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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(74)

◎ある大物ラマとの謁見

 あるとき、カトクから戻ってきたパトゥルは、ゾクチェン僧院が見えるところまでやって来た。そこでは、偉大なるラマ、ジャムヤン・キェンツェー・ワンポが、三十七歳のときからずっと隠居修行に入っていたのだ。彼は死ぬまで独居にとどまるという誓いを立てており、一度も住居の戸口から出たことがなかった。

 その日、ジャムヤン・キェンツェー・ワンポは従者にこう言った。

「今日、ここに来る者は全員、私のところに連れてきなさい。」

 ある非常に重要な人物が、その日キェンツェー・ワンポ・リンポチェにお目にかかりにくるのだと、皆が思った。

 パトゥルが僧院に到着した。彼はいつも通り、遊牧民の民族衣装である古く擦り切れた羊の皮のチュバを着ていた。扉を開けたキェンツェー・リンポチェの従者に向かって、パトゥルは大声でこう言った。

「ディルゴ・ンゲドンに会いたいのだが!」

 そのときパトゥルは、”ジャムヤン・キェンツェー・ワンポ・リンポチェ”との謁見を願い出たのではなく、”ディルゴ・ンゲドン”に会いたいと言った。それはジャムヤン・キェンツェー・ワンポの幼少期の名前であった。
 戸口の近くにいた従者は、その名をよく知らなかったので、パトゥルにこう尋ねた。

「ディルゴ・ンゲドンとは誰ですか?」

「おお、私の古き法友の名だ。彼はドンサルのここで暮らしていると聞いたから、会いに来たのだよ。いくつか伝えたいことがあってな。」

 しばらくしてようやく従者は、パトゥルが言っている人物がジャムヤン・キェンツェー・ワンポであるということに気づいた。彼はパトゥルにこう言った。

「キェンツェー・リンポチェは今リトリートに入られています。ですから、今すぐにはあなたを入れることができません。少しここでお待ちいただけないでしょうか? 修行の時間が終わって、キェンツェー・リンポチェがお会いできるようでしたら、呼んできますので。」

「そうかい。あいつに会いに入ってはいけないということかね?」

「ええ、おそらくお会いすることができるとは思うのですが、待たねばなりません。そしてまずはわたしが許可をとらなくてはなりません。あなたが真っすぐにキェンツェー・リンポチェに会うことはできませんね。」

「ヤー ヤー! あの子ネズミにはキョロキョロと辺りを見渡す時間はたくさんあるのかもしれないが、私のような草の葉には、のらくら過ごす時間などないのだよ!」

 こう言うと、パトゥルは立ち上がって去っていった。
 従者はこう思った。

「あのヘンテコな男は一体何なんだ!」

 修行の休憩時間になり、従者はリンポチェの部屋に行った。
 キェンツェー・ワンポは従者にこう尋ねた。

「今日わたしに会いに誰も訪ねて来なかったのか?」

 従者は首を振って、こう言った。

「はい、特に誰も。」

 キェンツェー・ワンポは尋ねた。

「一人もか?」

「ええ……」

 従者は遂に折れてこう言った。

「ぶっきらぼうな遊牧民が一人立ち寄りましたけどね。ディルゴ・ンゲドンに
会いたいとか言って。しかし、『待てない』『一瞬も待てない』と言うので……」

「それは間違いなくパトゥルだ!!」

 キェンツェー・ワンポはそう言って、従者を叱りつけた。

「彼を探し出してこい! そしてここに連れ戻すのだ!」

 使者が、パトゥルを探しに送り出された。
 その頃パトゥルは、パルプンに向かって順調に歩を進めていた。
 パトゥルがゾンサルから数時間歩いてホルラ峠を越えようとしていたときに、僧院からの使者は遂にパトゥルに追いついた。

 使者は懇願した。

「どうか、お戻りください! ジャムヤン・キェンツェー・ワンポがあなたに会いたがっております!」

「おお、そうか。あいつが?」

 パトゥルは笑ってこう言った。

「ジャムヤン・キェンツェー・ワンポは、そんなに大物なのか! 昔、ディルゴ・ンゲドンとわたしは、マハーパンディタ・シェチェン・オントゥルから一緒に教えを受けた。その当時あいつは、黄色い絹の錦織のコートを着ていた若造に過ぎなかった。今となっては、わたしが中に入って謁見を許されないほど大物になったというわけか?」

 そしてすぐさまパトゥルはまた、パルプンの方向に向かって歩き始めたのだった。
 

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