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牝牛

 あるとき、ガンガーの向こうにあるドッキネッショル近郊のアリアダハという村からベルル僧院に乳牛を買うことになった。このためにスワミジ(ヴィヴェーカーナンダ)はニスチャヤーナンダとニルバヤーナンダの二人の弟子を他の僧たちと一緒にアリアダハに向かわせた。出発前にスワミジはニスチャヤーナンダに、「常に牝牛のロープをつかんでいるように。そうすれば逃げられることはないから」と指示した。
 舟に牛を載せてベルル僧院に向かってガンガーを渡っていたとき、河が急に荒れだし、船は大きく揺れだした。牝牛は非常におびえて、雨期のために氾濫している河に飛び込んでしまった。船の乗客は皆、この不幸な出来事を嘆いた。しかしニスチャヤーナンダは、師の言葉をしっかりと思いだし、ロープを握りしめたまま河に飛び込んだ。彼も牝牛も強い波に流されてしまった。
 しかしニスチャヤーナンダは冷静に牝牛を岸辺に近づけ始めた。悪戦苦闘の末、ようやく彼はサルキア近くでガンガーの西岸に到達した。岸辺は深い泥だったために、牝牛を河から陸に引き上げられなかった。びくともせず、彼は周囲を見渡し、厚い板切れが数枚あるのを見つけた。これらを集めて波止場のような形に組み、牝牛を引き上げた。そして彼は牝牛を連れて僧院へと歩いて帰った。これらの間中、彼は師の指示を固く守って、一度も牝牛のロープを手から離さなかった。
 その間にニルバヤーナンダたちは僧院に戻り、スワミジを含め全員がこの事故を聞いて深く動揺していた。そこに牝牛を引いてニスチャヤーナンダが戻ったので、全員、大喜びした。
 スワミジはニスチャヤーナンダをそばに呼び、「どうして牝牛のために愚かにも自分の命を危険にさらしたのか」と戒めた。ニスチャヤーナンダは、「マハラジ、あなたは牝牛を連れてくるようにわたしを送りました。どうして牝牛を置いて戻れるでしょうか」と謙虚に答えた。この答えにスワミジは非常に喜び、彼を祝福していった。「確かにその通りだ。牝牛を連れてくるようにわたしは言った。置き去りにしてくるわけにはいかない。君のような人にはそんなことは絶対にできないことだ!」

(「スワミジによって人生が輝いた人々」より)
 

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