ヨーガの基礎(2)
◎本来のアーサナのねらい
はい、そしてアーサナは、さっき言ったように、肉体から入る。つまり、肉体の操作によって気の流れを通していくというねらいがあります。で、まずはアーサナから始めますので、アーサナについてもうちょっと説明しましょう。本来のアーサナのねらい。
まずは現代的なフィットネス的なヨーガっていうのは、もちろんそれはそれで悪くないと思います。それはたとえば、心肺機能がアップしたり、あるいは体が柔軟になったり、あるいは新陳代謝が良くなったりとか、さまざまな肉体的効果はあると思います。ただそれは、もともとある西洋的なストレッチでも十分なんだね。もちろん西洋が悪いって言ってるんじゃないんだけど、西洋的な人体への考え方、あるいはこの宇宙に対する考え方というものが、東洋的な流れと根本的にちょっと違うんです。
まあ東洋というかインドって言ってしまってもいいけども。インド的な人間の考え方、それから西洋で進んできた人間というものに対する考え方が、ベースがかなり違うんだね。ベースが違うもの同士を合わせようとしても、なかなか無理があるんだね。だからインドのヨーガっていうものを、西洋的なストレッチ感覚でとらえようとすると、ストレッチの効果はあるんだけども、本来のインド的な人間論からくる効果っていうのは、ちょっと薄くなってしまうんですね。
じゃあヨーガが本来ねらっている部分っていうのは何かっていうと、もちろん今言った、身体の柔軟性や心肺機能や新陳代謝っていうのはよくなりますが、もうひとつ、内臓です。ヨーガは、みなさんもおそらく知っているアーユルヴェーダね。インド医学とも非常に関係があります。で、もちろん人間にとって内臓っていうのは非常に大事なわけですが、この内臓をいかに元気にするか。あるいは、炎症があったらそれを治していく。もしくは、ちょっとこう気が滞っているところがあったら通していく。それを、外的手術とか使わないで、肉体的操作でマッサージをしたり気を通したりして、なんとか内臓を活性化させようというねらいが、本来アーサナにはあります。
◎神経のコントロール
それから次が――これはヨーガが一番得意なところなんですが、神経です。つまり神経への意識的な刺激。そして、最終的には神経のコントロールをねらっています。つまりどういうことかっていうと、われわれが本来はなかなか自分ではコントロールしにくい自律神経とかね、交感神経・副交感神経といったものを、そのアーサナの動きによってコントロールしていきます。これはアーサナだけではなくて、呼吸法とかもそうですが。
例えばね、これは実際は複雑な問題なので単純ではないんですが、分かりやすく単純な話でいうと、アーサナって例えば、体を前に倒すアーサナってありますね。それから反らすアーサナってあります。その他ねじったりとか逆さになったりとかいろいろありますが、前に倒すアーサナは大体、副交感神経をねらっています。つまり、簡単に言いますと、われわれの意識が非常にリラックスして、体もリラックスして、ゆったりと緊張がなくなるようなねらいがあります。つまりそういう神経を刺激します。逆にぐーっと反らしていくようなアーサナっていうのは、交感神経を刺激しますので、われわれの意識がハイになります。つまり元気が出てきたり、やる気が出てきたりします。で、これをバランスよくやることによって、神経のバランスをとるんだね。第一段階で神経のバランスをとる。
つまり、現代人っていうのは、その自律神経のバランスがかなり崩れてるので、意識的に両方の神経を刺激することでバランスをとります。これを長く続けることで、最終的には、神経の動きを自分の意志の下においてしまいます。
つまり、もともとのこの「ヨーガ」ね。ヨーガという言葉の原義っていうのがいろいろあるんですが、御者がね、馬にこう手綱を結びつけて、うまくコントロールするみたいな意味がある。つまりわれわれが普段コントロールできない、逆にコントロールされてしまっている感情とか、神経とか、あるいは心の問題とか、いろいろあるわけですが、それをわれわれの深い意志で全部コントロールしてしまおうっていうのがヨーガのねらいなんです。
だからね、ちょっと今の話を関連付けると、ストレッチ的なヨーガじゃなくてちゃんとしたヨーガをやった場合、非常に効果があります。効果があるから、間違ってやると怖いんだね。たとえばですけど、前に倒すアーサナがありますね。これは副交感神経を刺激します。で、たとえばアーサナを習ってね、この前に倒すアーサナが非常に気持ちいいと。なんか心が落ち着いたと。安らかになったっていって、おれはこれだけやろうっていって、それだけをひたすらやっていたら、ちょっとうつ病的になります。つまり、副交感神経が刺激されすぎてしまって、非常に心が逆に落ち込んでしまいます。つまり、ねらいをちゃんと分かってないといけないんだね。
ただまあ、あまり難しく考えなくてもいいんだけど、今のことで言うと、つまり、前に倒すアーサナと反らすアーサナは、必ず両方やってください。もし自分で独学でやる場合はね。必ず両方入れてください。どちらかだけにすると、ちょっと神経の働きが偏ります。
こういったことがいろいろあります。ヨーガの中にはね。なぜかというと、ヨーガのいろんなシステムというのは、全部理由があるんだね。なぜこれをやるのかっていうのには、全部理由がある。で、それが、何度もいうけども、アーユルヴェーダであるとか、あるいはインドの伝統的な人体論を元にしているので、それを全部理解しろとはいわないけども、ある程度おおまかに理解してやらないと、ちょっと間違いが出てくる可能性もあります。だからその辺もいろいろと勉強していきたいと思います。
◎気の流れ
はい、そしてもうひとつ。三つ目が――これはさっき言ったことと関連しますが――気の流れです。これが一番重要といってもいい。どちらかというと、一番ねらっているのがこれです。
ただこれは一番とらえどころがないんだけどね。これは、みなさんがヨーガを進めて感じてもらうしかない。
気というのは物理的なものです。あいまいなものじゃない。物理的にわれわれの、今この瞬間もみなさんの体を気は流れています、もちろんね。ヨーガをしっかりやっていると、まず自分の体の奥深いエネルギーの動きなどに敏感になってきます。だから気の流れを普通に感じられるようになってきます。で、もっと進めば、さっき言ったように、気の流れをコントロールできるようになります。コントロールまでいかなくても、まず気の流れをしっかりと感じる。で、さっき言ったように、われわれの体中で気の流れが滞っている部分がたくさんあるので、それをこのアーサナやあるいは呼吸法などで通していくわけですね。
で、この「いかに気を通すか」。で、もうひとつは「いかに気を強めるか」――つまり、生命力を強めて、それを体中に通していく。これもヨーガのアーサナのねらいでもあります。
ヨーガの目的っていうのは、いろいろあっていいと思うんですが、簡単にいうとですよ、生命力が強まって気が体中に通ったら、病気しません。病気っていうのは、気の滞りなんだね。だからもし病気を治したいとか、あるいは病気になりたくない、健康体でいたいっていう人がいたら、今言った気をしっかり通していく。あるいは生命力を強めるようなヨーガっていうのは、非常に効果的ですね。
それから精神状態と気の流れというのも非常に関係があるので、気の流れが非常にスムーズできれいな状態になると、精神的な怒りであるとか、あるいはいろんな悩みであるとか、あるいはちょっと悪い考えとかっていうのは、非常に起きにくくなります。
これは私の横浜のヨガ教室でもよくある光景なんですが、たとえば会社帰りにね、ヨガ教室にやってきて、わたしに対していろいろ愚痴をいうわけですね。「会社の上司がちょっとひどいんです」と。「本当に信じられない」と。「もうどうにかしてやりたい」とか言っている。わたしはあまり聞かないで、「ああ、分かりました、分かりました」と(笑)。「とにかくヨーガやりましょう」って言って、アーサナやったり呼吸法やったりする。で、ちょっとさっき言わなかったけども、ムドラーっていうちょっと強烈な行法があるんですが、ムドラーとかが終わるころになると、ちょっともう顔が変わっているんです。ちょっと顔がすっきりしてきて、わたしに言ってくるわけですね。「先生、さっきわたし、変なこと言ってましたね」と。「上司が許せないとか、分け分からないこと言ってましたよね」と。
つまり精神状態が、ヨーガの気のコントロールによって全然変わっちゃうんだね。だからわれわれの精神状態っていうのは、この気の流れにかなり左右されているところが大きい。これもヨーガの訓練によって分かってきます。
そうなると当然、自分でそれを――つまり自分が幸せな方向に、あまりたとえば自分が怒ったりしない、悩んだりしないような方向に持っていくことができます。自分の意志でね。これもヨーガのより深いメリットだね。
-
前の記事
世界と縁、生きる意義 -
次の記事
今日の七人の聖者の言葉