンが自らの使命を果たしたことを示しているのである。」
スグリーヴァのこの言葉に歓喜し、ラーマは彼にこう尋ねた。
「おお、王族の友よ! シーターのことについて御身は何を話しておられるのか?」
この言葉を聞くと、スグリーヴァはこう言った。
「おお、気高き御方よ! シーター様が見つかったのであります。ハヌマーンと他の猿たちがマドゥーヴァナに入り、そこですべてのものを食い尽くし、番人を攻撃したとの報告がありました。
彼らは御身の神聖なる目的を達成しない限り、私のマドゥーヴァナを見ることさえしないでしょう。
ゆえに、それらの行動から、彼らが間違いなくシーター様を発見したということを察することができるでありましょう。」
そして番人たちの方を向くと、彼はこう言った。
「おお、番人たちよ。恐怖を抱きたもうな。
お前たちの場所に戻り、アンガダたちにすぐに帰還するようにと私の命令を伝えてくれ。」
森の番人たちはスグリーヴァの言葉を聞くと、ただちに戻り、ハヌマーンたちにこう言った。
「ただちに帰還したまえ。これは王の命令でございます。
ラーマ様とラクシュマナ様と共に、スグリーヴァ様は御身らにどうしても会いたいと思っておられます。あの勇ましき方々が御身らの行為に大変歓喜しております。
彼らは御身らに早く会いたいのであります。」
このようなダディムカと彼の護衛たちの言葉を聞くと、猿の隊長たちはすぐに空を跳んでいった。
そしてハヌマーンと太子アンガダは彼らを連れて、ラーマとスグリーヴァがいる場所へと降り立ったのだった。
◎ハヌマーンのラーマへの報告
そしてハヌマーンはラーマにこのように報告した。
「私は健全なるシーター様とお会いしました。」
それから彼はまずラーマの前で礼拝し、次にスグリーヴァの前で礼拝して、このように続けた。
「ああ、偉大なる王よ! ジャナカのご息女シーター様は、非常なる歓喜のご様子で御身の御幸福を私に尋ねられました。
女悪魔の番人たちに囲まれ、彼女はシンシャパの樹の下のアショーカの林の中で捕まっております。
ああ、偉大なる御方よ! 絶食ゆえに痩せ衰え、シーター様は常々『ああ、ラーマ様、ああ、ラーマ様』と嘆き叫んでおりました。
私はよごれた衣をまとい、ジャータがほどけた髪をしていらっしゃる彼女を見ました。そして彼女を少しばかり安心させることができました。
小さな姿となって枝の中に身を隠し、私はあなたの物語をご誕生のときから語り始めました。あなたは恐ろしきダンダカの森へと旅立ち、ラーヴァナがあなたの留守中にシーター様をさらい、あなたはスグリーヴァと同盟を組み、ヴァーリンを滅ぼされ、スグリーヴァの強力で俊敏な猿たちのチームがあらゆる方角にシーター様を探しに向かい、そしてその中の一人である私がランカーに到着いたしました――これらを私は語ったのであります。
さらに私は最後にこう言いました。
『私はスグリーヴァ様の使いであり、ラーマ様のしもべであります。極めて大きな困難を乗り越えて、私はジャナカのご息女を発見することができました。』
私の言葉を聞いて、シーター様は眼を開けてこう仰いました。
『私にとってアムリタのようなこの言葉を語っているのは誰ですか?
あなたのおっしゃることが真実であるならば、私の眼の前に姿を現してください。』
それから私は小さな猿の姿でシーター様の前に現れて礼拝し、手を合わせてお辞儀をしながら彼女の近くに立ちました。
そして私はシーター様が投げかけた私についての質問などに対して細かく答えました。
おお、勇敢なる英雄よ! 私は彼女に順序良くすべてをお話いたしました。その後、私はあなたが私に託された指輪を彼女に渡しました。
私の善意を確信し、彼女は私にこう仰いました。
『ああ、ハヌマーンよ! ラーマ様にあなたが見たもの――私が昼夜どのようにして女悪魔の抑制の下で生きているのかをお伝えください。』
彼女に対して私はこう答えました。
『ラーマ様は常にあなたのことを思っていらっしゃいます。昼夜あなたの知らせがないことに悲しんでおられるのです。私はすぐにラーマ様のもとに帰還し、すべてを報告いたします。
その事実を知った後、すぐにラーマ様とラクシュマナは、スグリーヴァ様とその猿の軍を引き連れて、あなたのものに来られるのだということに確信をお持ちください。
ラーヴァナを一族諸共滅ぼした後、あの御方はあなたをあなたの場所へと連れて帰られるでしょう。
さて、どうか、ラーマ様が私が本当にあなたと出会ったということを確信できるような証拠を何か私にください。』
このように懇願すると、彼女は髪の房の中から冠羽の宝石を取り出して、私にくださいました。また彼女は、チトラクータ山で昔あったカラスの物語を私に話してくださったのです。
そして、眼から涙を流しながら、彼女はこのように付け加えました。
『ラーマ様によろしくお伝えください。そしてラクシュマナに、私が軽率に言ってしまった不適切なことを許してくれるようお頼みください。
そして、どうか、できるだけ早くラーマ様が私をお助けくださるよう、すべてのことを行なってください。』
このように言うと、シーター様は泣き始め、深い悲しみに浸っておられました。私はあなたを思い起こさせる言葉で彼女を慰めようと最善を尽くしました。
その後、ああ、ラーマ様、私はシーター様を礼拝し、許可を取って帰還したのです。しかし旅立つ前に、私はさらにあることを実行いたしました。
ラーヴァナがとても大事にしていたアショーカの林を破壊したのです。それからラーヴァナの息子を含む多くの悪魔たちを殺戮いたしました。
私はラーヴァナと面と向かって話す機会を得たのです。
それからランカー全土に火を点けた後、私はただちにあなたのもとに帰還したのであります。」
これらのハヌマーンの言葉を聞くと、ラーマは非常にお喜びになり、彼にこう仰った。
「お前は神々でさえも達成しがたいことを為した。私はお前が私に為してくれた奉仕に、どう報いたら良いかわからない。
ああ、風神の子よ! 私は今お前に、私のすべてを捧げよう。」
このように話すと、眼から涙を流しながら、ラーマはハヌマーンをしっかりと抱きしめ、素晴らしき歓喜を感じたのだった。
帰依者たちを愛する御方ラーマ様は、次にハヌマーンにこう仰った。
「この世において、至高者である私にこのように抱擁されることは、誰にとっても得難きことなのだよ。
だから、ああ、猿の中で最も気高き者よ! お前は私の帰依者であり、私にとって愛しき者なのだ。」
トゥルシー等を備えて礼拝することでヴィシュヌの比類なき境地を得ることができるところの御足をお持ちの彼――ラーマとして顕現された存在に抱擁されるならば、その者が霊性の素晴らしき功徳の最高のものを獲得することに、何の疑いがあるであろうか?