ジャータカ・マーラー(9)「ヴィシュヴァンタラ王子」①
ジャータカ・マーラー 第九話
「ヴィシュヴァンタラ王子」
かつて、サンジャヤという名の、シビ族の王がいました。彼は感覚の制御に習熟しており、勇気・思慮・戒律を具足し、高齢者を敬い、聖典の哲学と真意を会得していました。
忠実な部下たちによって国は正しく運営され、暮らしの規律は正しく守られていました。
そして王の膨大な功徳によって、この国は、ライオンが他の動物から狙われることがないように、他国の王から狙われるということがありませんでした。
この偉大なるサンジャヤ王の次に人々に尊敬され、サンジャヤ王と同じくらいの功徳をもっていた、ヴィシュヴァンタラという名の王子がいました。この王子こそ、世尊のある過去世の姿でした。
彼は若いのに静寂を喜び、精力にあふれているのに忍辱の行を楽しむ性質を有していました。また、知識があるのに慢心がなく、栄光に満ち溢れているのに高慢さは全くありませんでした。
慈悲に満ちていた王子は、毎日毎日、やってきた乞食たちを、やさしい言葉と、けがれない布施によって、この上なくよろこばせました。
さてある時、ヴィシュヴァンタラ王子が布施を極度に好んでいることを知った隣の国の王は、ヴィシュヴァンタラ王子からすぐれたゾウをだまし取ろうと考えて、部下のブラーフマナたちを派遣しました。
そのゾウは、まれに見るすぐれたゾウであり、国民すべての誇りともいえる存在でした。ちょうどヴィシュヴァンタラ王子がそのゾウに乗っているときに、ブラーフマナたちはやってきて、そのゾウを乞いました。
そのすぐれたゾウを乞われたヴィシュヴァンタラ王子は、喜びに満ちた心で、こう考えました。
「このような大きなものを乞われるのは久しぶりである。なんと素晴らしいことであろうか。
しかし、このようなブラーフマナたちに、なぜこのゾウが必要なのだろうか。
おそらくこれは、欲望と嫉妬に満ちた、彼らの王の策略であろう。
名声も法も顧みず、その王はこのゾウが欲しくてたまらないのだろう。ならばこのゾウを与え、その王を喜ばせねばならない。」
このように考えて、かの偉大なる魂は、急いで立派なゾウから降りると、そのゾウをブラーフマナたちに布施しました。
これによってヴィシュヴァンタラ王子は歓喜に満ちましたが、これを知ったシビ族の都の人々はびっくり仰天しました。
民衆は怒りに震え、サンジャヤ王のところへやってきて、王に言いました。
「王さま。王国の栄光が失われつつあるのを、どうして許されるのですか。自分の国の不幸が増大しつつあるのを、許してはなりません。」
つづく
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