ジャータカ・マーラー(19)「スタ・ソーマ」(1)
ジャータカ・マーラー 第十九話「スタ・ソーマ」
世尊がかつてまだ菩薩だったあるとき、クル族の末裔の王家の王子として生を受けたことがありました。父王はこの月のように美しい息子に、スタ(息子)・ソーマ(月)という名前をつけました。
成長した王子は、あらゆる技芸や徳目を身につけました。そして特に彼は、真理の法に関するもろもろの善き言葉を聞くことを愛好し、そのような言葉を説く人を大変敬って称えるのでした。
さて、あるときスタ・ソーマ王子は、城の護衛や女性たちと共に、ある美しい公園にやってきて、森の美しさと、女性たちとの遊びなどを楽しんでいました。
するとそこに、善き法を説くというブラーフマナが近づいてきました。ブラーフマナは、スタ・ソーマ王子の美しさに心奪われて、近くに座りました。
スタ・ソーマ王子は、女性たちとの娯楽を楽しんでいましたが、善き法を説くブラーフマナがやってきたのを見て、尊敬の心が生じ、ぜひ、善き法の言葉を聞きたいと思いました。
するとそのとき、突然、激しい騒音が生じ、女性たちは恐れおののきました。何があったのか護衛に確かめさせると、事情を調べた護衛は、慌てて大急ぎで戻って来て、王子に報告しました。
「王子よ、スダーサの息子であるカルマーシャパーダがやってきたのです。我々の軍隊は彼の恐ろしさに平静さをなくし、馬や象は混乱し、兵士は動揺して逃走しました。」
スタ・ソーマ王子はスダーサの息子のことを知っていましたが、あえてこう聞きました。
「このスダーサの息子というのは誰か?」
護衛たちは答えました。
「スダーサの息子のことをご存じないのですか? 以前、スダーサという名の王が、森の中で牝ライオンと性行為をしました。後にそのライオンは妊娠し、男の子を生みました。それを森の住人が発見し、スダーサ王のもとに連れてきました。『私には息子がいないから』と言って、スダーサ王はその子を育てることにしました。そしてスダーサ王の死後、その子は王位を継ぎました。
しかし母親がライオンだったので、彼はもろもろの肉を好んで食べました。そしてそのうち人間の肉の味を覚えてしまい、国民たちを次々に殺して食べ始めました。そこで国民たちは、王を殺そうと計画しました。それを知った王は悪鬼に助けを求め、『もしこの危難から逃れることができたら、他国の百人の王子を食べ、悪鬼たちに供養しよう』と約束しました。悪鬼たちの力で彼は危難を逃れることができ、そしてそれ以後、彼はたびたび他国の王子を誘拐し、殺し、食べるようになったのです。そして今おそらく彼は、あなたを誘拐して食べようと思ってやって来たのです。」
スタ・ソーマ王子は、以前からこのスダーサの息子のことを知っており、機会があれば何とか彼を救いたいと考えていました。そこで、彼が近づいてきたことを知って、スタ・ソーマ王子は恐れるどころかうれしい知らせを聞いたように思い、こう言いました。
「彼は人間の肉を貪るので王位を追われ、発狂したと非難され、自己の義務を放棄し、功徳も名声も失い、哀れな境遇に陥っている。
そのような彼がやって来て、どうして私に、恐れや動揺が生じることがあろうか。
怒りを用いることなく、私は彼の悪を打破しよう。
たとえここで私が逃げたとしても、まことに私に哀れまれるべき彼は、自ずから私のもとへ戻ってくるだろう。それゆえに私は、彼を歓待するのがふさわしい。
護衛たちよ、お前たちは、それぞれの役目に注意しておればよい。」
護衛たちにこう言うと、次に女性たちに言葉をかけて安心させた後、スタ・ソーマ王子は、一人でスダーサの息子のもとに近づいていき、こう言いました。
「おい、われこそはスタ・ソーマである。こっちに来い。そのような哀れな人々を殺すことに執着して、何になろう。」
するとスダーサの息子は、「俺もお前だけを探していたのだ」と言って、スタ・ソーマ王子を肩に担ぎあげると、ものすごいスピードで走り、自分の砦へと帰っていきました。