解説「ミラレーパの十万歌」第二回(4)
はい。で、まあミラレーパはこういう感じでしばらくその地にとどまっていた。で、しばらくは何もなかったんだけど、秋になってね、バロっていうネパールの悪魔が、悪魔の軍勢を率いてミラレーパに挑戦してきたと。ここら辺がなんかとても面白い感じだね。つまりね、なんていうかな、まあ前も言ったけど、悪魔とか神とかって、人間と同じように、つまり普通に性格もあるし、あるいは人間関係とかもあるし、社会もあるだね、ちゃんとね(笑)。いやいや、ほんとにそうなんだよ(笑)。
神もそうなんですよ。――例えば、そうですね、第二天界の王はインドラとかいうよね。あるいは第三天界の王はヤマ、つまり閻魔様っていうわけだけど、これははっきり言って役職なんです、ただの(笑)。いや、そうなんです。つまりそのインドラっていう名前の神がいるわけじゃなくて、インドラっていう役職なんです。あるいは閻魔っていう役職なんです。だからその役職が当然変わることもあるわけだね。で、その神の世界の中におけるいろんな――つまり天界の神といってもまだ解脱してないから、いろんな人間関係があったり(笑)、いろんな社会問題とかがあるわけだね(笑)。天界におけるなんか社会問題とかある(笑)。つまり政治もあるからね。政治も普通にあるんですね。
ちょっと話がずれるけど、仏典における神の政治形態を見ると、とても面白い。それはどういうことかっていうと、欲天――つまりまだ欲望がある天の世界ね――この欲天っていうのは、完全なる王制なんです。つまり一人の偉大な王がいて、で、その王がもう独裁的な感じで他の神たちを支配してる。これが欲天なんだね。で、いわゆる梵天っていう世界に行くと――こういうこと言うと笑うかもしれないけど、議会制民主主義なんです(笑)。議会制民主主義っていうのは、まず大梵天っていう大王がいるんだけど、その大梵天を補佐する、まあ梵輔天とかいうんだけど、大臣みたいな神がいっぱいいるんだね(笑)。で、なんていうかな、多数決で梵天の政治を動かしてるんだね(笑)。これが梵天なんです。で、その上、光天あるいは光音天とかいう、つまり梵天よりさらに上の天以上になると、完全平等なんです。つまりこれは人間界で言うと共産主義みたいな感じかもしれないけど、完全なる平等の社会になるんです。まあ人間界の共産主義っていうのはそれでもやっぱり上に立つ人いるがわけだけど……っていうよりも人間界の共産主義っていうのは平等だと言いながら実際には上の者が搾取してるというか(笑)、そういう世界なわけだけど、じゃなくて光音天っていうのは完全平等なんです。完全平等で政治が成り立ってる。
これは皆さん、ここに含まれてる示唆が分かりますか? つまり――ちょっとこういうこと言うと危険思想になるかもしれないけど、欲天は王制だっていうのはどういう意味かっていうと、欲望のあるやつらは政治なんかできない。つまり偉大なる一人の王が独裁するしかない(笑)。もちろんその独裁者が変なやつだったら駄目です(笑)。ひどいやつだったらもう最悪なんだけど、聖なる、例えばお釈迦様みたいな大聖者とか、あるいは偉大な――まあダライ・ラマとかもそうかもしれないね。ダライ・ラマ法王なんていうのは一番いい例かもしれない。ああいう智慧と徳を兼ね備えた王が独裁的に他の煩悩的な人たちを導いていくと。これが欲天の――つまり欲望のある者たちの政治形態なんだね。で、梵天ぐらいになるとみんな欲望がだいぶなくなってるから、やっと民主主義になるんです(笑)。つまり結構みんな欲望ないねと。結構智慧高いねと。でもまだいろいろ差があるかなと。ここで議会制民主主義になる。つまり選ばれた者たちで社会を運営する――まあ今の日本みたいな政治形態が、本来はやっと梵天で実現できるんです。で、光音天でやっと平等思想の社会ができる。つまりみんな聖者だから(笑)。誰も間違わないから(笑)。だから人間界で共産主義なんてとんでもない話なんだね(笑)。これは歴史を見れば分かるでしょ。共産主義が何をもたらしたかっていうと、今言ったように一部の者が利益を得、搾取し、その他大勢は怠け者になりました(笑)。つまりまだ煩悩があるから、まだ資本主義の方がましだったんだね。つまり煩悩刺激されて「金持ちになりたいから働く!」って言っていっぱい働いて経済が潤うと。で、共産主義の人は、働いても別にお金持ちになるわけじゃないから、みんな怠けだす(笑)。これが人間のレベルだったんだね。ただそれは共産主義とか民主主義とかっていう政治形態が悪いわけではない。それはまだ人間界には合ってなかったってことです。よって昔からインドとかもみんなそうなんだけども、偉大なる王がいて、その偉大なる王が民衆をしっかりと統治するっていうのが、まだ欲望のある世界では最高の理想とされてるんだね。
はい。ちょっと話がずれたけど、だから天界にもそれぞれ王がいる。でもそれは役職なんだね。それだけの徳を持った者が、なんていうかな、まあ定期的に入れ替わるんだね。
はい。で、話が戻るけど、だからここに書いてあるのはとても面白い。つまりネパールにいる悪魔がですよ、わざわざチベットにいるミラレーパの噂を聞いて(笑)、「くそ!」と思って、「おれだったらミラレーパぐらいやっつけてやるぞ!」って感じで軍勢を連れてやって来てる(笑)。そういう面白い、なんか漫画みたいな話だけどね。でもまあ実際そういう世界があるんだね。
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