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「ナーグ・マハーシャヤ」(16)

 ある夏、ナーグ・マハーシャヤの北側の隣家が火事になり、激しく燃え始めました。その家とナーグの家は15メートルほど離れているだけで、火が四方八方に飛び散っており、しかもナーグの家は藁ぶきだったので、火が燃え移る危険性は非常に高いと思われました。混乱はどんどん大きくなり、皆は火を消し止めることに一生懸命でした。
 しかしナーグ・マハーシャヤは、迫りくる危険には全く無頓着で、手を組み、静かに巨大な炎の前に立ちました。ナーグの妻は恐れて、気が気でなくなり、差し迫った危険を恐れて、服やその他のものを大急ぎで持ち出し始めました。そのとき、ナーグは叫びました。

「なんと愚かで疑り深いのでしょう。落ち着きなさい! これらの取るに足らないものを、いったいどうしようというのか。ブラフマー神は、今日まさにこの家の近くをおとずれ喜ばれているというのに、礼拝を捧げる代わりに、あなたはこれらのちっぽけなことで右往左往している!」

 そしてナーグは手を打ち鳴らし、忘我の喜びの中で踊り始め、このように唱えました。
「主に栄光あれ! もし人を守護する神がいるなら、何の危険があろう。だがもし彼の機嫌を損ねたなら、その者を救う力はこの世には存在しない。」

 結局この火事は、隣家を全焼しましたが、ナーグ・マハーシャヤの家は全くの無傷でした。

 ナーグ・マハーシャヤは、人生に起きるすべての出来事に、師であるシュリー・ラーマクリシュナの優しい御手を見ていました。
 あるときナーグが寝ていると、大きな猫がいきなり彼の顔に飛び乗ってきて、左目をひっかきました。彼は痛々しいほどの怪我を負いましたが、ほとんど手当をすることもなく、言いました。

「シュリー・ラーマクリシュナご自身が、猫を使って、私の前世の罪を罰したのです。おお、これもまたまぎれもなく彼の恩寵なのです!」

 その後、そのひどい怪我は、大した治療もすることなく治ってしまいました。
 ナーグにとっては、すべてがラーマクリシュナでした。シュリー・ラーマクリシュナの存在は、宇宙のすべてだったのです。

 カルカッタで生活していたあるときは、ナーグは、原因不明の両手の激しい痛みに苦しみました。彼は、その激しい痛みのために、両手を少しも動かすことができなくなり、ずっと両手を組んだ姿勢でいなければならなくなりました。少しでもその手を組んだ姿勢を外そうとすると、激しい痛みに襲われるのでした。そこでナーグは言いました。
「師が、常に手を合わせて合掌し続けることを学ばせようとして、私にこの痛みと苦しみを与えたのです。」

 ナーグが激しい腹痛に苦しんでいたときには、彼が次のように語っているのが聞こえました。
「万歳、ラーマクリシュナ、汝に栄光あれ!
 骨と肉でできたこの劣悪な檻を、あなたの神聖な目的のために心から捧げることができなかったので、このような激しい痛みで私を罰するのはふさわしいことです。私をこの痛みで苦しめることによって、あなたは慈悲をお示しになっておられます。なぜならば、この痛みは私に、あなたのことだけを思わせるからです。祝福はまさにこの痛みです。それは私に、シュリー・ラーマクリシュナのことを思い出させます!
 おお、主よ! 汝に栄光あれ! 汝の恩寵に栄光あれ! それは汝の慈悲です。慈悲そのものです。汝の無限の恩寵以外、人間に救済の手立てはありません!」

 またナーグは、こうも語っていました。
「人の霊的な目は、ふさわしいときに、シュリー・ラーマクリシュナの恩寵を通して自然に開かれるのです。その時に初めて、目にするものすべてがクリシュナのあらわれとなるのです。そうして、人にとって一切が新たな意味を帯びてくるのです。」

 ギリシュ・チャンドラ・ゴーシュは、持ち前のユーモアでよくこう語っていました。

「マハーマーヤー(宇宙を創り出す偉大なる幻影)は、ナレーン(ヴィヴェーカーナンダ)とナーグ・マハーシャヤの二人を罠で捕らえようとして、非常に困ってしまった。
 彼女がナレーンをとらえようとすると、彼はどんどん大きくなり、ついには彼女のすべての枷では間に合わなくなってしまい、この無駄な仕事をあきらめなければならなかった。
 そこで彼女はナーグ・マハーシャヤを引っかけようとしたが、彼はどんどん小さくなり、極微にまでなったので、罠の網の目を容易にすり抜けて逃げてしまったのである。」

つづく

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