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2011年インド修行旅行記(9)「ミーラーバーイーの家」

◎ミーラーバーイーの家

 この「ラーサの踊り」の庭園の中には、ハリダースという有名な宗教詩人が住んでいた場所や、踊りの前にラーダーが化粧をした場所など、様々な聖地がありました。
 そしてある場所に小さな池のようなものがあったのですが、ここは踊りに疲れて喉が渇いたゴーピー達のために、クリシュナが神秘的な力で水を出した場所だそうです。今ではこの池の水は濁って汚くなっていますが、またあのガイドはこう言いました。

「ここの水はクリシュナが出したものなので、とても祝福されているが、皆、水が汚いと言って飲まない。しかし俺は飲む。」

 こう言って彼はその水を飲んだのでした。私もまた、その水を飲みました。

 さて、「ラーサの踊り」の庭園を出ると、我々はもうかなり疲れていたので、あとはクリシュナが遊んだヤムナー河だけ行ければいいと思い、ガイドの彼にもそう伝えました。彼も了承したのですが、その前に彼はまた別の所に我々を案内しました。何とそれは、ミーラーバーイーの寺院でした。もともとこのミーラーバーイーの寺院には行きたいと思っていたのですが、説明するのがめんどうなので、ガイドには言ってなかったのです。しかし彼は、数ある寺院や聖地の中から、なぜ我々が行きたかったミーラーバーイの寺院にわざわざ連れてきてくれたのでしょうか。

 このとき、何人かのメンバーが、興奮してあることを話していました。それは、「あのガイドの目が変だ! まるで孔雀の羽のようだ!」というのです。「えっ!?」と思って見てみると、緑がかってグラデーションがかかったようなその瞳は、確かに孔雀の羽のように見えます。このガイドは実はクリシュナの化身だったのでしょうか?

 さて、このミーラーバーイーの寺院は、今は寺院となっていますが、もともとミーラーバーイーが本当に住んでいた場所だそうです。
 ミーラーバーイー(ミラバイ)は、500年前くらいの女性の聖者で、クリシュナへの愛を歌った多くの歌を作りました。もともとはある国の王子に嫁いだ王女様だったのですが、夫の死とともに権力闘争に巻き込まれ、様々な苦難に遭います。そのような苦難の中でもただクリシュナだけを愛し、クリシュナへの愛の歌を歌い続けました。
 そしてついに嫁ぎ先の者たちから自殺を強要されるのですが、実際に河に身を投げようとする直前に、クリシュナが現れ、ミーラーバーイーを抱きしめて、こう言いました。

「わたしの愛しきミーラーよ。恐ろしい親族との生活は今終わったよ。君はもう自由だ。喜びなさい。君は今までも、そしてこれからも、ずっとわたしのものなのだ。」

 そしてさらにクリシュナはミーラーバーイーに、ヴリンダーヴァンへと行くことを指示しました。

 こうしてミーラーバーイーはヴリンダーヴァンに住むようになったのです。

 ミーラーバーイーは心からクリシュナを礼拝し、現世のすべてのものは彼女を惹きつけることができませんでした。彼女を唯一満たすものは、クリシュナへの愛だけでした。彼女の魂は、ずっとクリシュナだけを求めていたのです。
 彼女は自分のことを、クリシュナへの純愛によって気が狂った、ヴリンダーヴァンのゴーピーであると思っていました。
 
 その頃ヴリンダーヴァンには、チャイタニヤの弟子であった有名な聖者ジーヴァ・ゴースワミも住んでいました。ミーラーは彼の名声を聞き、会いたがりましたが、ジーヴァ・ゴースワミは、自分は女性と面会しないという誓いを立てているからと言って、それを断りました。
 するとミーラーは彼に、次のような手紙を送りました。

「私は今までヴリンダーヴァンには、たった一人の男性(クリシュナ)しかおらず、それ以外はみなゴーピー(クリシュナを愛した牛飼いの女性たち)だと思っていました。私は今日初めて、主クリシュナとは別に自分が男性であると考えている方がヴリンダーヴァンにいると知りました。」

 ジーヴァ・ゴースワミはこのミーラーの言葉に打たれ、急いでミーラーに会いに行きました。そしてその後ミーラーは、この聖者の仲間たちとともに、クリシュナを称える日々を送ったのでした。

 このミーラーバーイーはインドでは非常に愛される宗教詩人で、彼女が作った多くの歌が歌われていますが、日本ではあまり有名ではありません。しかしわれわれのヨーガ教室では、よくこのミーラーバーイーの歌を皆で歌うので、とても親近感があり、また彼女の崇高な生涯の物語は、我々の信仰の対象ともなっているのです。
 よってそのミーラーバーイーが住んでいた家を訪ねることができたのは、我々にとって大きな喜びでした。

 また、この寺院に祀られている神像には、ある逸話がありました。現代版のラーマーヤナを著したことで有名な聖者トゥルシーダースがヴリンダーヴァンを訪ねたとき、このクリシュナの大聖地であるヴリンダーヴァンにはどこへ行ってもクリシュナの神像しかないので、悲しくなりました。彼が愛するイシュタ(理想神)はラーマだったからです。しかしトゥルシーダースが一心に祈りを捧げると、そのクリシュナの神像が、ラーマに変わってしまったのです。結局、クリシュナもラーマも同じであり、唯一無二の至高者であるという逸話です。

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