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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(120)

◎ワンチュク・ドルジェの帰還

 ワンチュク・ドルジェは三年間、パトゥルの野営地で暮らしながら、教えを学び、修行していた。三年が過ぎると、ワンチュク・ドルジェはゾンサルに戻った。
 彼は馬に乗らず、歩いて帰った。四十人の大勢の従者ではなく、二人の助手に付き添われていた。木の杖を持ち、まるで乞食のような格好で、数冊の本といくらかのお茶を積んだ一頭の角のないヤクを連れて、ゾンサルに到着した。
 頭を剃り、みすぼらしい羊の皮のチュバ(コート)を身にまとったワンチュク・ドルジェがジャムヤン・キェンツェー・ワンポのところにやって来ると、偉大なるラマ、ジャムヤン・キェンツェー・ワンポは彼を一目見て、こう言った。

「髪を切ったのか!」

 ワンチュク・ドルジェはこう言った。

「世を捨てた修行者として生き、定住することなく、いろんな場所を放浪したいと思っております。」

 キェンツェー・ワンポは、不愉快になってきつく言い返した。

「何を言っているか!」

 そしてワンチュク・ドルジェにこう言った。

「放浪などするな! 隠遁地に定住しなさい。ネテン僧院に戻って、そこで修行をしながら暮らしなさい。しかし、まずは、切った髪をわたしにくれ!」

 普通、出家の儀式の際に切った髪は保存されている。ワンチュク・ドルジェは頭頂に巻いていた髪の房を一束、キェンツェー・ワンポにプレゼントした。その後、キェンツェー・ワンポはそれをゾンサル僧院の聖遺物箱に入れて、大事に保管したのだった。のちに、キェンツェー・ワンポは書物の中で、この聖遺物について言及して、こう言っている。

「あの髪一本一本が、一万のダーキニーの住処だったのだ。」

 ワンチュク・ドルジェは草原の真ん中にある小さな家に定住した。独身の修行者として隠遁地に住み続け、”善良な修行者”になる方を選んだと言っていた。

 それからしばらくたった頃――ある説では数日後、またある説では数年後――ワンチュク・ドルジェは突然、悪性の熱病にかかり、あっという間に息を引き取った。
 チョギュル・リンパのコックで、当時はジャムヤン・キェンツェー・ワンポの会計係だったペマ・ティンレイは、キェンツェー・ワンポにその悪報を知らせるという不運な役目を負った。ワンチュク・ドルジェの死の報せを耳にすると、キェンツェー・ワンポは深く動揺した。悟ったヨーギーの息子には、髪を切ることなど不必要だったのだと思いながら、キェンツェー・ワンポは叫んだ。

「気狂いパトゥルはワンチュク・ドルジェの髪を切り、出家させた!
 さあ、それで何が起こったか、見ろ! なんと悲惨な! これは、末世の現代には、ほんのわずかな徳しか存在していないことを示している。
 パドマサンバヴァは、このテルトンの息子が、東は中国との国境から、西はカイラス山まで、巨大な白い絹の布の敷布を広げていくように、テルマを広め、衆生を利するであろうと予言された。それなのに、パトゥルはすべてを台無しにしてしまった!」

 キェンツェーはそのとき、胸の前で拳と拳を合わせ、典型的なカムパのやり方で絶望感を表わした。

「吉兆な縁は続かなかった。」

 彼は非常に不機嫌な様子で、愚痴をこぼした。

「あいつは、残されたテルマを発掘し、広める者となるはずだったのに!」

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