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『アドブターナンダ』(3)

 ラーマクリシュナはほとんど正規の教育を受けていない無学の聖者でしたが、ラトゥはそれ以上にまったく学校教育を受けていない少年でした。そこでせめて基礎的な教育だけでも身につけさせようと、ラーマクリシュナ自ら、ラトゥにベンガル語のアルファベットを一通り教えようとしました。
 しかしラトゥの発音は正規のベンガル語の読みとはかなり違っており、ラーマクリシュナはたいそう面白がりながら、何度も彼の発音を正しました。師もラトゥも二人で笑い出し、その日の稽古はおわりになりました。
 三日間、この試みは続きました。しかし結局ラーマクリシュナはがっかりしてあきらめ、
「お前の本の勉強はもうやめだ」
と言いました。こうしてラトゥの教育は終わったのでした。

 インドでは、早朝の日の出前と、夕方の日が沈む時間は、昼と夜が交わる、最も神聖な時間とされています。
 ある日の夕方、ラトゥはぐっすり眠ってしまっていました。ラーマクリシュナはそれを見つけると、ラトゥを起こし、厳しく戒めました。
「夕方に眠ったら、いつ瞑想するのだ? 気づかないままに夜が過ぎるくらいに深く瞑想しなければならないのだ。なのにお前のまぶたは、すばらしいこの時間に眠りでふさがりそうだ。お前はここに寝に来たのか?」

 このように叱責されて、ラトゥの心に大変動が起こりました。ラトゥ自身、後にこのように語っています。
「師のお言葉を聞いて私が陥った深い悲しみをどうあらわしたらよいだろうか? 『私はなんと哀れな人間だろう』私は思った、『こんな神聖なお方のそばにいるというまれな祝福をいただきながら、時間を無駄にしている』――私は心を鞭打ち始めた。思い切って目に水を打ちかけ、ガンガーの河辺を足早に歩き出した。体が火照ってくると、戻って師のおそばに座った。またうとうとしたら、また歩き出した。こうして私は一晩中戦ったのだ。戦いは次の晩も続いた。ひどい戦いだった。日中眠りが私の目を打ち負かしたが、私はあきらめなかった。戦いは昼も夜も続いた。そしてついに、夜の眠りを征服した。しかし昼の眠りはだめだった。』

 
 ある日の夜明け前、ラーマクリシュナは、ラトゥを含む弟子たちを起こして、座らせて言いました。
「今日は主の御名を一心に繰り返して深くもぐりなさい。」
 そして皆を瞑想に入れると、ラーマクリシュナは歌い始めました。
「目覚めよ、おお、マザー・クンダリニーよ、目覚めよ!」
 そのように歌いながら、弟子たちの周りを何度も回りました。
 すると不意に、弟子の一人であるラカールの全身が、激しく震えだしました。そして同時に、ラトゥが叫び声を上げました。師はラトゥの肩に手を置き、ラトゥを押さえて言いました。
「立つな。そのままでいなさい。」
 ラトゥは激しい苦痛を感じているようでしたが、師はラトゥを立ち上がらせませんでした。そしてラトゥは通常意識を失いました。
 このように、歌を通じてさえ、ラーマクリシュナは弟子たちに霊的な力を注ぎ込んでいたのでした。

 あるときはラーマクリシュナは、ラトゥを瞑想のためにシヴァ聖堂の一つに行かせました。午後遅くになってもラトゥの姿が見えないので、様子を見に行くと、ラトゥはまだシヴァ聖堂の中で、汗びっしょりになって、不動の姿勢で深い瞑想に没入していました。ラーマクリシュナは自ら、ラトゥの体を扇で扇ぎました。
 しばらくして、ラーマクリシュナは言いました。
「さあ、もうたそがれ時だよ。お前はいつ明かりをともしてくれるのかい?」
 師のお声で、ラトゥはゆっくりと通常意識を戻し始めました。目を開けると自分の前に師がいらっしゃり、自分を扇いでいるので、びっくりして叫びました。
「何をしていらっしゃるのですか! これでは私の面目が丸つぶれではありませんか! おつかえすべきなのは私なのです!」
 師は愛情をこめて言いました。
「違うのだよ、私がつかえているのはお前ではなくて、お前の中にいらっしゃる主シヴァなのだ。こんな耐え難い暑さの中では、主は居心地がお悪かっただろう。主がお前の中に入ってこられたのを知っていたか?」
 ラトゥは答えました。
「いいえ、わたしは何も知りません。リンガ(シヴァ神の象徴)をじっと見つめていると、すばらしい光が見えました。その光が聖堂全体に満ち溢れたことを覚えているだけです。その後私は意識を失ったのです。」

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