クリシュナ物語の要約(1)「ヴァスデーヴァとデーヴァキーの結婚」
クリシュナ物語の要約
(1)「ヴァスデーヴァとデーヴァキーの結婚」
かつて、何百万という魔族の者たちが、傲慢な王として地上に生まれ変わり、それが非常に重荷となったため、大地の女神は苦しみのあまり、ブラフマー神に庇護を求めました。
大地の女神の訴えを聞いたブラフマー神は、他の神々たちとともに、大地の女神を連れて、至高者ヴィシュヌの住居である乳海に赴き、ヴィシュヌに祈りを捧げました。
そして至高者ヴィシュヌからメッセージを受け取ったブラフマー神は、他の神々にこう告げました。
「神々よ。至高者が告げられた言葉を、今から伝えるゆえ、心して聞かれるがよい。
そしてその指示にあなた方はただちに従い、一刻の遅れもあるべきではない。
大地の女神が味わっている苦しみは、すでに至高者はご存じである。
あなた方神々は、化身としてヤドゥ族に降誕し、主が大地の重荷をのぞかれるまで、そこにとどまるのだ。
至高者ご自身が、やがてヴァスデーヴァの家に降誕されるであろう。そして天界の女神たちも、主の喜びに貢献するため、地上に生をもつであろう。
至高者の部分的顕現であるアナンタ(千の頭を持つ蛇の神)が、主の喜びに献身することを願い、主よりも先に、主の兄として、地上に降誕されるであろう。
そして全宇宙を魅了する、主ヴィシュヌのヨーガマーヤーも、主のお仕事を手伝うため、主の命令に従い、部分的顕現として地上に降誕されるであろう。」
このように神々に告げると、ブラフマー神は、喜びに満ちた自分の住居(サティヤローカ)に帰って行きました。
さて、ヤドゥ族の王シューラの息子であるヴァスデーヴァは、デーヴァキーという女性と結婚式を挙げた後、自分たちの新居に向かって、馬車で移動していました。
そのとき、デーヴァキーの兄であるカンサは、妹の結婚を喜び、自らその馬車の手綱を握り、御者となっていました。
ところがその時、天から姿なき声が生じ、カンサにこう告げたのでした。
「ああ、なんと愚かな男だろうか。お前が手綱をひく少女から生まれる八番目の息子が、お前を殺すであろうに!」
邪悪な心を持つカンサは、その声を聞くと、ただちに妹のデーヴァキーの髪の毛をつかみ、剣で殺そうとしました。
それを見たヴァスデーヴァは大変驚き、カンサに懇願してデーヴァキーの殺害を思いとどまらせようとしましたが、カンサは聞き入れませんでした。そこでヴァスデーヴァは、熟考の上、デーヴァキーを助けるために、カンサにこのように言いました。
「ああ、偉大なるお方よ。今後、デーヴァキーから息子が生まれるたびに、私はその子をあなたに手渡すようにいたしましょう。ですからデーヴァキーの命はお助け下さい。」
ヴァスデーヴァは常に真実のみを語り、嘘をつくことができない男でした。それを知っていたカンサは、ヴァスデーヴァの提案を聞いて喜び、デーヴァキーを殺すことを中止したのでした。
やがて時が来ると、デーヴァキーは息子を出産しました。
決して嘘をつくことができないヴァスデーヴァは、心の中でひどく苦しみながらも、自分がかつて約束した通り、その子をカンサに差し出しました。
しかしカンサは、喜びながらこのように言いました。
「この子供はお前に返すことにしよう。なぜなら私は、この子からは何も恐れることがないからだ。私は、お前の八番目の息子から殺されると予言されたのだから。」
こうしてヴァスデーヴァは、息子を殺害されることから免れ、家に帰って行きました。
するとしばらくして、計り知れない力を持つ神仙ナーラダが、カンサの住む宮殿を訪れ、カンサに次のように告げました。
「ナンダをはじめとするヴラジャの牛飼いたちとその妻たち、そしてヴァスデーヴァなどのヴリシュニ族、さらにデーヴァキーなどのヤドゥ族の女性たち、それらの一族や友人などのほとんどすべては、神々の生まれ変わりなのです!」
そしてさらにナーラダはカンサに、地球に重荷になった魔族をすべて滅ぼすという、神々の計画について知らせたのでした。
カンサは、自分の前世が強大な悪魔カーラネーミであり、そのとき至高者ヴィシュヌに殺され、今生カンサとして地上に生まれ変わったことを理解しました。そして再び今生、自分と魔族を滅ぼすためにやってきたという神々の生まれ変わりであるヤドゥ族に、深い敵意を抱きました。
さて、ナーラダのような偉大な神仙が、なぜカンサをそそのかすように、神々の計画を明かし、カンサの怒りに火をつけるようなことをしたのでしょうか?
それは、悪が広まれば広まるほど、至高者の地上への降誕も早まり、至高者による地上の救済の時期も早まるからなのです。
大いなる見地からいうならば、悪の心を持つ者は、至高者から悪魔としての役割を与えられて、主の遊戯(リーラー)に貢献させられているのです。
その大いなるリーラーを早く進めるために、ナーラダはカンサに神々の計画を告げ、カンサを怒らし、彼が早く多くの悪業を積むように仕向けたのでした。
さて、ナーラダから神々の計画を聞き、さらに至高者ヴィシュヌ自身が、自分を殺すためにデーヴァキーから生まれることを知ったカンサは、ヴァスデーヴァとデーヴァキーを鉄の鎖で縛り、幽閉してしまいました。そしてデーヴァキーから息子が生まれるたびに、次々と殺害していったのでした。
さらに邪悪なカンサは、ヤドゥ族とボージャ族、アンダカ族の王であり、自分の父でもあるウグラセーナも牢獄に幽閉し、自らが邪悪な王となって、人々を支配するようになったのでした。
こうして悪の力は増大し、いよいよ至高者の降誕の日が近づいていったのです。
つづく
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