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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(34)

◎パトゥルとある未亡人

 パトゥルは、ダチュカの北にあるゴロクの広大な高原を徒歩で旅していた頃に、ある三児の母である女と出会った。彼女は夫を、チベットの大草原に住む巨大な熊チャンタン・テモン――森に住むテモン(熊)よりもさらに危険な獣――に殺されてしまったのだった。

 パトゥルはその女に、どこへ向かっているのかと尋ねた。彼女は、夫を失ったことで貧困に陥ってしまったので、食物を乞いに三人の子供を連れてダチュカに向かっていると言った。そう言うと、彼女は泣き出してしまった。

「カーホ! 心配はいりませんよ!」

 パトゥルは言った。

「私が助けてあげますから。私もダチュカに向かっているのです。一緒に旅をしましょう。」

 彼女は同意し、共に数日間旅をした。夜には彼らは空の下で眠った。パトゥルは、一人か二人の子供を自分の羊皮のコートの中に入れて寝かせ、女性も同様に残りの子供をそのようにした。日中には、パトゥルは一人の子供を背負い、女性はもう一人を、そして三人目は二人の後ろを歩いてついていった。女が村や遊牧民の野営地で托鉢をすると、パトゥルは彼女の右側に並んで、ツァンパ、バター、チーズを乞うた。彼らが出会った旅人たちは、彼らを乞食の一家だと思った。誰も、その女のみすぼらしい連れの正体に気づくことはなく、とりわけ、彼女が未亡人になったばかりの女だとは気づかなかった。
 遂に彼らはダチュカに到着した。その日、その女は独りで托鉢に行き、パトゥルも独りで托鉢に行った。その晩、二人が托鉢から戻ると、未亡人の女は、パトゥルが陰気な顔をしていることに気づいた。
 女は尋ねた。

「どうされましたか? 何か悩んでいるようですが。」

 パトゥルはその問いには答えず、こう言った。

「なんでもありません。やっと仕事を終えたと思ったら、この地の人々が、そうはさせてくれないようです。まったく大したことがないことに大騒ぎしているのですよ。」

 女は驚いてこう言った。

「あなたはこの辺りで何の仕事をしていたのですか?」

 パトゥルは答えた。

「気にしないでください。さあ、行きましょう。」

 彼らは歩き出した。しばらく進むと、ある丘の中腹にある僧院のところで、突然パトゥルが足をとめた。そして振り返って、未亡人の女にこう言った。

「この中に用事があります。あなたも入ってきてもよいのですが、今ではなく、数日後に来てください。」

 女は言った。

「いいえ、離れないでください。一緒に行きましょう! 今まであなたは私にとても親切にしてくれました。私たちは夫婦になれますよ。もし夫婦になれないとしても、せめて私をあなたのお側にいさせてください。私は、あなたの優しさから恩恵を受けております。」

「いいえ、それはいけません。」

 パトゥルは断固として答えた。

「今まで、私はあなたの御手伝いをすることに最善を尽くしました。しかし、この地の人々は厄介者です。われわれは一緒に行くべきではありません。数日後にここに戻ってきてください。そうしたら、中で私に会えますから。」

 そしてパトゥルは丘を登って僧院へと向かい、未亡人とその子供たちは托鉢をしに丘の下へと降りて行った。

 僧院の中に入るや否や、パトゥルは、施物を拒むいつもの習慣に反して、自分に対して捧げられた供物を受け取り、それを必要としている自分の特別な客人のためにとっておくようにと指示をした。

 翌日、谷に住む者たち全員が、偉大なるラマの帰還の知らせを聞いた。

「パトゥル・リンポチェが帰ってこられたぞ!」

 人々は言った。

「入菩提行論の教えを説いてくださるそうだ!」

 老若男女、僧尼僧、在家修行者――皆が、偉大なるパトゥル・リンポチェの教えを聞きに駆けつけた。テントや食糧を積んだ馬やヤクを連れた人々の大群衆ができ始めた。あの未亡人も、その知らせを聞いて感激し、こう考えた。

「あの偉大なるラマが来られたのね! これは供物を捧げ、私の亡き夫に代わって懇願をするまたとないチャンスだわ!」

 他の人々と共に、彼女は三人の父亡き息子たちを連れて、丘を登って僧院に行った。そして貧しい未亡人一行は、パトゥルの教えを聞くために、大勢の群衆の中、離れた場所に腰を下ろした。彼女は遠すぎて、パトゥルの顔立ちがはっきりとわからなかった。説法の最後に、他の皆と同じように、彼女は偉大なるラマの祝福を受けるために列に並んだ。
 長い列がどんどん進んでいって、遂にその偉大なラマの顔が確認できるくらい近づいたとき、彼女はそのパトゥル・リンポチェが、あの親切で信心深いみすぼらしい道連れに他ならないということに気づいたのだった。
 信仰心と驚きに心動かされ、彼女はパトゥルに近づいていってこう言った。

「あなたが誰なのか認識できなかったことをお許しください! あなたはまさにブッダそのもののようです! あなたに子供を運ばせてしまったことをお許しください! あなたに結婚してくれなどと言ってしまったことをお許しください! すべてにおいて、私をお許しください!」

 パトゥルは彼女の懺悔を軽くはぐらかして、こう言った。

「そんなこと、深く考え過ぎないでください!」

 僧院の従者たちの方を振り向くと、パトゥルは言った。

「この人こそが、私が待っていた特別な客人です! われわれが特別にとっておいたバター、チーズ、食糧を、全部彼女にあげてください!」

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