パドマサンバヴァの秘密の教え（１１５）「劣った手段と優れた手段の不対立」

３．劣った手段と優れた手段の不対立

　ティソン・デツェン王は、偉大なる師パドマカラに、黄金のマンダラを捧げて言った。

「何と素晴らしいことだ！　偉大なる師よ！　
　どうぞ、劣った手段と優れた手段の対立を招かない教えの修習の方法をお教え下さい。」

　師はお答えになった。

「エマホ、偉大なる王よ！
　完璧な人間の身体と徳をそなえて、繰り返し王として転生するのは、非常に稀な事である。ダルマの王国を治めることは非常に大切である。

　世俗的な活動に関しては厳しい規則を設けるかもしれないが、すべての生き物に対して害を与えないように、菩提心を学ぶことが非常に大切である。

　あなたはこの幻影の身体を大変な愛しみを持って大切にするかもしれないが、死はいつやってくるかわからない。あなたの白髪や皴は死の前兆なので、いてもたってもいられない思いで、『ダルマの修習』という救済策に励むことがとても大切である。

　解脱の道への参入の因は、慚愧の念と謙虚さを保ち、悪業を避けることである。よって、誓いと教えを損なうことなく、遵守することが大切である。

　衆生はみな慈悲の対象なので、新しい知人に対して偏見を持たないようにしなさい。

　あなたのすべての従者、臣下、親族をダルマに導き、彼らを支えることが大切である。

　誰も決して十分な物や食べ物や富を蓄えることはできないので、それらを無駄にせずに、ダルマの為に用いることが大切である。

　信と帰依がない者は、口頭の教えの精髄を授けられないので、自分の師を信と帰依と信頼を持って敬うことが大切である。

　あなたの中にある仏性の智慧を見せてくれるのが師なので、確かな才能ある師から口頭の教えを受け、それを修習することが大切である。

　あなたが自らの身・口・意を凡庸なままにするなら、神の恩恵は受けられないので、あなたの身・口・意を、神やマントラや、本質的で概念を越えた状態に集中させることが大切である。

　あなたが自らの身・口・意において凡庸な行動を取ると、心が世俗の経験によってひどく興奮してしまうので、うまく悪友との付き合いを放棄して、山間に引き篭もる事が大切である。

　あなたの両親、兄弟、息子、配偶者は、通りすがりの旅人のようなものである。ずっと一緒にい続けることはできないので、彼らへの執着を断ち切り、輪廻の根源である異性を避けることが大切である。

　この世に於けるすべての功績と名誉と名声は、注意を逸らすものであり、障害なので、今生で夢中になっているものを諦めて、俗世の八つの垢を完全に放棄することが大切である。

　あなたの現在のすべての経験、多種多様の喜びと痛みの感情は、うわべだけのもので非現実なので、すべての現われ存在するものはまさに魔術の幻影や夢のように自存性に欠けているということに気付くことが大切である。

　心は野生の馬が気の向くままに野生を駆け回るようなものなので、常に注意深さと誠実さを持って念正智することが大切である。

　特定することが不可能な心の本質は、それ自身は本質的で自存で元来の覚醒状態なので、自分を検証して自分の本質を認識することが大切である。

　心をつかむことができても持続しないので、心の内側の自然な状態に注意を向けている間は、心と身体を弛緩させることが大切である。

　あらゆる改ざんや偽造はあなたの思考の二重の妄想なので、本来の状態へと解放している間、荒々しい思考の活動をリラックスさせることが大切である。

　達成へのすべての努力と試みは野心とつながっているので、あなたの思考を一掃し、努力と野心を持たないことが大切である。

　希望や恐れをさまよっている間は悟りの境地を得ることはできないので、心の本質の空性と非生起性は、獲得されるべき悟りの境地や、輪廻へと落ちることを越えているというところに帰着することが大切である。

　エマホ　
　王よ、聞きなさい！

　このように修習するなら、あなたが優れた手段と劣った手段の間で葛藤を覚えることはないであろう。
　マントラと、顕教的な手段や、カルマの法則、偉大な王よ、それらを心に留めておきなさい。

　この時代の終わりに、偉大なる王よ、あなたは転生の流れを断ち切り、輪廻を終わらせるだろう。

　生来の悟りの境地の覚醒状態があなたの中に現れ始め、あなたは絶え間ない繁栄を達成するであろう。

　これらの教えを貴重な宝として封印しなさい！」

　習熟と完成の融合についてのこのアドヴァイスを聞いて、王は大変喜んで何度も五体投地し、師の周りを歩き回って黄金の粉を撒き散らした。

　これは一般の教えと全く矛盾することのない重要なアドバイスの口頭による教えである。

　宝の封印をせよ。

　隠し場所の封印をせよ。

　委託の封印をせよ。