聖者の生涯『アドブターナンダ』(2)
また別の日、ラトゥはラーマクリシュナを訪ねてドッキネッショルにやってきましたが、そのときはちょうど、ラーマクリシュナが故郷の村に一時的に旅立っていたときでした。
しかしその話を聞いても、師に会いたいというラトゥの気持ちは決して弱まりませんでした。ラトゥは寺院のそばにあるガートに座って泣き始めました。
ラトゥは以前、ドッキネッショルのカーリー寺院を訪ねる者には、ラーマクリシュナは必ずお会いくださると、誰かから聞いていました。ラトゥはその信念を持って、夕方までそこに座り続けました。
寺院の者が、何度もラトゥに、「師は故郷にお帰りになった」と言いましたが、ラトゥは、
「いや、あなたはわかっていません。」
と言って、帰ろうとしませんでした。
1881年6月、ラーマクリシュナの甥で、ラーマクリシュナに使えていたリドイが、ドッキネッショルのカーリー寺院を去っていきました。そこでラームチャンドラは、ラーマクリシュナを心底愛していた召使の少年ラトゥを、ラーマクリシュナのもとへと送り出しました。そして二日後、寺院に来たラームチャンドラに、ラーマクリシュナ自身が言いました。
「この子がここにとどまるのを許してやっておくれ。彼はとても清らかな人間だ。」
ラームチャンドラは喜んで了承しました。こうしてこの日からラトゥはカーリー寺院に住み、師の召使として身の回りの世話をしながら、修行に励むことになったのでした。
ラトゥは愚直なまでに、ラーマクリシュナを愛し、ラーマクリシュナの言葉に従いました。
あるとき、ドッキネッショル寺院から、カルカッタのラーム・バーブという信者の家におつかいに行く途中、酒屋があり、その酒のにおいをかいだラトゥの心は、落ち着かなくなりました。それを聞いたラーマクリシュナは、酒のにおいを避けなさい、と言いました。するとラトゥはその後、ラーム・バーブの家に行くまでに、酒屋の前を通らないために、通常なら6キロの道のりを、大きく遠回りして13キロかけて歩くようになりました。これを聞いたラーマクリシュナは、ラトゥに言いました。
「わたしは酒屋の前を通ることを禁じたのではない。酒のにおいをかぐなと言ったのだ。酒屋の前を通るのはかまわないよ。私のことを思い出しなさい。そうすれば、酒がお前を惑わすことはできない。」
ラトゥは朝起きて一番最初にラーマクリシュナの顔を見、挨拶しなくては、一日を始めようとはしませんでした。
ある朝ラトゥが目覚めると、何かの理由で、ラーマクリシュナがいませんでした。ラトゥは、「どこにいらっしゃるのですか?」と叫びました。ラーマクリシュナは、「ちょっと待ちなさい。すぐ行くよ。」と答えました。ラトゥは師が来るまで目にしっかりと手を当てて目をつぶっていました。そして師がやってくると、手を離して目を開けて、挨拶をしたのでした。