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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(5)

◎パルゲ・トゥルク、己の道をゆく

 パトゥルが二十歳くらいのとき、パルゲ・ラブランの有力な会計管理者オンポ・コンチョが亡くなった。彼の死後、パトゥルは完全にダルマの修行に身を捧げられるように、すべての世俗の仕事を放棄することに決めた。

 パトゥルは、自分の公式の邸宅を閉め、パルゲ・ラブラン屋敷のすべての財政上の仕事を整理した。彼が先代のパルゲ・トゥルクの生まれ変わりということで彼のものになっている物理的な富や資産をすべて捨て、師ジグメ・ギャルワイ・ニュグのように、パトゥルはすべての衆生のために悟りに到達するために、生活を簡素化する道を選んだのだった。

 一つの場所で修行し続けるという誓いを立てた師と違って、パトゥルは、一切の永住地を持たず、彼が育った遊牧民とよく似た、放浪出家修行者の伝統に従って、放浪修行者となる道を選んだのである。

 以下の詩は、トゥルクの社会的に高い地位、資産、所有物、快適な生活を捨てることを熟考して、パトゥルが後に書いたものではないかと言われている。

 お前の身分が高ければ、それは悪いこと。
 お前が罵られるならば、それは善いこと。
 地位が高ければ、自惚れや嫉妬が繁茂する。
 地位が低ければ、お前は安らぎ、お前の実践は繁茂する。
 最低の座というものが、過去の偉大な師たちの住処であった。

 お前が富を得たならば、それは悪いこと。
 お前がほとんど何も持っていないのならば、それは善いこと。
 富を得れば、それを増やしたり守ったりして、厄介である。
 何も持っていなければ、お前は修行において進歩する。

 最低必需品しか持たないならば、それは完璧なダルマの生活。

 パトゥルは、ある予言をされていた。埋蔵経(テルマ)の発掘者テルトンとなり、独身僧ではなく妻帯のヨーギーとして暮らさねばならなくなるであろう、ということを。――テルトンは多くの場合、グル・パドマサンバヴァが託したテルマを再発見するために必要とされるすべての吉兆なる縁を集めるために、霊的パートナーと交際する必要があるとされていた。

 しかし、パトゥルは結婚をする気はなく、厳格に独身の修行僧の誓いを固守したのであった。
 
 しかし、吉兆なる縁を壊さないために、そしてそれによって寿命を縮めるという危険にさらされないためにも、彼は、完全に具足戒を受けた僧(ビクシュ)の253の誓いではなく、見習い僧(シュラーマネーラ)の33の誓いを立てた。パトゥルは、ゾクチェン僧院のケンポ・シェーラブ・サンポから見習い僧の戒を受け、ジグメ・ゲワイ・ジュンネー(恐れなき善の源泉)という僧名をもらった。

 そして、彼がヨーギーになるという予言を無効にしないように、彼は僧の格好ではなく、在家者の格好をすることにした。しかし、他のあらゆる点においては、パトゥルは僧院の規律を純粋に完璧に守ったのであった。彼は、『毎朝托鉢をし、正午が過ぎたら食事をとってはならず、その日に必要な分以上の食物はとっておいてはいけない』という出家者の修行を行なったのである。

 厚手の白いフェルトのコート(チュバ)、または冬は羊の皮でできた衣服を着て、パトゥルは己の道を歩み始めたのだ。彼は托鉢用の鉢とティーポットとシャーンティデーヴァ著の入菩提行論の写し以外、何も持っていかなかった。馬には乗らずに、常に自分の足で歩いた。あるときは誰かと共に旅をし、あるときは独りで旅をした。彼は以下の師の教えに倣って生きたのである。

 どこで暮らそうとも、後には座った形跡さえもまったく残さずに去りなさい。
 どこを歩こうとも、足跡さえも残さずに去りなさい。
 ひとたび靴を履いたら、そこには何も残してはならない。

 今や、一般的な制約なく生き、パトゥルは自由の身となったのだ。予定というものがなく、彼の生活は無計画で、完全なものになった。彼は好きなだけ同じ場所にとどまり、移動すべき時が来たと感じたら、二の足を踏むことなく、さっと立ち上がり、出発した。

 この大胆な決意を決めた瞬間から息を引き取る時まで、パトゥルは放浪者であり続け、ダルマに全人生を捧げたのであった。

 パルゲ・サムテン・リンを去った後、パトゥルはゾクチェン僧院周辺の地域で暮らし、その僧院の大僧院長ミンギュル・ナムカイ・ドルジェ、そしてギャルセ・シェンペン・タイェから広範囲の教えを受けた。その期間中、学問を完全なものにするために、パトゥルはチベットのニンマ派の六つの主要僧院の一つであるチェチェン僧院にも赴いた。チェチェン僧院は、ナンドとゾクチェン僧院の間に位置し、1695年にシェチェン・ラブジャム・テンパイ・ギャルツェンによって発見された。そこでパトゥルは、トリピタカ(三蔵)、十三の偉大なる論説、そしてクンキェン・ロンチェン・ラブジャムとリクジン・ジグメ・リンパの作品、そして同様にチベットの仏教の伝統の主要な書物を学んだ。

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