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シュリーラーマチャリタマーナサ(11)「神の化身」

「神の化身」

 バーラドヴァージャ仙人の問いを受けて、ヤージュニャヴァルキャ仙人は慈愛に充ちた笑みを浮かべながらこう問い返す。

「仙人よ。あなたは神の化身としてのラーマ様について、考えてみたことがありますか?」

 そして、話しはじめる。

「あなたが、心、体、行為のすべてにおいてラーマ様の信者であることを、わたしはよく知っています。あなたの聡明さもわかっています。ラーマ神王の神変不可思議なご功業の秘密を聞きたい一心で、まるで大馬鹿者のような愚問をあえて発せられました。

 兄弟、尊敬の念をもって注意ぶかく、わたしの話をお聞きなさい。これから、ラーマ神王の世にも麗しい物語について語りましょう。底知れず深く大きな無智の闇を、巨大な悪魔マヒシアスルに例えるならば、ラーマ様の物語は悪魔を退治するカリタ神なのです。悟道を得た聖者を、月の雫である月光を食って生きるチャコール鳥に見立てるならば、ラーマ様の物語はその神聖な月の雫、月光です。

 かつてパールヴァティー女神がシヴァ神に、あなたと似たような質問をされたことがあります。わたしはいま、パールヴァティー、シヴァ両神の話から始めることにします。そのときシヴァ様がパールヴァティ様に話されたのと同じ趣旨の話、その話をお聞きなさい。あなたの悲しみは、きっと癒やされましょう。

 太古の昔、世は宇宙世紀の第二期、神々の時代トレータユガのある時代に、シヴァ神がアガスティヤ仙人の道場を訪ねられたことがあります。世界の母、貞婦の鑑、愛妻サティー様もご一緒でした。アガスティヤ仙人は宇宙の主神の来訪を知って、うやうやしく礼拝を捧げます。アガスティヤ仙人はラーマ神王の物語を事細かに話し、主神シヴァ様は無上の法悦に浸りながら話を聞かれます。そのあと、アガスティヤ仙人は守護神ヴィシュヌ様に対する信仰の真髄について問い起こし、シヴァ様はアガスティヤ仙人の心が熟しているのを知って、ヴィシュヌ信仰の極意を解明されたのです。ラーマ様のご功業を語ったり聞いたりしながら、シヴァ様はそこに数日間滞在されました。それからアガスティヤ仙人にいとま乞いをして、愛妻サティー様を伴って住み家である聖カイラス山に向かって旅立たれたのです。

 地上の重く大きな苦悩を救うために、宇宙の守護者ヴィシュヌ神がラグ族の王子として降誕されたのは、ちょうどその頃でした。不滅の神は人身を受け、父ダシャラタ王の命令に従って王宮を出て苦行の生活に入られたのです。僧衣を身にまとい、刑苦の森をあてもなくさまよい続けておられました。

 シヴァ様がこのとき、どんなふうに神の化身に会ったらよいものかと、いろいろと思いあぐねておられました。(神は真実を秘めて下生された。いまわたしが神にお会いすれば、秘密が明るみに出てしまう。さて、どうしたものだろうか?)

 シヴァ様の悩みは尽きる間もありません。そころが、サティー様の方はいっこうに気がつかれないのです・・・・・・」

 トゥルシーダースは言う。

「シヴァ様は神の秘密が露顕するのを恐れられたが、一方では人身を示現された主をひと目でも拝みたいという、目もくらむほどの思いに耐えておられた。」

 ヤージュニャヴァルキャ仙人の説法はなおも、延々と続く。それを、トゥルシーダースふうにまとめてみる。

 悪魔の大王ラーヴァナは、創造神ブラフマー様に(人間の手によって殺されたい)という願掛けをして、願いを聞き入れられた。ラーマ神王は、創造神の神約を真実のものにしたいと願って人間界に生まれられた。

(いま、神の御許に行かなければ、わたしはきっとあとで後悔することになる)

 シヴァ様はそう考えられるが、どんな方法もうまく折り合いがつかない。シヴァ様が独り憂いに沈んでおられるときに、卑劣なラーヴァナは悪魔マーリーチャをつれてラーマ様のところに近づく。マーリーチャはその場で、黄金に輝く大鹿に化ける。うつけ者のラーヴァナは、策略をめぐらせてシーター妃をさらう。ラーヴァナにはラーマ様の真実の力がちっともわかっていなかったのである。逃げまわる大鹿を追いかけて射とめ、弟ラクシュマナ様ともども主が森の隠れ家に戻って来られると、住居は空っぽでシーター様のお姿はどこにも見当たらない。ラーマ様の双眸からは、とめどなく涙が溢れ出る。

 ラーマ様はいま、凡夫と変わらない。未練たらたら、妻との別れに身も心もうちひしがれて嘆き悲しんでおられる。全智全能の神にとっては、本来出会いも別れも真実には存在しないはずである。それなのに、ラーマ様はいま目の前で現実に、あられもなく取り乱しておられる。

 ラーマ様のご功業はきわめて特異で、常識の粋を越える。真理を悟得した者にしか、実態は理解できない。愚鈍な者はとかくうわべに惑わされて、真実とはかけはなれたことを信じこみがちである。まことに人間臭いラーマ様のお振る舞いを見て、シヴァ様はとても喜びを感じておられる。慈悲の心は身よりも深く、威光はあまねく三界を照らす、宇宙の主神の化身を一心に見つめられる。しかし、まだその時機ではないと考えて、シヴァ様はあえて名乗られない。

「下界の汚辱を浄めるために降誕された、宇宙の根本原理、情意、歓喜の象徴、ヴィシュヌ神の化身に勝利あれ!勝利あれ!」

 そう呟くと、シヴァ様は黙ってその場を離れられる。シヴァ様は愛妻サティー様を伴って、内心の喜びを抑えかねながら先へ進まれる。

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