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アディヤートマ・ラーマーヤナ(31)「マーリーチャへの依頼」

第六章 マーリーチャへの依頼

◎マーリーチャの住居におけるラーヴァナ

 その夜、このように熟考した知性的なラーヴァナは、心中にある決意を固めた。馬車(空を飛ぶ乗り物プシュパカ)に乗り込み、彼はマーリーチャが住む、海の向こう側へと行った。そこではマーリーチャが苦行者のように、木の皮の衣を着て、髪をジャータにして、プラクリティのグナを超越しているにもかかわらずグナの中で熟考される至高者を心に思っていた。彼がサマーディーの深淵から外界意識を取り戻すと、そこに到来したラーヴァナに気づいた。
 彼はただちに座から立ち上がり、ラーヴァナを抱きしめると、彼を適切な方法で歓迎し、厚くもてなした。彼に心地よい座を与えると、マーリーチャはラーヴァナにこう言った。

「ああ、ラーヴァナ様! 何ゆえに、馬車に乗ってお一人で来られたのですか? 御身の御顔は御身が何か厄介な思考の脈絡にはまっているように見えます。もしそれが秘密でなければ、それが何であるか、私にお明かしください。ああ、偉大なる王よ! もしそれが誠実なものであり、罪深い因果関係が付き添わないものならば、私は御身が望むことを遂行しましょう。」

 ラーヴァナはこう言った。

「お前はまずダシャラタというアヨーディヤーの有名な王のことを知らなければならぬ。そやつの長兄のラーマは、誠実と武勇で名高い。
 ダシャラタ王は、自らの息子ラーマを妻のシーターと弟のラクシュマナと共に、苦行者と森の民が住む森に送った。
 その息子は今、深い恐ろしい森の中にあるパンチャヴァティのアシュラムで、美しい妃である妻シーターと共に暮らしている。
 奴は、この出来事においては確実に何の罪もないカラを含む、わが勇敢なる悪魔の軍隊を殺戮した後、恐れなくその森で暮らしているのだ。
 あのふざけた輩のラーマはまた、わが無実の妹、シュールパナカーの鼻と耳を切り落とし、それにもかかわらずあの森で恐れなく暮らしている。
 わしはお前の助けを借りて、ラーマをあの森の地域から何とか追放し、それから奴が不在中に奴の妻を拉致してやる。
 お前は幻影の鹿に化け、奴らのアシュラムから遠方にラーマとラクシュマナを引き付けるのだ。その機会を伺って、わしはシーターをさらおう。
 そしてお前はわしの頼みを十分に為した後に、戻ってまた好きなように暮らせばよい。」

 マーリーチャはラーヴァナのこれらの言葉を聞いてびっくり仰天し、驚嘆して彼を凝視した。

◎ラーヴァナとマーリーチャの対話

 マーリーチャはこう答えた。

「どなたが御身にそのような助言を与えたのでありますか? もし誘拐などをしたら、われわれが完全に破滅するでしょう。
 彼が殺戮されるべきわれわれの敵であることは間違いのないことです。彼は御身を破滅させる方法を考案しているに違いありません。
 少年であったのに、ラーマはヴィシュヴァーミトラの供儀を守護するために来て、たった一本の矢で私を百ヨージャナふっ飛ばし、海に沈めたのです。ああ、ラーヴァナ様! ラーマの武勇について考えると、私の心は今にも恐怖で飲まれてしまいそうです。これらの出来事を思い出すと、私は恐れから、至る所にラーマの存在を感知してしまうのです。
 その後も、彼に対する昔の恨みが心に残っていたゆえ、私はある日、鋭い角を持った鹿に変化してダンダカの森へと行き、私と同じような多くの他の鹿に囲まれていました。
 そして彼を殺すつもりで、私はシーターとラクシュマナと共にいたラーマに突撃していきました。私が近づいてくるのを見て、彼は私に矢を一発放ちました。
 その矢に撃たれて、おお、悪魔の王よ、私は回転しながら海へと投げ込まれたのです。その後、私はひどく恐怖して、この人里離れた場所に避難しました。
 私は、楽しみの一切の対象から手を引いてここに住み、恐怖から絶えずラーマのことを考えています。それだけではなく、――ラージャ、ラトナ、ラーマニー、ラタなどのRで始まる楽しみの対象を指す言葉を聞くことでさえ、私は恐怖で震えるのです。なぜならば、ラーマの御名の始めのRという音は私を不安で満たすからです。
 私は、ラーマがいつ、どこで私の元へとやって来るのかと恐怖しながら、一切の外界の活動を放棄しました。絶えずラーマを考えているので、眠ったとしてもラーマの夢を見て、すぐに目覚めてしまいます。それで私は座りながら、眠れない夜を過ごしております。ゆえに、おお、偉大なる御方よ! 御身はラーマに対する企みを捨て、城へお帰りください。
 どうか御身が、長い間大いなる繁栄を掲げてきた悪魔の一族を滅ぼす因とならないでください。御身のことを思って善意で申し上げた私の助言を受け入れられよ。パラマートマ(至高の真我)そのものであられるラーマに対する恨みを捨てられよ。真の信仰を抱いて彼を探し求めるのです。彼はこの上なく慈悲深き御方であられます。
 私は聖仙ナーラダの言葉から、ある秘密の事柄についてのすべてを知ったのです。サティヤ・ユガにおいて、至高主ハリは彼に祈りを捧げたブラフマー神に神約をお与えになられました。
 ブラフマーはハリにこう言いました。

『おお、蓮華の眼をした御方よ! ダシャラタの子として人間の世界に生まれ、われわれの敵である十の顔を持つラーヴァナを滅ぼしてください。』

 ゆえにラーマはただの人間ではないとお知りください。彼は、不可思議なる力、マーヤーによって人間の姿をおとりになり、森へ来られた永遠なる御方ナーラーヤナなのです。彼は誰をも恐れません。
 彼は地球からその重荷を取り除くために化身されたのです。ゆえに、おお、愛しき御方よ、今の計画を捨てて、国へお帰りください。」

◎マーリーチャ、黄金の鹿に化ける

 このマーリーチャの言葉を聞くと、ラーヴァナはこう言った。

「もしラーマが本当に至高者であり、ブラフマーの懇願によって、わしを殺すために人間として地球に降誕したのならば、奴はお前が何をしようと、それを容易く達成するであろう。なぜならば、至高者の意思したことは必ず実現するからだ。ゆえにどんな手段を使ってでも、わしはラーマからシーターを奪い去ってやろう。
 おお、勇敢なる者よ! 知っているか。もしわしが戦で死んだら、わしは最も高い天へと召されるのである。そしてもし戦でラーマを殺すことに成功したら、わしは敵対する者なくシーターを楽しめるのだ。
 ゆえに、おお、優秀なる者よ、準備をしなさい。お前は魅力的な魔法の鹿に化けて、奴らのアシュラムからずっと遠くにラーマとラクシュマナを引き付けるのだ。その後、お前は帰って、今のように隠居地で幸せに暮らせばよい。しかしもしわしに対してたった一言の脅し文句でも語れば、わしは今すぐにでも、剣でお前の首を落としてやる。」

 ラーヴァナの言葉を聞いて、マーリーチャは心の中でこう考えた。

「ラーマが万一、私を殺すことがあっても、私はこの輪廻のサイクルからの自由を得るであろう。しかしこの邪悪な輩の手で死んでしまったら、私は確実に地獄に堕ちるだろう。」

 このようにラーマの御手で殺されることを選んだマーリーチャは、ただちに立ち上がり、このようにラーヴァナに言った。

「おお、偉大なる王よ! 御身の仰る通りに致します。」

 こう言うと、彼は馬車に乗り込み、すぐにラーマのアシュラムのある場所へ行った。それから、彼は宝石の角を生やし、サファイアの眼をして、真珠の蹄を持ち、稲妻の光輝を持ち、非常に魅力的な顔をし、銀色の斑点のついた金色の鹿の姿で、隣の森で動き回った。そして彼はラーマのアシュラムの周辺に辿り着き、シーターの気を引いた。
 動き回りながら、彼は少し走ってはしばらく止まり、近くに行っては、まるで恐れているかのように少し逃げるということを続けた。このようにしてシーターの心を魅了し、その邪悪な輩は魔法の鹿を装って動き回ったのだった。
 

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