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解説・スフリッレーカ(23)「ナーガールジュナについて」

20070901スフリッレーカ②

◎ナーガールジュナについて

 今日はスフリッレーカの2回目ですね。もう一度ナーガールジュナについて説明すると、ナーガールジュナというのは日本では龍樹といわれていますが、大乗仏教の開祖みたいな人ですね。ナーガルジュナの伝説っていろいろあるんですが、有名な物語としては、もともと友達と一緒にある師匠について魔術を習って、その魔術の力で自分の体を透明にする術を身につけて、それで王様のお城に忍び込んでいつも悪さをやっていた。悪さをやっていたんだけど、あるときついに見つかってしまって、友人二人は殺されるんだね。ナーガルジュナはうまく隠れて、でも危機一髪で、見つかるかもしれないっていう状況にあって、そこで隠れながら後悔してね、
「ああ、すべては無常である。私は大変まずいことをしてしまった」
と。
「もしここを生き延びて助かったら出家しよう」
というふうに決めたんだね。そうしたら助かってしまったので出家したと。
 で、その後修行を修めて――これはちょっと伝説的な話なんだけど――天界のナーガ――ナーガっていうのは龍とか蛇のことですが、これは龍神の世界ですね。このナーガの世界っていうのは、大乗の仏典がたくさんそこで守られてるといわれていて、そのナーガの世界にある大乗仏典を、誰か人間界の優れた修行者に取りに来させようということになって、そこで選ばれたのがこのナーガールジュナだと。だから多分そういう逸話があって、ナーガールジュナという名前になったと思うんですが。で、ナーガールジュナはそのナーガの世界に呼ばれて――ナーガの世界ってつまり日本風にいうと龍宮城です。龍宮城ってそこからきてるんだね。ナーガが住んでいるのは龍宮城といわれている。そこから『般若経』とかね――『般若経』っていうのはみんながよく知ってる『般若心経』も含めて、『般若経』っていわれる経典がいろいろあるんだね。その『般若経』を持ってきて、この人間界に大乗仏教をナーガールジュナが広めたという伝説があります。
 ナーガールジュナというのは名前の組み立てとしては、ナーガ・アルジュナなんだね。アルジュナっていうのは『バガヴァッド・ギーター』とかで出てくるアルジュナと同じで。インドはアルジュナとかクリシュナという名前をつける人がよくいるんだね。神聖な一番良い名前だから。多分ナーガールジュナもアルジュナっていう名前で、ナーガにまつわるそういう伝説からナーガ・アルジュナ――ナーガールジュナって呼ばれるようになったんでしょうね。
 で、『般若経』をナーガールジュナが持ってきたかどうかは別にして、『般若経』というのは大乗仏教の一番最初の元となるような経典で、「すべては空である」みたいなことを散々いろんな方面からいっている経典ですね。ただ『般若経』自体はちょっとよく分からない。『般若心経』等をみてもそうだけど、一般的には一体何を言いたいんだろうっていう感じの経典なんだけども、それに対してナーガールジュナが非常に論理的に「空とは何か」っていう解説をいろいろ加えてるわけですね。
 それだけではなくて、大乗仏教全体を、こういうものなんだよっていうのを非常に論理的にまとめて世に出していった。だからその後の大乗仏教はいろんな派に分かれたけども、ナーガールジュナの影響を全く受けてない者は誰もいないといわれているほど、大乗仏教の理論の元になった人だね。
 ナーガールジュナの著作には空――つまりすべては実体がないっていうことを非常に難しい言葉で論理的に説いているものが多いんだけど、そうじゃなくて、非常にやさしい言葉で大乗仏教の全体を説いているものもある。で、今回の『スフリッレーカ』はそういうものですね。
 これはもともとは友人でありかつナーガールジュナの信者であったある王様に対して、ナーガルジュナが個人的に書いた手紙なんですね。その内容が後に経典になったといわれています。前に勉強していた『ラトナーヴァリー』も同じなんだけども、『ラトナーヴァリー』との違いは、『ラトナーヴァリー』は章立てしてあってすごくまとめられているんですね。でもこの『スフリッレーカ』は、読んでいくと分かると思うけど、あまりまとまっていない。まとまっていなくて、ダダダーッてこう、いろんな仏教の重要なポイントがあまりまとまらずに連ねられてるっていう感じがあるね。だからあまりよく分からないでこれを読むとよく分からないけど、ある程度理解したうえで読むと、逆にいうと短い言葉でパッパッパッパッてまとめられているから、ちょっと読むだけでいろんなことを学べる経典ですね。

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