ジグメ・リンパの生涯（９）

　そして７年間の秘密の末、ロンチェン・ニンティクの教えを弟子たちに授ける時が来ました。誰もロンチェン・ニンティク発見の知らせを受けていないにも関わらず、彼の教師かつ弟子であるコンニョン・ベペ・ナルジョルは、その千里眼によって、ジグメ・リンパのもとへ彼の心のテルマの教えを授けてくれるよう懇願しに来ました。また彼は、吉兆のしるしとして、供物を持ってやってきた南チベット出身の３人のトゥルクから、教えを明かしてくれるよう懇願されました。

　木の猿の年（１７６５年）の６番目の月の１０日目、初めてジグメ・リンパは、１５人の弟子たちにロンチェン・ニンティク・サイクルのイニシエーションと解説を授けました。ロンチェン・ニンティクの教えはニンマ派の世界のあらゆる場所に広まり、そして今日まで、多くの悟った瞑想者たちや儀式的な礼拝の瞑想指導における中心的な核となりました。

　３４歳の時、ジグメ・リンパは、チンプーから南チベットのチョンギェにあるトンカル谷の長寿の土地ツェリン・ジョンへと移りました。そこではデパ・プシュ家の支援を受けて、瞑想学校を兼ねた隠遁所を建て、タルパ・チェンポ・トンキェル・ペマ・オ・リン、大いなる解放の街にある蓮華光の庭と名づけました。　
　彼は、大きな施設のような建物を持つことを好まず、度々、ロンチェン・ラプジェムの『三十の心からなる戒め』の詞を引用しました。

「ああ、手練手管でたくさんの信者たちをまわりに集め、
　大いに栄えある寺の財産を手に入れる。
　だが、それもいさかいのもととなり、自我への執着の印となる。
　ただ一人であること。これこそ、私の心からなる戒めだ。」

　ジグメ・リンパは、残りの生涯をツェリン・ジョンで過ごしました。ゾクチェンの最高の成就者ジグメ・リンパから、深遠で甘露のような教えと伝授を受けようと、多くの弟子たちの流れが、まさにこの簡素な隠遁所にやって来ました。しかし弟子たちは教えを受け取ると、他の者たちとそれを共有するために、それぞれの場所へと戻って行きました。そういうわけで、ツェリン・ジョンは変わることなく簡素な隠遁所であり続け、ジグメ・リンパもまた簡素な隠遁修行者であり続けました。

　彼は富や権力には全く興味がなく、布施された物をすべて宗教的な目的のために使いました。また生涯を通じて彼は、積極的に猟師や屠殺業者の手から動物の命を身請けしました。
　彼はこう述べています。
　
「私は、商売や収穫といった活動に何の興味もありません。
　私は、［布施を得るために］街で儀式を行おうと歩き回りません。
　私の手元には、ほんの１０カルの大麦があるだけです。
　私が生きているかぎり、このような禁欲的な生活を続けることを誓います。」

※ジグメ・リンパがこの世を去ってからしばらくして、このツェリン・ジョンの隠遁所は修道院になり、そしてそれは、政治的な動乱ですべてが消え去った１９５９年頃まで続きました。そして１９８０年代の初め頃から、再びツェリン・ジョンは、修道院として再建されました。