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要約「デーヴィー・マーハートミャ」(1)「マドゥとカイタバの討伐」

要約「デーヴィー・マーハートミャ(女神の素晴らしさ)」

第一章 マドゥとカイタバの討伐

 かつて、スラタという王が、この大地をくまなく治めていた。
 彼は人民を正しく守護していたが、
 コーラーの破壊者という王たちを敵に回した。

 軍事力においてはスラタ王のほうが勝っていたが、
 このときはコーラーの破壊者たちが勝利し、
 スラタ王は自分の都に帰り、本来の自分の領地だけの王となった。

 しかしこの自分の都においても、卑劣な悪しき大臣たちが
 力を失ったスラタ王の財産を奪い取った。

 権力を奪われた王は、
 一人馬に乗り、森の奥深くに去っていった。
 
 彼はそこで、すぐれた聖仙であるメーダスの庵を見つけた。
 彼はメーダスに歓待されて、
 その庵にしばらくとどまった。

 その間、彼は我執に心を引きずられて、こう考えた。

 『かつて私の先祖が守護してきたあの都は、
 私がいなくなった後、あの行ないの良くない大臣たちによって、正しく守られているのだろうか。
 私の勇敢な象たちは今、どんな待遇を受けているだろうか。
 いつも私に仕えてくれていた者たちは、今は他の王に仕えているのだろうか。
 不正な出費を行ない、いつも浪費ばかりしているやつらは、
 苦労してためた国の金庫を空にしてしまうのではないだろうか。』

 王は、このようなことをあれこれといつも考え込んでいた。

 あるとき彼は、聖仙の庵の近くで、一人の平民に出会った。
 王は彼に尋ねた。
 「そなたは誰か。なぜここに来られたのか。
 どうして悲しそうに、うち沈んだ様子をしておられるのか。」

 王のあたたかい言葉を聞いて、彼は礼儀正しく頭を垂れて、王にこう言った。
 「私は豊かな一族に生まれた、サマーディという名の平民です。
 財産を狙って、よこしまな息子たちと妻たちが、私を追い出しました。
 私は財もなくし、
 信頼していた妻にも息子にも親族にも追い払われ、
 傷ついて森にやってきました。
 しかし私は心配なのです。
 息子や妻や一家の者たちが、
 元気にやっているのかどうか。
 あの私の息子たちはまっとうに生きているのか。悪いことをしているのではないか。」

 「あなたは貪欲な息子や妻たちに追い出されたというのに、
 なぜまだ彼らに愛着しているのか。」

 「まさにあなたのおっしゃる通りです。
 でも、どうすればいいのでしょうか。私は愛着を捨てることができない。
 彼らは私への愛着を捨て、財にくらんで私を追い出したというのに、
 私はまだ彼らに愛着している。
 
 徳のない親族にこのように愛着することが愚かなことであると、
 わかってはいるのに、どうしてこうなるのか私にはわかりません。
 彼らのせいで、私はため息ばかりついてしまう。
 あの無情な者たちへの愛着を捨てられないのを、どうすればよろしいでしょうか。」

 そこで王とこのサマーディという平民は、一緒に聖仙メーダスのもとへと赴いた。
 定められた通りに、礼節にのっとって挨拶を交わしたのち、 
 王は聖仙メーダスにこのように言った。

 「尊者よ、あなたに一つお尋ねしたいことがある。どうかお教えください。
 何が私の心を、自分の理性に逆らって苦しませるのか。

 私は王権を失ったが、未だに王権を私のものだと考えてしまう。
 もうそれは私のものではないとわかっているのに、まるで愚か者のように、この考えから逃れられない。
 これはなぜなのか。すぐれた聖仙よ。
 
 またこの者は、息子や妻、しもべたちに欺かれ、放り出され、
 一家の皆に見捨てられたのに、それでも彼らにとても愛著している。

 このように、この者と私は二人とも、ひどく苦しい思いをしている。
 欠陥があるのはわかっているのに、その対象が自分のものであるという思いに引きずられて。
 
 私とこの者は、わかっているのに迷いがなくならない。
 これはどうしたことなのか。分別をなくした者のなんと愚かなことか。」

 聖仙はこう言った。

 「すべての生類には、感覚の対象に対する知がある。
 感覚の対象は、種によってさまざまに異なる。

 人間に知があるように、鳥や獣たちにも知がある。

 鳥や獣たちは、自分たちに不利になるとわかっているときでも、
 愚かにも、習性に基づいた行為をやめることができない。

 王よ、人が息子を渇望するのは、
 貪欲さゆえに、見返りを求めるからだ。

 そこに欠陥があるとわかっていても、人が我執の渦巻く迷妄の淵に落とされ、
 輪廻にとどまってしまうのは、
 マハ-マーヤーのお力のためだ。

 だからこのことで何も驚くことはない。
 世界の主ハリのヨーガの眠り、
 マハ-マーヤー、彼女がこの全世界を惑わせているのだ。

 この尊き女神マハ-マーヤーは、智慧ある者の心でさえ、
 無理やり引きずりだして迷妄に差し出すのだから。

 彼女は動・不動のもの、この世界すべてを創造する。
 この方が心和らぐと、恵み深く人々を輪廻より解き放つ。

 彼女は至高にして永遠なる女であり、
 叡智として解脱の因となり、
 無智として輪廻の因となる。
 彼女こそ、一切の支配者の中の支配者である。」

 王はこう言った。

 「尊者よ、あなたがマハ-マーヤーとおっしゃる女神は、どのようなお方なのでしょう。」

 聖仙はこう言った。

 「世界は彼女の身体であり、彼女はこの全世界を繰り広げた。
 それなのに、彼女は様々な姿で生まれる。私が語るのを聞きなさい。

 世界が一つの大海となっていた時、尊き主ヴィシュヌは、
 大蛇シェーシャを寝床にして、ヨーガの眠りを楽しんでいた。
 
 そのとき、マドゥとカイタバという名の二人の凶暴なアスラが、
 ヴィシュヌの耳垢からあらわれ、ブラフマ神を殺そうとした。
 
 ヴィシュヌのへそから生えた蓮にいた、生類の主ブラフマ神は、
 ハリを目覚めさせるために、心を集中して、
 ハリの目に住むヨーガの眠りをたたえた。

 『称えます、全世界の支配者、世界を支える女、維持し、滅ぼす女を。
 比類なき活力を持つ尊きヴィシュヌの眠りを。

 あなたはスワーハー。あなたはスワダー。あなたはヴァシャット。あなたの本性は音。
 あなたは不死の甘露。あなたの本性は聖音オーム。
 そして第四の不変の無音。
 
 あなたはまさにそれである。あなたはサヴィトリー。女神よ、あなたは至高の母。

 あなたはこの全世界を支え、この全世界を作り、
 あなたはこの全世界を守る。女神よ、そしてあなたは最後に食べる、いついかなる時も。

 あなたはこの世界を創造するときには創造の姿をとり、守護する際には維持の姿をとり、
 終末には破壊の姿をとる。世界でできている女よ。

 あなたは大いなる知、大いなる幻惑、大いなる叡智、大いなる記憶、
 大いなる迷妄、大いなる女神にして偉大な自在者。

 あなたは一切の根源であり、三つのグナを発現させる。
 あなたは非情な終末の夜、大いなる夜、迷妄の夜。

 あなたは富貴、あなたは女王、あなたは謙譲、あなたは覚醒を特質とする理知、
 そしてまた、慚愧、滋養、満足。あなたは寂静であり、寛容である。
 
 恐ろしいあなたは、剣と槍とこん棒と円盤と
 法螺貝と弓を持ち、矢と棘の棒と鉄の棒を武器とする。

 やさしいあなたはどんなやさしいものよりもさらにやさしく、とても美しく、
 あらゆるものの最高位者、あなたはまさに至高の自在者である。

 存在するものであれ、しないものであれ、いかなるものがどこにあろうとも、全世界そのものである女よ、
 その一切のシャクティ、それがあなたである。それならば、どうしてあなたをたたえられようか。

 世界を創造し、世界を守護し、世界を食べる者、
 そのような者でさえ眠らせてしまうあなたを、この世でだれがたたえることができようか。
 
 ヴィシュヌと私とシヴァに肉体をそなえさせたのは
 あなたなのだから、あなたをたたえるなどということが誰にできようか。

 あなたはそのお力によって、難攻不落のアスラである、マドゥとカイタバを惑わせよ。

 そして世界の主、ヴィシュヌを速やかに目覚めさせよ。
 二人のアスラを殺すため、彼を覚醒させよ。』

 創造主ブラフマ神にこのようにたたえられて、そのときその闇の女神は、
 マドゥとカイタバを殺すべく、ヴィシュヌを目覚めさせるために、

 ヴィシュヌの目と口と鼻と腕と心臓と胸から抜けだして、
 ブラフマ神の前に姿をあらわした。

 彼女から解放されて、救世主ヴィシュヌは、
 唯一の大海に浮かぶ大蛇の寝床から起き上がり、
 ブラフマ神を食らおうとはやるマドゥとカイタバを見た。

 そして尊き主ハリは立ち上がって、
 彼らと五千年間戦い、
 二人のアスラの頭を円盤で切り落とした。

 このように、彼女はブラフマ神にたたえられて出現したのである。
 この女神のお力について、さらに聞け。あなたに話そう。」
 
 

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