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アディヤートマ・ラーマーヤナ(42)「スグリーヴァへの最終通告」

第五章 スグリーヴァへの最終通告

◎ラーマがシーターを思って嘆き悲しむ

 その間、その眩い山に住みながら、ラーマはシーターとの別離に極度に苦しまれて、次のように仰った。

「ああ、ラクシュマナよ! 見ろ、私のシーターが悪魔に無理やりさらわれてしまった。彼女が死んでいるか生きているかも未だわからない。彼女が生きているという知らせを持って来る者が、私の命を救ってくれるだろう。私はその者に非常に感謝するだろう。あの私の貞淑な妻の居場所が分かれば、アムリタが海から取り出されるように、私は彼女を力づくで取り返してやる。聞け、おお、弟よ、これは私の誓いである。シーターをさらった者は誰であろうと、その者の息子と兵隊諸共、灰と化してやろう。
 ああ! おお、月のような顔をしたシーターよ、お前が悪魔などの住処で私を見ることもなく生き続けねばならないなど、それが如何に哀れなことであるか、私には想像できる。私にとっても、月のような顔の妻と別れてから、この月光でさえもが、太陽光線のように熱いように思われる。
 ああ、月よ! ジャナカの娘のシーターに触れることであなたの光を冷してから、私の体に触れておくれ。あのスグリーヴァは残酷な者のようだな。あいつは私がどんなに苦しんでいるかを知らない。すべての敵から解放されて王国を手に入れた後、奴は女と内密に暮らし、わがままに酒に耽っている。それは奴が全くの恩知らずであるということの証明と言えよう。
 春が来たにもかかわらず、わが妻の探索を開始する合図がない。意地が悪く、考えなしであるゆえ、奴は恩人である私を忘れてしまったのだ。
 私は奴を都と一族諸共滅ぼそう。ヴァーリンと同じように、奴をあの世に送ってやろう。」

 ラーマがこのように怒りを示しているのを見て取るや、ラクシュマナはこう言った。

「あなたが望むことは何でも私に命じてください。ただちに私が行って、スグリーヴァを殺して参りましょう。」

 そう言うと、ラクシュマナは、弓と矢筒と剣を装備し、出発の準備を整えた。そこでラーマは彼にこう仰った。

「愛しき弟よ! スグリーヴァは私の近しき友だ。お前が殺すのは相応しくない。
 ヴァ―リンのように殺されるであろうと彼を脅すだけにするのだ。そのように伝えれば、彼はすぐに返答をくれるだろう。私はその後に為すべきことを決めよう。」

 それに同意して、偉大なる武勇を持つラクシュマナはただちに、言わばラーマの怒りの炎によって猿族諸共焼き払われることが決定されたキシュキンダーへと向かった。
 しかし、全智者であり、ラクシュミーと共に永遠に住まい、純粋意識の本性であるラーマは、なぜシーターとの別離から普通の世俗の男のように心を乱しているように見えるのであろうか? ブッディの目撃者であり、マーヤーとその影響を超越し、実際には執着と嫌悪の外側におられる彼が、なにゆえにマーヤーの影響、つまり世俗の悲しみに苦しめられているのであるか? この不可思議なることの答えはこれである。――ブラフマーの懇願を成就するため、ダシャラタ王の苦行に対する適切な恩恵を与えるために、彼は人間の姿をおとりになられた。それに加えて、マハーヴィシュヌご自身であられる彼は、輪廻に心奪われた者たちに、一切の罪を根絶させるための手段としてラーマーヤナの物語を提供することを望まれたのだ。ゆえに、彼は俗世間でどのようにして振る舞うのか、そして最も高い神秘性の人生に如何にして達するのかを人々に教えるために、ラーマとして人間の姿をとられたのである。そしてそのために、一切のプラクリティのグナを超越した御方である彼は、怒り、迷妄、欲望などに夢中になった者のように、時と環境に準じて、――実際に女性への愛情に支配された無力な男として振る舞われた。
 彼は実際には、純粋意識の権化であり、力である。彼はプラクリティのグナを超越した純粋なる目撃者なのだ。ゆえに、空が何にも影響を受けないように、彼は、欲望や怒りやその他の煩悩によって影響を受けない。無智の中にある世俗の者たちは、ラーマには執着や怒りや弱さがあると信じるであろうが、サナカや他のリシたちは、彼についての真理を知り、それによって彼に到達した。ゆえにこれも、心が純粋で、主への信仰を授かっている者によって悟られる真理である。
 不生であり、永遠に実在しておられる彼は、心の純粋さと霊性のキャパシティの程度に応じて、帰依者の前に正体を現されるのだ。

◎脅迫的なムードのラクシュマナ

 そしてラクシュマナはキシュキンダーの都に近づくと、弓の弦をはじき、すべての猿たちの心に恐怖を撒き散らした。すると、普通の猿たちは自己防衛のために、手に岩や木を持って荒々しい声を出し、守りを固めた。そのような威嚇してきた猿を見るや、ラクシュマナは彼らを全滅させようと、弓をしならせた。
 ラクシュマナの到着を聞くと、大臣の長であるアンガダは彼に会いにやって来たのだった。彼はすべての猿を追い払うと、ラクシュマナの側へ行き、彼に礼拝した。
 そして勝利者の物腰をしているラクシュマナは、アンガダを抱きしめると、彼にこう言った。

「愛しき友よ! ラーマ様は非常にお怒りだ。彼の命により、私はここに参った。この知らせを御身の叔父に伝えたまえ。」

 それに同意し、アンガダは急いで戻ると、スグリーヴァにラクシュマナの到着を知らせた。
 ラクシュマナがカンカンに怒りながら都の門に到着したことを聞いて、スグリーヴァは恐怖に怯え、彼が信用している大臣のハヌマーンを呼んだ。彼はハヌマーンにこう言った。

「即刻アンガダと共に赴き、ラクシュマナの怒りを静め、宮殿にお入りくださるよう、なんとかして説得したまえ。」

 このようにハヌマーンに命じると、猿の王はターラーにこう言った。

「御身も行って、甘い言葉でラクシュマナをなだめ、ここに来るように説得してくれないか。
 彼の怒りが静まった後、私は彼と会おう。」

 それに同意すると、ターラーは宮殿の中央区域へと行った。アンガダはハヌマーンと共に門に赴き、ラクシュマナに挨拶した。彼らはラクシュマナにこう言った。

「おお、偉大なる御方よ! おお、名誉ある御方よ! おお、英雄よ! ここを御身ご自身の家と見なして、お入りください。スグリーヴァとその妻に会見された後、われわれに為すべきことをご命令ください。われわれはそれに従うでありましょう。」

 偉大なる信仰を抱いてそう言うと、風神の子ハヌマーンは手をつかんで、ラクシュマナを通りの真ん中から宮殿の中へとお連れした。
 ラクシュマナは、四方八方に地域の長たちの巨大な住居を見ながら、インドラの住居に匹敵するほどの王の宮殿に到着した。
 そして宮殿の中央区域に来ると、月のように美しく、宝石で飾り立てられ、酩酊のような状態で眼を真っ赤したターラ―が彼に挨拶した。ラクシュマナに挨拶をした後に、彼女は微笑みながら彼にこう言った。

「ああ、縁者よ! あなたの幸福をお祈りいたします。あなたは気高き行為者であられ、あなたの帰依者たちには格段に愛を注いでくださいます。しかし何ゆえにあなたは、敬虔なしもべである猿の王に怒りを向けておられるのですか? 彼は長い間、絶え間なく悲しみと困難に苦しまれてきたのであります。そして今、彼はあなた方によって、その困難な状況から救われました。あなた方の恩寵により、彼は繁栄を取り戻されたのです。しかし、気高きスグリーヴァが、性欲の楽しみに夢中になってラーマ様のことを忘れているなどとは思いたもうな。ああ、主よ! 猿たちが四方八方から戻って来るでしょう。ラグ族の末裔よ! 一万もの猿が、山のような大きさの猿たちの強大な軍を結集するために、至る所に派遣されました。
 スグリーヴァは、自ら猿の軍と共に行き、ラーヴァナを含むすべての悪魔共を滅ぼすでありましょう。
 猿の王スグリーヴァは、ただちにあなたと共にラーマ様の御許に参ります。さあ、何とぞ宮殿に入り、一族の長であるスグリーヴァにお会いください。彼の恐怖心を取り除いたのち、彼を連れていってください。」
 
 ターラーの言葉で若干怒りが和らいだラクシュマナが宮殿の居住棟の中に入っていくと、スグリーヴァは妻のルーマーと共にベットに座っていた。ラクシュマナを見るや、スグリーヴァは酔っぱらったような状態で眼を回しながら極度に恐怖して、立ち上がった。そしてラクシュマナは憤慨して彼にこう言った。

「見下げた果てた奴だ! 御身は、ラグ族で最も偉大なる御方ラーマ様のことを忘れたようだな。覚えておきたまえ。あの英雄ヴァ―リンを殺戮した矢は、常にあの御方と共にあるということを。
 私に殺されることで、御身もヴァーリンと同じ道を辿るであろう!」

 このように厳しい口調でスグリーヴァを脅したラクシュマナに、英雄ハヌマーンはこう言った。

「何ゆえに御身はそのような口調で話されるのでありますか? この猿の王は、御身以上にラーマ様に献身しております。常にラーマ様のことに眼を光らせておりました。片時も忘れたなどということはございませぬ。一千万の猿がすでに到着しております。周辺を見渡してください。彼らはすぐにシーター様の探索を開始し、スグリーヴァ様はラーマ様の目的を完遂するでありましょう。」

 ラクシュマナはハヌマーンの言葉を聞いて、自分の行動を恥ずかしく思った。ちょうどそのとき、スグリーヴァが前に進み出てきて、適切な方法でアルギャとパディヤでラクシュマナを歓迎した。
 ラクシュマナを抱擁すると、スグリーヴァはこう言った。

「私はラーマ様のしもべであります。私はあの御方によって救われたのです。ラーマ様はご自分の力で、一瞬にして全世界を征服することもできます。わが猿軍はそのご計画におけるほんの一助に過ぎません。」
 
 ラクシュマナはスグリーヴァにこう言った。

「もしかすると、私はしゃべり過ぎてしまったのかもしれませぬ。おお、名誉ある者よ! 私はただ、御身に対する愛からすべてを話したのだ。どうか私を許しておくれ。おお、スグリーヴァよ! 今にでもラーマ様にお会いしに行こうではないか。あの御方はジャナカの娘のシーター様との別離のために悲しみに包まれながら、山の上にお一人でいらっしゃる。」

 それに同意して、スグリーヴァはラクシュマナと共に馬車に乗り込んだ。猿たちを引き連れて、彼はラーマの御許へと向かったのであった。
 太鼓やムリダンガなどの楽器の伴奏に合わせて、儀式用の白い傘や孔雀の羽の扇を備え、ハヌマーン、ニーラ、アンガダ、そして熊と猿の有力な従者たちが率いる大臣たちの一団と共に――スグリーヴァはただちに、ラーマの御許へと向かったのであった。

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